九月の体育館って窓やら扉やら全部開けてても蒸し暑い。じっとしてても汗がでてくる。
そんな中のんはがむしゃらに走って(最後の方はちょっと歩いちゃったけど)目をグルグル回しながらも50周を完走した。
部活はサボってたけどよっちゃん達とフットサルしてたもん、コレくらいは楽勝なんだ。・・・ホントはちょっぴきつかったけど。
走り終えたのんをみんなは拍手で迎えてくれて、そして何故か胴上げが始まった。うわーうわー、高いよ怖いよ何これ楽しい!!
みんな大好きだよありがとう。のん、汗臭くないかな?楽しいからいいよね!
大の字になってポーンって宙に浮いてそしてのんは思い出した。今日の予定の事を。
そうだ、早くよっちゃんちに行って宿題やらないと、ケメちゃんと居残りお掃除になっちゃう!
ポーンってもう一回宙に浮いて、そこからアクションスターみたいにカッコよく地面に着地した。
カオリンに報告だ。

「カオリン」

「んー、何?」

「あのね、のんね、コノ後ちょっと用事があるから・・・」

「もう帰っちゃう?」

「けどね、だけどね!明日だってまた来るし、のん決めたの。
これからはちゃんと部活出るって。・・・まぁたまに休んじゃうかもだけど・・・」

のんが言うとカオリンは「そっか」と言って小さく笑った。

「辻だっていろいろあるだろうけどさ、今日、久しぶりに来て分かったでしょう?
カオや、部の皆はアンタの事結構必要にしてるんだからね。だから、無理して毎日来い!
なんて言わないけど、来れる時はちゃんと来て、そして皆で汗を流して一緒に健康になろう!ね?」

あー、カオリンはまた訳わかんないこと言っちゃって。
でものんはカオリンの言いたい事が何となくわかって嬉しくて、だから皆が見てたけどカオリンに抱きついた。
カオリンは「暑いよー」なんて言って、でものんの頭をポンポン優しく叩く。よっちゃんみたい。

「けどサボりすぎるとまた50周だからね」

ああ、ここがよっちゃんとは違うところだ。熱血先生の本領発揮だ。
せめて30周くらいに減らしてくれるとひじょーにありがたいんだけどなぁ。でもありがとう。

それからのんはみんなにサヨナラの挨拶をして部室に戻ってジャージを着替えた。
部室も久しぶりだ。楽しい思い出がいっぱい詰まってる。そのほとんどがよっちゃんと、何故か亜弥ちゃんとの事だけど。
部室には賞状と写真が飾ってある。のんが一年生で、よっちゃんが三年生の時のだ。
よっちゃんは三年生の時、バレー部の部長でエースで凄かったんだ。
それまで弱小だった(らしい)この学校のバレー部を県大会まで連れてったんだよ?
後一つで全国、って時に負けちゃったんだけどね。飾ってあるのはその時の写真と賞状。
ホントよっちゃんは凄い。のんのそんけいする人だ。
でもね、よっちゃん。のんだって負けないよ。
今のチームメイトはみんな楽しくて面白くてバレーだって上手ないいヤツばっかなんだ。だからのん達だって頑張るんだ。
よっちゃん達を超えてみせるよ。いつの時代でもでしはししょーを超えてゆくのだ。ガハハ。
部室の一番高いトコに飾ってある写真にぐっと握り拳を向けてのんは部室を後にした。 さぁ、今からよっちゃんち行くぞ!
けどその前に一旦家だ。宿題があるしよっちゃんに昨日、着替えてから来いって言われた。
よし、それじゃぁまずはのんの家だ!!

一人で帰る時は長く感じる帰り道も今日はあっという間だ。
体育館50周も走って疲れてるはずなのに全然疲れてないみたい。
すぐに家について、バーっと着替えて宿題の山をゴソっとカバンに詰めてれっつらごー!!

「あら、お出かけ?」

お母さん・・・。

「ちょっとよっちゃんのお家へ・・・」

「しゅーくーだーい」

「あ、あのーよっちゃんちで・・・ホラ!」

のんが宿題のいっぱい詰まったカバンを広げて見せるとお母さんは眉間に皺を寄せた。
「よっすぃーはあまりアタマよくないわよ?」

・・・知ってるよ!誰よりのんが一番よく知ってるよ!
お母さんは本当にガッカリしてるように言う。っていうかなんでお母さんよっちゃんがバカだって事知ってるの?
そしてのんのお母さんにまで知られてるよっちゃんのアホっぷりって一体何?やっぱよっちゃんってすごい。

「いーの、亜弥ちゃんがいるから」

「あら、亜弥ちゃん。ああそれなら大丈夫ね。気をつけて行ってらっしゃい、遅くなるなら電話するのよ」

お母さんはにこやかに笑って手を振った。なんだかなぁ。
でもお母さんからお許しも出たし、もう怖いもの無しだ!
いってきまーす。自転車のカゴにカバンを放り込んで駅までひとっ走り。
早く後藤さんに会いたいな、元気かな?のんの事覚えててくれてるかな?
途中のコンビニでアイスを買ってかじりながら自転車を漕ぐ。あー、アイスが冷たくて気持ちいい。
口の中が冷たくて、だから体も何だか気持ちいい。駅まではもう少しだ、ペダルを漕ぐ足に力を入れた。