ふごー、ふごー。よっちゃんのいびき。
スー、スー。亜弥ちゃんの寝息。
むー、むー。
うー、うー。
のんと後藤さんのうなり声。

問題集はまだ次のページに進まない。鉛筆を握ったのんの右手も動かない。
頭と体がぽっぽぽっぽ。シューシュー音を立てて破裂しちゃいそう。

「「っだあー!!!!!」」

二人同時に叫んでバッタリ後ろに倒れた。

「ごっちんだめだめだよー!!」

「つーじーこそだめだめだめだよー!!!」

「うるせー!!!」

おう、よっちゃん。
バッタリ倒れたのんの上に影が降りてきたと思ったら不機嫌そうなよっちゃん。目をごしごし擦ってなんだか眠そう。
ってそうじゃない、のん、さっき後藤さんの事を「ごっちん」って言っちゃった!
後藤さんも「つーじー」だって!なんかくすぐったいなぁ、でもちょっと嬉しい。

「ふー、どれどれ」

よっちゃんはお腹をポリポリ掻きながらどっしりとあぐらをかく。お父さんみたい。
右手で鉛筆をクルクル器用に回しながら問題を読んでる。
出来るのかな?やってくれるのかな?のんより年上だし、ちょっとは出来るよね?
お、よっちゃんが動く。ついに年上のほんりょーってヤツを発揮しちゃうの?

「亜弥、いい加減寝たふりは止めなさい」

動いたと思ったらよっちゃんは後ろで寝ていた亜弥ちゃんをポカリと叩く。
え、亜弥ちゃん寝たフリ?でも起きないよ?本当に寝てるんじゃないの?

「のの、今からコイツに『コショコショの刑』をお見舞いしてやれ」

よっちゃんはいじわるな顔で笑う。え、いいの?のん、よっちゃんの命令なら好きなだけやっちゃうよ?

「らじゃ「あーもうわかったわよ!しょうがないなぁ」

ビシッとカッコよく敬礼を決めて亜弥ちゃんに『コショコショの刑』をお見舞いしてやろうと思ったら、プンスカ怒りながら起き上がる亜弥ちゃん。
なんだよう、寝たふりなんていじわるだなぁ。
「ちょっと貸して!」ってのんを睨みつけながら亜弥ちゃんはよっちゃんから問題集をうばう。
いつの間にか後藤さんも体を起こしていて、のんと後藤さんとよっちゃんと三人で亜弥ちゃんを大注目。
さぁ、松浦大先生頼みますよ!

「・・・アンタ達こんな問題も分からないの?」

おお、きびしい。亜弥ちゃんはのん達をギロリと一睨み。三人揃って首をすくめて「ごめんなさい」となぜか謝っちゃう。
亜弥ちゃんははぁあ、と溜息をつくと「ひーちゃん、私ね、今ものすごーく抹茶のアイスが食べたいな」と歌うみたいに言った。
その瞬間よっちゃんは何も言わずにスッと立ち上がるとぶわーっと玄関に消えていく。風みたいだ。
ドアの閉まる音が聞こえて、それから亜弥ちゃんと目があった。あ、なんかこの雰囲気は。

「のんちゃん、私今ちょっと肩凝ってるかも」

「やりますやります!ぜひ肩叩きさせてください!何時間でも気の済むまで!!」

ニッコリ笑う亜弥ちゃんは悪魔みたいにとっても怖かった。
亜弥ちゃんの後ろに回り肩をトントントン。ふー、怖いなぁこの先輩は。
でも亜弥ちゃん、本当は凄く優しいんだ。今だってそうでしょ?はじめはイヤだって言ってたのに、こうしてやってくれてるんだもん。
ありがとう、亜弥ちゃんのそうゆーとこ、のんはすごく好きなんだ。
本当の事言うと、もう少し優しくしてくれるともっと好きになるんだけどね。

しばらくしてよっちゃんが帰ってきた。手にしてる袋からは沢山のアイスがはみ出てる。おー、いっぱい買ってきたんだねえ。
袋の中から抹茶のアイスを取り出して亜弥ちゃんはニッコリ笑う。ふぅ、これでなんとか一安心かな?
亜弥ちゃんの肩をトントンやりながらよっちゃんを見ると、こっそり殴られた。痛いなぁもう。ぼうりょく従姉妹だ。
それからなぜかみんなでテーブルを囲んで勉強会。
亜弥ちゃんが先生で、のんとよっちゃんと後藤さんが生徒だ。
松浦先生がスラスラ問題を解いていくのにいちいち突っかかっていくよっちゃん。
何を話してるのか意味は分かんないけど一応マジメな顔してフンフンと説明(っていうかよっちゃんと亜弥ちゃんの口げんか)を聞いているのん。
にこにこ笑ってアイスを食べながらノートに落書する後藤さん。ん?アイスを食べながら?
のんが後藤さんを見ると後藤さんはのんの思ってることが分かったのか「ん」とアイスをくれた。わぁ、ありがとう。
ぎゃーぎゃー言い合う亜弥ちゃんとよっちゃんはそっちのけで2人でアイスを食べる。
あ、なんかこんな場面さっきもあったかな?後藤さんも思ってたのかクスクス笑ってる。
よっちゃんと亜弥ちゃんの口げんかで部屋の温度が上がっちゃったのかアイスは少し溶けかけてる。
でもひんやり冷たくて甘くて美味しい。

「おいしーね」

「んー、おいしー」

のんと後藤さんは二人でアイスを食べながら、ケンカする亜弥ちゃんとよっちゃんをずっと見てた。