◎マグロ漁獲規制 「育てる漁業」がより重要に
クロマグロに続いて、メバチマグロの漁獲量が削減される見通しが強まってきた。北陸
はそれほどでもないとはいえ、マグロ好きといわれる日本人にはつらい時代である。マグロに限らず、水産資源を大量に捕獲し、大量に消費する日本人の食生活が今、問われているともいえよう。
能登の豊かな海で、クロマグロを大きく育てて出荷する蓄養事業が来夏から珠洲市沖で
始まる。こうした「育てる漁業」は、これから大きなビジネスにつながっていく可能性がある。長い歴史を誇る富山湾の定置網漁のノウハウなどは、マグロの蓄養にも応用できるのではないか。
中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)事務局は、メバチマグロの漁獲量を30%
削減する案を各国に提示した。昨年の年次総会では25%削減が示されたが、各国の意見調整がつかなかった。今回はWCPFCの科学委員会の勧告を受けての提案であり、漁獲量が20%削減されるクロマグロに続いて、削減案が受け入れられるかどうか注目される。
メバチマグロは、マグロ類のなかでは「普及品」の扱いで、スーパーなどでは、刺身や
すしネタとして手ごろな値段で売られている。資源の枯渇が心配されている最高級品のクロマグロだけでなく、比較的資源が安定しているメバチマグロまでが削減対象になってきたのである。日本食ブームを追い風に、世界各地でマグロの消費量が右肩上がりで増えており、日本だけが資源を独占できた時代はもう二度と来ないだろう。
いずれ漁獲量が削減されるのを見越して、育てる漁業に本腰を入れていく必要がある。
特に珠洲沖で始まる蓄養事業は、曲がり角に立つ漁業の新たな方向性を示すもので、過疎対策としても秀逸である。巻き網漁船が捕ったクロマグロをそのまま海のイケスに移し、エサを与える。トロの部分が約三倍、市場価格も三倍ぐらいになったところで、市場に出荷する。
雇用を含めて地元にさまざまな需要が生まれるほか、水産加工業や観光業にも大きな刺
激となるだろう。クロマグロを能登の味覚として、売り出す夢も膨らむ。
◎農水省幹部処分 汚名返上へ意識改革を
農林水産省は汚染米不正転売事件で事務次官ら幹部職員二十五人に対し、減給などの処
分を行った。幹部職員の責任を厳しく問うた有識者会議の報告書を受けた当然の措置である。農水省として事件のけじめをつけた形であるが、最も肝心なのは職員の意識改革を徹底することである。一部で省解体論も出るほどの汚名を返上できるかどうかは、これからの取り組みにかかっていることを肝に銘じてもらいたい。
今回の事件について、内閣府の有識者会議の報告書は「事故米の有害性を認識しながら
、食の安全よりも早期売却を優先させ、不正流用の防止策を何一つ講じなかった」と断じた。不作為によって消費者の安全を脅かした農水省担当者の責任は重い。報告書でさらに重要なのは、自分の職務が国民の安全につながっているという自覚や責任感が欠如し、目先の仕事をこなしていればよいという官僚主義的体質が事件の背景にあると指摘している点である。
農水省は事件を契機にコメ流通システムの改革に乗り出し、コメ製品の原料の原産地表
示を義務化することや、流通経路の追跡を可能にするトレーサビリティー制度の導入などを計画しているが、その前に先ず問われるのは農水省職員の自己改革力である。
事件の経過を見て思い出されるのは、BSE(牛海綿状脳症)問題に対する当時の農水
省の対応である。外部から再三警告を受けながらBSEの国内発生を許し、対策の一つとして牛肉のトレーサビリティー制度を義務づけた。汚染米不正流通でも、情報提供を受けながら漫然とした検査で見逃した揚げ句、牛肉と同様の対策を打ち出すに至っている。
BSE問題の反省が生かされていれば、汚染米不正転売はこれほど拡大しなかったので
はないか。BSE担当部局以外の職員の多くは、BSE問題を人ごとのようにとらえ、食の安全を守る意識が省内全体に徹底されることがなかったのだろう。流通の仕組みを改革をしても、職員の意識改革が進まないと、食の安全でまた同じ轍を踏むことになりかねない。