
疲れてたのとご飯を食べてお腹いっぱいになったのとで眠気はMAX。でも寝ちゃダメだ。決めたんだ、宿題やるって。
顔を叩いて気合を入れて机に向かう。とベッドの上に放り出していた携帯が突然鳴った。
まったく誰だよ、せっかく頑張ろうと思ったところなのに。
はぁと溜息を吐きながら携帯を取って、溜息は吐き終わる前に途中で飲み込んでしまった。よっちゃんからメールだった。
何かあったのかと思って、急いで携帯を開くと『明日来るなら着替えてからおいで。おやすみー』とだけあった。
なんだい、たったそれだけかい。ごとーさんの事で何かあったのかと思って焦っちゃったじゃないか。
途中で飲み込んだままだった溜息を全部吐き出した。はぁあ。
溜息なんかついちゃったけど、でも実際はちょっと嬉しかった。
だってよっちゃん、のん達が「明日また来る」って言ったらもの凄く嫌そうな顔してたけど、こんなメール送ってくれるんだ。
優しいな。のんはよっちゃんがたまーにみせる優しいとこが好き。だからっていっつも意地悪なわけじゃないけど。
『分かったよー。じゃあ明日、学校終わってからいくね!おやすみ(>3<)』
よっちゃんに返信してから、もう一度気合を入れなおして机に向かった。
明日またよっちゃんちに行くんだ。宿題をさっさと終わらせなきゃ。ケメちゃんも怖いし。
それからのんは何度も何度も襲い掛かってくる睡魔と闘ってはギリギリで勝ち、がむしゃらに頑張った。
だけど結局最後に現れた睡魔の大ボスの前によろよろぼろぼろだったのんは力尽きて、時計の短針が11を指した時にベッドに倒れ込んでしまった。
今日はいっぱい動いたし勉強だって頑張ったからしょうがないんだ。
明日またやろう。もちろんよっちゃんちに行ってからだけど。後藤さんの名前も分かったし、もっと仲良しになるんだ。
そんな事を思いながらのんはいつの間にか眠ってしまっていた。
次の日。外は朝からいい天気。カラッと晴れてて風は少し冷たい。秋晴れってやつかな?
縁側に座ってぼんやり外を見てたら「早く学校行きなさい」とお母さんに殴られた。痛いなぁ、のんをこれ以上馬鹿にしないで。
お母さんに叩かれて家をでて深呼吸した。うん、朝から気持ちがいい。爽やかな気分で学校に向かった。
途中でカオリンと一緒になった。カオリンっていうのはあだ名みたいなもので、本当は飯田圭織先生だ。
先生だけど先生じゃないみたい。友達みたいだ。だからのんはカオリンの事、カオリンって呼ぶんだ。
カオリンは美術の先生。のんは選択で音楽の授業を取ってるからカオリンの授業はないけど、でもとっても仲良しだ。
なんでかって?カオリンは美術の先生だけど、のん達バレーボル部の顧問の先生でもあるんだ。
美術の先生だし、運動なんて出来るのかよ、なんて思うけど、カオリンは「先生はね、学生時代縄跳びは5だったのよ!」
だとか変な自慢話や、去年よっちゃんがまだバレー部にいた時二人でトスしてたりしてたから多分出来るんだろうと思う。
だけどもっぱらのん達の間では「背の高い先生がカオリンしかいないから」っていうのがバレー部顧問飯田圭織先生誕生のお話になってる。
と、まぁ、そんな飯田圭織先生を前方に発見したのだ。ココは捕まえるしかないでしょ。走ってジャンプして大きな背中に飛びついた。
「カーオーリン!!おはよ!!」
「きゃっ!つ、辻ぃ〜!?びくっりしたぁ・・・」
「えへへぇ〜」
「えへへじゃないの!心臓止まったらどうするの!」
「えー、悲しい」
「悲しい?」
「うーん、すごーく悲しい」
「・・・はぁ。辻が悲しいとカオも凄く悲しいからもうダメよ?」
「ほいほーい。おはよ」
「はい、おはよう」
カオリンは初めは怒ったみたいな顔をしていたけど最後はちゃんとニッコリしてのんの頭をポフポフした。
カオリンは時々よっちゃんみたい。あ、でもカオリンの方が先に生まれてるからよっちゃんがカオリンみたいなのかな?
まぁどっちでもいいや。言えるのは、のんはよっちゃんもカオリンも2人とも同じくらい大好きだってこと。
学校まではまだもうちょっと。カオリンと一緒に歩く。
「辻ぃー」
「んー?」
「最近部活こないじゃん」
ドキッ。
「どうした、バレーボール嫌になっちゃったか?」
カオリンは優しい顔で聞いてくる。何となく目を見れなくて顔をそらした。
するとカオリンはのんの背中をポンポン叩いて笑った。
「なんだぁ元気ないぞ?辻らしくない、何か悩み事か?」
ううん、違うよ。のんはぶんぶん首を横に振った。カオリンが覗き込んでくる。
その顔が困ったみたいな表情だったので、のんはそれが悲しくて俯いてしまった。
するとカオリンはのんの顔を両手で挟んでグイと無理矢理前を向かせた。
目の前にはカオリンの顔があって、大きな目をパッチリ開いて二カット笑う。ちょっと怖いと思ってしまったのは内緒。
「何があったのかは知んないけどさ、皆辻が来なくて寂しがってる。カオだってホントはちょっとさみしーんだ」
カオリンの笑った顔が寂しそうでのんは胸が苦しくなった。
そうだよ、のんは今よっちゃんとそのお友達とフットサルばかりやってるけど、本当は、のんはバレーボール部なんだ。
最近はあまり行ってないけど。カオリンが寂しいって言う。そんな事言われるとのんだってちょっと寂しくなる。
今日行こうかな。あ、でも後藤さん。後藤さんに会いに行きたい。よっちゃんにも行くってメールしちゃったし。どうしよう。
ああそれに。宿題があった。ケメちゃんと約束した一週間がもう過ぎそうだけどまだ終わってないや。どうしよう。
うわー、そうだった。宿題がまだいっぱいあったよ。ああどうしよう。
「何か悩んでるならカオに何でも言ってみなさい。いつだって相談乗るよ?これでも先生なんだから」
のんが色々考えているのを何か勘違いしたのかカオリンはそんな事を言ってきた。
うーん、特に悩んではいないけど、のん、カオリンには多分相談しない。だってカオリンの話は難しいもん。難しい話は分からないよ。
だけどそんな事ズバッと言っちゃったらカオリンはきっと落ち込んじゃうだろうからのんはいっぱい笑ってみせた。
カオリンはそんなのんの頭をポンポンすると「校門まで競走!」と言っていきなり走り出した。あ、ずるい。大人のクセに卑怯だ。
遅れてのんも走ったけど、スタートが早かったカオリンの方が先に校門に着いた。「カオの勝ちー」なんて偉そうに威張ってくる。
勝ちなんかじゃないよ、カオリンはずるしたもん。フライングだったもん。でもなんだか楽しい。
何となく落ち込んでた心が少し軽くなって、心の中でカオリンに『ありがとう』って言っておいた。
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