亜弥ちゃんはのんに話し終えると、よっちゃんに向き直って言った。

「ねぇ、寝ようかって言ったら頷いたって言ったよね?」

「うん、少なくとも私には頷いたように見えたね」

「って事はさ、あの人、話してる言葉の意味は分かるんじゃない?」

亜弥ちゃんの言葉にのんとよっちゃんは目を合わせ、亜弥ちゃんを見て、それから女の人を見た。

女の人は扇風機で遊ぶのを止めていた。飽きちゃったのかな?今はぼーっと窓から外の景色を見てる。
のんとよっちゃんは再び目を合わせた。亜弥ちゃんはあんな事言ったけど、実際どうしたらいいの?
よっちゃんも同じ事を思ったみたいで、二人で亜弥ちゃんを見た。
亜弥ちゃんは黙ったままのんとよっちゃんを睨んで「このヘタレ共が」と言った。
のんとよっちゃんは小さくなって「お願いします」としか言えなかった。
亜弥ちゃんははぁあ、と大きな溜息を吐くと、何でもないように、ごく自然に、女の人の隣に座った。
のんとよっちゃんはその様子をじっと見てる。

「外、好き?」

亜弥ちゃんが言った。

「んー?すき」

女の人が答える。「ホラ見ろ」と言いたげな偉そうな顔で亜弥ちゃんが見てきた。さすがあやや様。
亜弥ちゃんはのん達の方へ戻ってくると言った。

「外、好きだって。窓開けると飛び出しちゃうのもそのせいなんじゃない?」

「でもそこまで暴れるかぁ?」

「さぁ。とりあえずあの人のこと何も分かんないんだし、一つでも分かったからいいじゃん」

「・・・下らない事だけどな」

どかっと鈍い音がしてよっちゃんは亜弥ちゃんの右足に潰された。バイオレンスだ。
のんは亜弥ちゃんとよっちゃんに言った。

「ねぇ、外行こうよ」

「お、そうだね、行こう行こう!」

亜弥ちゃんは賛成してくれた。けどよっちゃんは亜弥ちゃんの足の下で「何で」って顔をしかめてる。

「だってひーちゃんち何もないじゃん、つまんない」

あれ、そっち?確かによっちゃんちは何もないみたいだけどさ。
のんだってそれは少し思ったけど、けど女の人が外好きって言うから、皆でお散歩にでも行こうかなぁと思ったんだけど。
亜弥ちゃんとよっちゃんはそんなのんを放ってぎゃーぎゃー言い合ってる。

「うるせーな、文句言うならさっさと帰れ」

「ヤダ!何で何もないのよこの家!」

「お金ないからしょうがないだろ!」

「けっ、このビンボー学生が」

「何だと!?」

「何よ?」

あーあーうるさい。全くこの二人は言い争いが大好きだなぁ。
去年、よっちゃんがまだ高校生やってた時もこんな風によく言い争いしてた。結局よっちゃんがいつも負けてたんだけど。
学習してないなぁ。やっぱりよっちゃんはバカなんだ。
亜弥ちゃんに一方的にまくしたてられるよっちゃんをぼーっと見てた。
あぁ暑い。頭がクラクラしてくる。早く外行こうよバカコンビ。

「あー、アナタはいま、あつい。ココは、うるさい。そとに、いきたい?」

ぼんやりしてたら声がした。
よっちゃんと亜弥ちゃんはまだぎゃーぎゃー言い合ってる。
バッと振り返った。

「バカコンビは、あれ?」

のんのすぐ後ろで、女の人がよっちゃんと亜弥ちゃんを指差して笑ってた。