
もう完璧に覚えてしまったよっちゃん家までの道のり。
今は亜弥ちゃんもいるけど、のん一人でもきっと迷わずに行ける自信があるよ。
二つ目の駅で降りて、駅を下りたら左に出て線路沿いの道を歩く。真っ直ぐ行ったり角を曲がったりしばらく歩くとホラ、見えてきた。
階段を上がって二階の一番奥。
ピンポーン
しばらくするとドアが開いて出てきたのはボサボサ頭のよっちゃん。寝てたのかな?
「何だお前たちか、ホラ、さっさと入れ」
頭を掻きながら面倒臭そうに言うよっちゃん。おーう何だか優しいな。
いつも嫌そうな顔して玄関越しに亜弥ちゃんと言い合ってるのに。珍しい。
「・・・ひーちゃん、調子悪いの?」
靴を揃えていた亜弥ちゃんが腰を上げてよっちゃんに言う。
え?調子悪いの?のんにはただ眠そうにしてるようにしか見えないけど・・・。
「んなこたないよ、全然元気元気」
よっちゃんはヘラヘラ笑うけど亜弥ちゃんの視線は鋭い。
二人の間に挟まれて何だかのんは変な感じ。うーんむずむずするなぁ。
「のの」
あ、ごとーさん!よっちゃんの後ろから手招きしてる。
助かった、後藤さんに誘われるみたくしてのんは二人の間から抜け出した。
「今日も宿題?」
後藤さんはのんのカバンを指さして聞いてくる。
のんは頷くけど、よっちゃんの事が気になってしかたない。後藤さん、何か知ってるかな?
「ねぇ後藤さん、よっちゃん今日なんか変だった?」
「んー・・・、いっぱい寝てたけど・・・」
後藤さんはそう言って鼻の頭にしわを寄せた。分かんないかなぁ。
よっちゃんどうしたんだろう。のんには全然いつもどうりにしか見えないよ。
「ちょ、やめろって!」
大きな声がして膝の間に埋めていた頭を上げると、亜弥ちゃんがよっちゃんの首根っこをつかんでいた。
わーおバイオレンス。
「うるさいさっさと寝ろ!」
どうしたんだ、のんと後藤さんは二人でさっぱりわけわかめ。
ボフッと音がして、多分よっちゃんがベッドに投げ出されたんだ「ちゃんと寝てるんだよ」と亜弥ちゃんの声がしてピシャリとドアが閉められた。
のんはポカーンと口を開いたまま。目の前でパチンと手を叩かれて誰かと思えば後藤さん。スイッチはオンになった。
「あ、亜弥ちゃん、よっちゃんどうしたの?」
のんが聞くと凄い勢いでギロリと睨まれた。そ、そんな睨まなくても。
「馬鹿は風邪引かないなんて言うけどこんな季節に風邪引くのは馬鹿ぐらいなもんだよホント馬鹿。キングオブ馬鹿」
「えー!!よっちゃん風邪引きさんなの!?のん全然気付かなかったよ!」
「だってひーちゃん馬鹿だし。てかうるさいよ」
む、静かにはするけど、意味が分からない。
亜弥ちゃんはイライラしながら言う。
「小さい時からずっとそうだったの!
調子悪いなら調子悪いでいいのに心配かけちゃダメだとか考えてんだろうね、あの馬鹿、平気なフリすんの。
その挙句もっと悪くなったりとかね。馬鹿は馬鹿らしくしとけばいいのにカッコつけだし変なトコ気使うし。
タチ悪いよね、馬鹿のクセに頭使うからいけないんだよあームカツク。」
亜弥ちゃんはブツクサイライラ怒ってる。でも、凄いな。のんは亜弥ちゃんをソンケーするよ。
だってのん、よっちゃんの元気なフリに完璧に騙されちゃったけど亜弥ちゃんはすぐに見抜いちゃったんだもん。
後藤さんだって分からなかったのに、亜弥ちゃん凄いよ!ぽけーっと亜弥ちゃんを見てたらデコピンされた。
「ホラ、宿題さっさと終わらせるんでしょう?」
ああそうだった!
よっちゃんの事も心配だけどのんそんな事より宿題の心配しなきゃだった。
後藤さんも寄ってくる。昨日とは一人足りないけど勉強会の始まり始まり。
今日も一つ宜しくお願いしますよ、松浦先生!
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