
そして放課後。のんは久しぶりに体育館に来てる。
体育館を半分に分けてバスケ部とバレー部が部活動中。
部活に顔を出すのは久しぶりなのでちょっと緊張というか気まずくて、のんは中々体育館の中に入れないでいる。
ボールをつく音や掛け声や笑い声。ああ楽しそう。のんもやりたいよ。
だけど中々最初の一歩が踏み出せないや。あーもう。
こんな時よっちゃんがいたら「のの何してんだ、はよ来い!」ってのんの手を引っ張ってくれるのに。
こんな時亜弥ちゃんがいたら「のんちゃんあーそぼ!」って中に連れてってくれるのに。
よっちゃんは卒業しちゃったし亜弥ちゃんは引退しちゃったしもう誰もいないよ。
どうやって中入ればいいの?
「あ、辻ぃー!!!」
大きな声がしてドタドタ足音がして目の前にカオリンがいた。あーカオリン!
「来たんだ、何してるのそんなトコで。もう皆集まってるよ?」
カオリンに強引に手を引っ張られて体育館の中へ。あ、あ。なんだコレ。こんなに簡単だ。笑っちゃうくらい。
カオリンに連れられてみんなのとこへ。皆ニコニコ。あー懐かしい。久しぶり。
「ホラ辻、挨拶。久しぶりなんだからビシッと!これからはアンタが引っ張ってくのよ」
カオリンに言われて気がついた。そうだった、三年生はもういないんだった。
亜弥ちゃんがバスケ部からいなくなったみたいに、バレー部の三年生も夏休みで引退しちゃってたんだ。
コートの中に集まった顔は今年の初めに見た人数よりぐっと減っちゃってる。
そうだ、のんはまだ二年生だけど、バレー部ではもうしっかりしてなきゃダメなんだ。先輩なんだ。
「みんな!えっと、お久しぶりです。それと、サボっててごめんなさい。
けど!これからはちゃんとくるから!だから、だからまた皆一緒にプレーしよう!」
のんが言うと集まってたチームメイトは皆拍手してくれた。うわぁ、うわぁ。ありがとう。それとごめん。
そうだよ、のんは最近はずーっとよっちゃんとフットサルばかりしてたけど、本当はバレー部なんだ。
バレー部の皆は良い奴ばかりで、楽しくて、それなのにのんはすっかり忘れてたんだ。だめだなぁ。
でもフットサルだって楽しいんだもん。皆にもフットサルを知ってほしいなぁ。
のんの周りでニコニコガヤガヤ笑ってる皆を見てそう思った。
「はーい注目!!」
パンパンと手を叩く音がして、皆一気に静かになった。その視線の先にはジャージ姿のカオリン。
カオリンってば、いっつもはボーっとしてて何考えてるか分からないのに、ジャージに着替えると一気に熱血なんだもんな。
懐かしいなぁこの感じ。
「・・・ということで、辻には体育館50周を命じたいと思いまーす。賛成の人ー」
え!?え?え、何??
ボーっとしてたらなんか凄く嫌な言葉が聞こえてきたんだけど。ちょっとちょっと、みんな何手上げてるんだよ。
「はい、という事で満場一致により辻、体育館50周!!」
カオリンは嬉しそうに笑うけどのんはさっぱりわけわかめ。
みんなをグルッと見渡してみるけど、みんなもニコニコなにやら嬉しそうに笑うだけ。
ちょっと、ちょっとちょっと。
「なに?わけわかんないよ?」
「いーい?辻ちゃん、アナタは部活をサボりすぎたわ。そのせいで皆がとってもさみしい思いをしたの。
笑えるバカがいなくなったから部活中も楽しくない。あなたの事を思って皆涙するばかり。
なので、久しぶりに皆であなたに楽しませてもらおうと思って、罰則として体育館50周なの。わかった?」
「え?わからないし嫌だよ」
「嫌じゃない!さっさとやる!はいスタート!!」
カオリンにお尻をポーンと叩かれてその勢いで走り出してしまったけれどなんだコレ。
50周って何だよ。何で皆そこで賛成しちゃうんだよ。
ちょっと悲しかったけど、部活ってこんな感じだった。
カオリンが無駄に熱血でわけ分かんなくて、みんな真面目だけどふざける時はふざけてて。
そうだこんな感じだったんだよな、はは、懐かしくて楽しいや。
みんなはコートの中から頑張れーだとか、のんちゃん貸したCDまだ返してくれないからもう1週追加ねーだとか、色々叫んでる。
走ってる途中でカオリンと目が合って、カオリンは嬉しそうに笑ってた。
朝、『さみしいんだ』って言ってたけどもう寂しくなんかないでしょう?のんだってそうだよ。
カオリンが今楽しそうだし、みんなだって変わってなくて楽しくて良い奴ばっかだ。
のんだって、自分勝手かも知んないけど、みんなと会ってなくて寂しかったんだ。
久しぶりに来て、みんな前みたく普通に接してくれるかなって、少し怖かったんだ。
でも、もう大丈夫だよ。怖がってたのは、勝手に壁みたいなの作ってたのはのんだったんだ。
もう崩しちゃったから、もう大丈夫だよ。
ありがとう、みんな。ありがとう、カオリン。
けど50周はキツイから少し手加減して欲しかったけどね。でも、本当にありがとう。
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