「誰よ、喋れないなんて言ったの」

亜弥ちゃんは言いながらよっちゃんを睨んだ。

「ちょっと待て、何故私を睨む。喋れないなんて一言も言ってないぞ?」

「だって名前も何も分からないって」

「だからそれはこの子が死んでたからさ、聞けないもんは分からないでしょうが」

うん、よっちゃんの言うとおり。多分のん達が勝手に勘違いしてただけ?
女の人はニコニコ笑ってる。のんはとりあえずお互い睨みあうよっちゃんと亜弥ちゃんを仲直りさせた。
そして三人で女の人の前に並ぶ。

「えっと、自己紹介するね。のんはのんでコレがよっちゃん。んで亜弥ちゃんだよ」

「おいのの、『コレ』ってなんだ『コレ』って」

「って言うか適当すぎるでしょ、絶対分かんないって」

ちくしょうなんだよ。
良かれと思ってやったのによっちゃん達からはブーイングの嵐だ。

「はいはい黙って。私がちゃんとするから。
こっちの小さいバカが辻希美でのの。こっちのでかいバカがひーちゃんで吉澤ひとみ。
んでこのベリベリキュートアンドビューティーなのがあややこと松浦亜弥でぇーす!!」

「「ちょっと待って、間違ってる!」」

「は、何が」

「のんはバカじゃないよ!」

「誰がキュートでビューティーだ、モンキーのまちがいだろぅぐほっっ!!?」

「ど・こ・が!まちがってる?」

「・・・どこも間違ってないです」

よっちゃんを片足で踏んづけて亜弥ちゃんは勝ち誇ったようにフフンと笑った。
半泣きで情けない顔になってるよっちゃんが少し可哀相だった。

「・・・あ、今ので分かった・・・かな?」

踏まれてるよっちゃんと踏んづけてる亜弥ちゃんを交互に見ながらそれでもニコニコしてる女の人に話しかける。
女の人はうんうん頷いて口を開いた。

「あなたはのの。これがひーちゃん。そして、あやちゃん?」

のん達を順番に指差しながら女の人はゆっくり言った。うん、完璧だ。のんと亜弥ちゃんは手を叩いた。
よっちゃんはまだ亜弥ちゃんの下になっていて、「だから何で『コレ』なんだよー」ってぼやいてる。可哀相に。

「ねぇねぇ亜弥ちゃん、よっちゃんは名前聞けなかったって言ったよね」

「そうだね、色々あったみたいだしね」

「今聞いたら分かるかも」

のんが言うと亜弥ちゃんはいきなりデコピンしてきた。ポコンって良い音がした。じゃなくて結構痛い。
おでこを押さえて亜弥ちゃんを睨むと「ゴメンゴメン、いつものクセで」とよっちゃんをつま先で転がした。
何だか本当に可哀相だ。ようやく亜弥ちゃんから解放されたよっちゃんはどっしりと胡坐を掻いてゴホンと咳払いをした。

「よし、それではお主の名前を教えてもらおうか」

「よっちゃんそれ誰?」

「何でアンタが仕切んのよ」

よっちゃんは一気にシュンとなって小さくなってしまった。

「ひーちゃん、だいじょうぶ」

それまで黙ってニコニコしてただけの女の人が口を開いたのでビックリした。というかその発言にビックリした。
亜弥ちゃんもよっちゃんもそうなのか、三人とも固まってしまった。
女の人だけはニコニコしてて、腕を伸ばすとよっちゃんの頭をよしよしといった風に撫ではじめた。
うわぁ、うわぁ。
よっちゃんは石像みたいに動かない。のんと亜弥ちゃんはそれをずっと見てる。
よっちゃんの真っ白な肌がほんのりピンクに染まってく。頬っぺたが真っ赤っかだ。・・・照れてる?

「デレデレすんな変態!!」

あ、デレデレしてるのね。
よっちゃんは何か言いたいみたいだった。けどやっぱり動けないみたい。
女の人はしばらくするとよっちゃんの頭を撫でるのをやめてクルッと亜弥ちゃんの方を向いた。

「あやちゃん、ひーちゃんと、仲直り」

突然話しかけられて驚いたのか固まってる亜弥ちゃんの腕を女の人が掴む。
何するのかな、と思って見てたら女の人はよっちゃんの腕も掴んで、そして2人を無理矢理に握手させた。

「はい、仲直り」

握手する2人の手の上に自分の手を重ねて女の人はニコニコ笑った。
よっちゃんと亜弥ちゃんは気まずそうにしてたけどそれは一瞬で、少し恥ずかしそうに笑った。
何だか暖かい人だなと思った。笑顔がほわほわ良い気持ち。
女の人と目が合って笑うとニッコリ笑い返してくれた。うん、良い感じ。

「名前、なんていうの?」

「ん?ごとーはごとーだよ」

女の人はふんわり笑って答えた。