
カオリンとは靴箱のとこで別れてのんは教室へ。
あーあ。カオリンが担任の先生だったらなぁ。そしたらきっと毎日が楽しいのに。別に今が楽しくないって訳じゃないよ?
でもなぁ、だって。なんでのんの担任はケメちゃんなんだろう。あーあ。
「辻!おはよう!」
「・・・ぎゃっ」
「あ、コラ、ちょっと待ちなさいよ!」
ポンと肩を叩かれて振り向いたらケメちゃんのギラギラスマイルがあった。
何だよ、さっき頭の中にポンと浮かんできたのをやっとこさ追い出したばかりなのに、何で目の前にアップ。
のんは走った。ケメちゃんが「廊下を走るな!」って走りながら追いかけてくる。あーあーうるさいよ。
のんの方が先に教室について、ちょっと息が上がってたけど知らんぷりして机に突っ伏した。
ドタバタ大きな足音が近づいてくる。ガラッ。
「辻!何で逃げる!」
ケメちゃんが教室に入ってくるけど知らんぷり。聞こえない振り。寝たふり寝たふり。
「・・・さっきまで走り回ってたバカがすぐに寝られるわけがないだろう」
頭をぽかりと殴られてあまりの痛さに頭を押さえて顔を上げた。
「おはよう辻さん」
ケメちゃんはネコみたくニヤって笑った。
アレ、おかしいなぁ、いつもなら人の顔みて逃げ出すな!とか年寄りを労われ!とかブツブツ怒ってくるのに。どうしたのかな。
「お、おはよう?」
いつもキリキリ怒ってるケメちゃんが今日は怒ってなくて、だからそれが不思議でのんは頭を押さえたままずっとケメちゃんを見てた。
やがてケメちゃんは力を抜くみたいにふぅって小さく笑って、のんが押さえてた頭をよしよしとした。
のんはわけがわからないからされるがまま。ケメちゃんはのんの頭から手を下ろすと口を開いた。
「ったく、辻は元気があってこそ辻なんだから、圭織に心配かけさせちゃダメよ」
ケメちゃんはお母さんみたいな顔で笑った。
ああ、そうだ。ケメちゃんとカオリンは仲良しさんだったっけ。カオリン、今朝の事ケメちゃんに話したのかな?
「アンタの担任は私なんだから、心配かけさせるなら私にしときなさい。
アンタはいっつも1人で抱え込むんだから。何かあったなら言ってきていいのよ?」
うわ、ケメコのくせに。ちょっと目の奥が熱い。
ケメちゃんは絶対、今日変なもの食べたんだ。絶対そうだ。
だってこんな優しいなんて、ギラギラしてないなんておかしいもん。
ケメコのくせに。
絶対に今日のケメコはニセモノなんだ。
「・・・辻?」
うわぁ鼻の奥がツーンてするよ。頭がドクドク言ってる。まぶたがピクピク気持ち悪い。
なんか、泣いてしまいそうだ。でも学校だ。我慢するんだ。
ケメコ気持ちわるーいって、何言ってんだよーって、茶化して、ゲラゲラ笑って、いつも通りにするんだ。
「・・・アリガト」
なんでかわからないけど、のんの口から出てきた言葉は言おうと思ってた事とは全然別の言葉だった。
だけど言葉を話したら落ち着いて、頭のドクドクはだんだん収まっていった。大丈夫。もう大丈夫。
ケメちゃんはふーっと息を吐いてから、のんの背中をバンバンと叩いてくる。痛いってば。
「まったくお前は。さっさと宿題やって来い」
うげ。
やっぱ今日のケメコはニセモノなんかじゃなかった。ホンモノだった。
のんが顔をしかめるとケメちゃんはそんなのんの鼻の頭をピンと弾いて、
「提出出来なかったら放課後私と2人きりで居残りお掃除よオホホ」なんて楽しそうに笑う。ちくしょームカツク。
居残りお掃除なんて、しかもケメちゃんと2人きりだなんて絶対に嫌だ。よし、決めた。のんは頑張る。
とりあえず今日の予定を立てよう。
授業が終わったら部活に行こう。でもよっちゃんちにも行きたいから、部活は早退。
そしてよっちゃんちに行く。その時に宿題を持っていくんだ。よっちゃんはバカだからほっといて、亜弥ちゃんだ。
亜弥ちゃんはよっちゃんの従姉妹のクセに何気に頭がいいから亜弥ちゃんに手伝ってもらうんだ。
おお、何コレ完ぺきじゃん!!のんすごいよ!
やったぁ、コレでケメちゃんとお掃除しなくてすむかも!予定通りに上手くいけばだけど。
のんが1人でニヤニヤしてたら「ホームルーム始めるから座りなさい」ってケメちゃんにデコピンされた。
痛かったからケメちゃんの背中に向かってアッカンべーってしてやった。
ごめんねケメちゃん、居残りお掃除は1人でやっておいてください。
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