
机に向かって30分。
気合を入れて始めてはみたものの、なんだかちょっと変な感じ。
変な感じの原因は多分亜弥ちゃん。だって怒らないし怒鳴らない。
小さな声で、のんがヘンテコな間違いをしても睨むだけで殴らない。うー、調子狂っちゃうなぁ。
亜弥ちゃんは時々チラリとよっちゃんが寝てる(はずの)部屋を見る。気になるのかな、気になるよね。
怒鳴らない、声が小さいのもよっちゃんの事、気にしてるからなのかな?
「ほら、ぼけっとしないでさっさとやる!」
考えてたら小さな声で亜弥ちゃんに怒られた。スミマセン。
鉛筆を動かしながら亜弥ちゃんをこっそり見るとホラ、また見てる。
やっぱ気にしてるんだよ、口ではけちょんけちょんに言ってたくせに。
机の下でこっそり足をつつかれる。何だ?
後藤さんを見ると大きな目でウインクされた。後藤さんも同じ事思ったのかな?
亜弥ちゃんは全然普通な顔してそれでもまだよっちゃんが寝てる部屋を見てる。
よっちゃんと亜弥ちゃん、やっぱ似てるね。
後藤さんにウインクを返した。さあ、のんは宿題を頑張らないと。
亜弥ちゃんのためにもよっちゃんのためにも、それと、自分のためにもね。
のんは一生懸命脳味噌フル回転。後藤さんは隣でお絵かき。たまーに問題解いてみたり。
亜弥ちゃんは時折立ち上がってよっちゃんの様子を見に行ってる。その手には絞ったタオルだったりお水の入ったペットボトルだったり。
そんな亜弥ちゃんの邪魔をしたくなかったからのんはなるだけ自分の力で頑張った。自分の宿題だしね。
後藤さんも一緒になってやってくれたりしたけれど、それでもやっぱりのん達の頭には限界があるわけです。
なので本当に申し訳ないんだけど亜弥ちゃんをちょいちょいと呼んで手伝ってもらったり。
亜弥ちゃんは嫌そうな面倒臭そうな顔をするけどそれでも文句も言わずスラスラと問題を解いていく。
うひゃあ、やっぱ頭いーね。サラサラ流れてくみたいに手が止まらない。
こんな面倒臭いの早くかたしちゃおうってのとよっちゃんの事も気になってるのかな、今日はとんでもなくハイスピード。
のんと後藤さんはそれをただただ見てるだけ。
ポカーンと口を開いたまま亜弥ちゃんの「はい出来た」の言葉にも「凄いね」の一言しか出てこない。
ん?でも待って、今亜弥ちゃんなんて言った?
「はい、これ出来たからさっさとカバンしまう!」
えー!!うそうそホントに!?
亜弥ちゃんから返ってきた問題集をそっと開く。お、お、おー!!!凄い、最初から最後までキチンと出来てる!!
のん、こんな問題集最初から最後までキチンと埋めたの初めてだよ!!凄い、亜弥ちゃんって天才かもしんない!
うわーすごいなー。後藤さんと二人でノートチェックしてたら亜弥ちゃんに殴られた。アンタ達アタシ馬鹿にしてんの?って。
そんな、馬鹿にするだなんてとんでもない!感謝感激雨アラレ。亜弥ちゃんのスベスベほっぺにチュウしたいぐらいだよ!
なんて事を言ったら本気で引かれてのんはちょっと悲しかった。
そんなのんの悲しい気持ちに追い討ちをかけるみたくして亜弥ちゃんは悪魔の一言を放った。
「のんちゃん。覚えてるよね、約束」
そりゃあもうトローンと甘い声でニッコリあややスマイルまでつけて言うものだからのんの背筋はゾクゾク。
とっても可愛いんだけどとっても怖い。
のんの隣で後藤さんは「約束?」と首を傾げてる。亜弥ちゃんはただニコニコ笑うばかり。
むう、今すぐって事か。しょーがない。約束だ。それに亜弥ちゃんには本当に感謝してるんだもんね。
「じゃあのん今からちょっとコンビニ行ってくんね」
「ほーい行ってらっしゃい」
亜弥ちゃんはさっきからずっとあややスマイルを崩さない。もう、わかってるのに。
お財布もって出かけようとすると「スポーツドリンクも買ってきて」と後ろから亜弥ちゃんの声がした。
スポーツドリンク?あ、よっちゃんのか。
「りょーかい!」
亜弥ちゃんに返事をしてよっちゃんのお家を出た。
おー。外に出ると思いの他肌寒くてびっくり。空はもう暗くて空気はカラカラ乾いてて透き通ってる。
意外と星が沢山見えるんだなぁなんて思いながらコンビニに到着。
よっちゃんのためにスポーツドリンクと亜弥ちゃんのためにハーゲンダッツを買ってよっちゃんちに戻った。
のんのお財布が寂しくなっちゃった事なんて言うまでもないよね。あーガックシ。でも宿題は終わったもんね。
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