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【社会】

大学から産科医、苦肉の“処方” 特別手当の支給 公立病院で拡大

2008年12月2日 13時57分

産婦人科医の確保に向け、手当の導入を決めたさいたま市立病院=さいたま市で

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 全国的な産科医不足を受け、公立病院が分娩(ぶんべん)件数に応じ、産科医に手当を支給する動きが首都圏で広がっている。提携先の大学から医師を派遣してもらおうという狙いだが、大学側にも産科医不足の事情があり、派遣が受けられないケースも。手当をめぐり、自治体間で医師の“奪い合い”にも発展している。 (さいたま支局・鷲野史彦)

 「高額な手当とは思うが、体制確保に必要だと決断した」

 さいたま市立病院は、来年一月から合併症の妊婦などハイリスク分娩を担当する医師一人に、給与とは別に一回の分娩につき十万円を支給する方針だ。

 危険性の高い出産に二十四時間体制で対応する周産期母子医療センターである同病院は、提携先の慶応大学の医局から産科医の派遣を受け、八人の定員を確保してきた。

 本年度末にうち数人が異動の見通しだが、同大から「後任は難しい」と説明された。同病院は新制度の手当として年間総額約二千万円を見込み「慶応大が無理ならほかにも声を掛けたい」と話す。

 横浜市立市民病院でも今年四月からリスクにかかわらず、分娩一件につき医師一人一万円の支給を始めた。同病院は横浜市立大から派遣を受ける。同大系の神奈川県小田原市立病院が二〇〇六年十月から同額の支給を始めており、大学側から「若い医師が条件のよい方に流れる」と助言があったという。

 小田原市は、これに呼応するように、今年四月から手当を三万円に拡大。「子育て支援のためには、仕方ない」と打ち明けた。

 東京慈恵会医科大から派遣を受けていた同県厚木市立病院は昨年八月、「大学病院自体の産科医が不足している」などの理由で四人の常勤医を引き揚げられ、産婦人科の閉鎖に追い込まれた。

 存続のため昨年十一月から、出産担当医に月額八十三万五千円の手当などを導入。今年十一月までに三人を採用できた。しかし、帝王切開などの異常分娩には対応できないため、産科を再開できず、手当の支給がないまま二人は退職。病院は「大学医局からの派遣がない医師の確保がこれほど難しいとは」と頭を抱える。

 一件二万五千円の分娩手当を設けた同県大和市立病院も、慶応大からの派遣が受けられず、今年十一月十日から新たな分娩の受け付けを休止した。八病院で受け入れを断られた妊婦が死亡した東京都も四月に一件四千七百五十円の異常分娩手当を創設したが、医師不足は解消していない。

 日本医学ジャーナリスト協会の松井宏夫副会長の話 国は医学部定員を増員する方針だが、効果が表れるのは十年後。近隣自治体が一カ所に医師を集約したり、絶対に妊婦の受け入れを断らない病院を県内で一カ所設けるなどで対応するしかない。研修医を産科に誘導する仕組みをつくる必要もあるのではないか。

(東京新聞)

 

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