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社説:内閣人事局 先送りした分、強い組織に

 付け焼き刃の組織で見切り発車するよりは「まし」かもしれぬ。公務員制度改革の焦点である内閣人事局について政府は来年度の発足を断念、10年4月に先送りする方針を固めた。

 さきの国会で成立した国家公務員制度改革基本法が目指す各省人事の一元化を実現するうえで、内閣官房に置く人事局の位置づけは重い。ただ、どんな機能と権限を与えるか議論が生煮えなのも事実だ。先送りは不本意だが、拙速を避ける意味でやむを得まい。

 基本法は今年6月、与党と民主党が修正合意し成立した。中央省庁の省益優先を改めるため、幹部人事は官房長官が候補名簿を作り、首相や閣僚と協議する方法に変える。キャリア制度である1種試験廃止など採用から退職までの人事体系も見直す。13年までの改革を目指すプログラム法だが、人事局は来夏までに設置法案を国会に提出するよう定めている。

 人事の一元管理を機能させるには、人材評価や企画立案を行う能力を備えた「強い人事局」が必要だ。このため官僚勢力の警戒は強く、総務省から一部の組織を移し替えお茶を濁そうとする動きすら出ていた。

 政府の推進本部の顧問会議が先月まとめた組織案は人事院や財務省の機能の一部も移管させ、それなりに権限に配慮したものだった。しかし福田内閣退陣に伴うもたつきがたたり政府内の調整は進まず、どこまで権限と機能を与えるかの議論も不十分だ。来年度発足に間に合わせるため結論を急げば結局、「看板」だけに骨抜きされかねないのが実情だった。

 時間をかけ調整を進める以上、強力な人事局の実現が前提となるのは当然だ。各省幹部人事の一元管理について人事局の関与と幹部選抜までのプロセスを詳細に詰めておくことが肝要だ。一方で、政治主導の名の下に人事が恣意(しい)的に行われ中立・公正が損なわれてはならない。チェックの在り方についても議論を進めるべきだろう。

 また、給与、勤務条件など公務員の待遇に関する権限を人事局にどこまで移すのか、人事院との関係で整理がなお不十分だ。現在の人事院勧告は国家公務員の労働基本権制約の代替措置だが、基本法は非現業公務員に労働協約締結権を認める方向を打ち出している。労働基本権制約の見直しに応じた人事局像を、段階的に設計する必要がある。

 一連の経過で目立つのは、公務員改革にもともと不熱心と指摘される麻生太郎首相から、明確なメッセージが発せられないことだ。政府は工程表を作り改革後退の印象打ち消しを図るが、民主党との合意形成にも留意しなければ、入り口で改革全体が頓挫しかねない。省庁人事にメスを入れ縦割り行政の打破を目指すという、原点を忘れてはならない。

毎日新聞 2008年12月2日 東京朝刊

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