それから4人でぶらぶらゆっくりよっちゃんの家まで歩いて帰った。
ギラギラ照りつけてた太陽の光はいつの間にか優しくなっていて、よっちゃんちに着く頃にはそこら中、みんなの顔も濃いオレンジに染まってた。
アパートの階段をカンカン鳴らして部屋に入ると後藤さんは疲れてしまったのかすぐにゴロンとなってしまった。
のんも真似して寝転ぼうとするとよっちゃんに頭を叩かれた。

「いったぁい!何すんだよ!」

「何すんだよ、じゃない!高校生はさっさと帰る!」

よっちゃんはしっしと追いやる仕草をする。亜弥ちゃんを見た。亜弥ちゃんはしょうがないよ、と目で訴えてきた。
むぅ、しょうがないか。

「じゃあかーえろ」

「おぅ、とっとと帰れ」

「ん。じゃあひーちゃんまた明日」

「はいはいまた明日って何でやねん!!!」

にっこりアイドルみたいに完璧なあややスマイルを浮かべる亜弥ちゃんによっちゃんはヘンテコな関西弁で突っ込む。
だってねー。ねー。よっちゃんに見えないところで亜弥ちゃんとウィンクした。
だってよっちゃんの家、分かっちゃったもん。名前も分からなかった女の人、後藤さん。
後藤さんと仲良しになりたいもん。これっきりでバイバイなんて、そんなバカな話はないよ。

「「じゃ、また明日!!」」

ドアのトコでよっちゃんはもの凄く嫌そうな顔をしてたけど、そんな事関係ない。
また明日、明日だけじゃなくって明後日だって、明々後日だって、毎日来てやるんだから。
亜弥ちゃんも同じ事考えてたみたいで2人でウフフと笑った。
アパートの二階、一番端っこ。よし、かんぺき。
帰る時にふと見上げてみたらベランダによっちゃんが立っていた。亜弥ちゃんと2人でバイバイと手を振る。
よっちゃんは軽く片手を上げて「気をつけて帰るんだぞ」と言った。
「何よカッコつけちゃって」と亜弥ちゃんがボソッと言った。でもその横顔は嬉しそうだ。
それからアパートが見えなくなる曲がり角に来るまでよっちゃんはずっとベランダに出てた。
見えなくなる最後にもう一度大きく手を振って角を曲がった。駅まではもうスグの距離だ。
それから電車に乗って二つ目で降りて、亜弥ちゃんとは駅でバイバイした。
亜弥ちゃんはこれから予備校に行くそうだ。受験生って大変だ。
別れ際に「また明日よっちゃんち行こうね」と言うと「当たり前じゃん」とデコピンされた。
だからのんはのんでよっちゃんじゃないんだけどなぁ。
おでこを押さえて睨むと亜弥ちゃんは綺麗なソプラノで笑って「ゴメンゴメン、じゃあまた明日」と、
あややスマイルにウィンクを付けて人ごみの中に紛れていってしまった。
さぁ、のんも帰らなくっちゃ。
さっきまで4人だったのに一気に1人だ。なんだか寂しいなぁ。でも心の中はぽかぽか温かい。
今日の夜ご飯はなんだろう。のんの家まではまだまだだ。
悲しかったり楽しかったり。今日一日でおきた色んな事を思い出しながら家に向かった。空の下の方では一番星が輝いてる。

家に着いた時、辺りはもう真っ暗だった。
4人でお散歩してた時はもの凄く暑かったのに、今はなんだか肌寒い。何だかんだ言ってもう9月。秋が来るんだ。
ただいまー、と言ってドアを開けるとお母さんが立っていた。少し怖い顔をして「何してたの」と聞いてくる。
よっちゃんちに行ってた、と言うとお母さんはわぁと驚いて、お母さんも行きたいわぁと言った。
そう、のんのお母さんは大のよっちゃんファンなんだ。
小さい頃からよっちゃんを知ってるけど、高校生になって、バレーボールの試合を見に来てくれた時、よっちゃんの勇姿に惚れてしまったんだって。
今だってフットサルの試合を見に来てくれるけど、実はのんよりよっちゃんの事を応援しているんだこの人は。
実の娘より近所の幼馴染の事が好きだなんて、なんて酷い母親だと思う。
けどのんもよっちゃんの事は好きだからいいんだ。ホントだよ?・・・まぁ、たまーにちょっとやきもちしちゃうけど。でもホントたまに。
「それより」となんだか真面目な顔でお母さんが言った。何を言われるんだろう。

「宿題は終わったの?」

ああ。のんはその場でがっくり膝をつきそうになった。そうだった。朝は覚えてたのに全然忘れてた。
「まだです」と言うとお母さんはよっちゃんと遊ぶのもいいけどちゃんと宿題もやりなさいねと言った。そうですね。貴方の言うとおりです。
それからお母さんはご飯出来てるから着替えてきなさいと笑った。お魚を焼いてる匂いがして、のんのお腹がぐぅと鳴った。
自分の部屋に行って服を着替える。机の上には山積みの宿題。あーあ。
またしても楽しかった夢みたいな時間は忌々しい『宿題』という奴によって終わってしまった。ちくしょう。でもしょうがないよな。
ご飯食べたら頑張ろう。そう決めて腹ごしらえをしに下へ降りてった。