「ったく、だからお前達には教えたくなかったんだよ」

ガシガシ頭を掻きながらよっちゃんは言った。
そしてドスンと腰を下ろして胡座を掻く。

「いいじゃん、荒らされるのが遅いか早いかだけの問題だよ?
ひーちゃんがどんだけ隠そうとしたって、あたしは絶対見つけてたからさ」

亜弥ちゃんはニヤニヤ笑った。のんも大きく頷いた。
全くもって、亜弥ちゃんの言うとおりだ。

よっちゃんは諦めたように大きな溜息を吐くとゴロンと横になった。
そこでのんはよっちゃんちに着いてからずっと気になっていた事を口にした。

「ねぇよっちゃん、この部屋暑くない?」

「あ、そう!この部屋暑いって、むあむあする!」

お、亜弥ちゃんも思ってたみたいだ。

「ここクーラーないから」

よっちゃんは当たり前のように言ってどこからかうちわを持ってくるとパタパタと仰ぎだした。
胡坐掻いて片手にうちわを持つその姿はまるで休日のお父さん、っていうか親父だ。

「扇風機は?」

「そこ」

亜弥ちゃんの問いによっちゃんはダルそうに腕を上げる。

「あ゛ーあ゛ー」

いつの間にか起きていた女の人が楽しそうに扇風機で遊んでいた。

亜弥ちゃんは溜息を吐いて立ち上がった。窓、開けるのかな?
そうだ、窓だ。
なんか暑いと思ったらこの部屋、窓が開いてないよ。こんな暑い日に閉めっぱなしの窓なんて、まるで蒸し風呂だ。
クーラーもなくて扇風機も占領されてるなら窓開ければいいんだ。よっちゃんはバカだ。

「あーだめだめ」

亜弥ちゃんが鍵に手を掛けた時、よっちゃんが言った。
亜弥ちゃんはよっちゃんをギロリと睨む。結構怖い。

「何でよ」

「うん、窓開けるとさ、その子飛び出しちゃうんだ。昨日の夜とかマジやばかった」

よっちゃんは扇風機で遊ぶ女の人を指して疲れた様に、申し訳なさそうに言った。

「昨日の夜?」

窓を開けるのを諦めて亜弥ちゃんが再び腰を下ろす。のんはよっちゃんからうちわを奪って亜弥ちゃんに渡してあげた。
よっちゃんはのんを軽く睨んで消えた。そして戻ってきたと思ったらその手にはアイスキャンディがあった。
流石よっちゃん、気が利くよ。のんはよっちゃんの話なんてそっちのけでアイスを食べた。
後から聞いた話によると昨日の夜ってこんな感じ。
家に着いてから薬を飲ませて女の人を寝かせてあげたよっちゃん。
あまりにも暑くて、でも扇風機はおんぼろでカタカタうるさいから窓を開ける事にしたんだって。
そしてよっちゃんがガラって窓を開けた瞬間、あーっ!!!!って、女の人が後ろから飛び掛ってきたんだって。
(この時亜弥ちゃんは突然大きな声を出したので、下手なホラー話より断然怖かった) よっちゃんもビックリしたって。
だって真っ暗闇の中いきなり背後から飛び掛られて、しかもそれが寝てると思っていた女の人。
女の人はあーあー叫んでよっちゃんを踏み倒して窓から出ようとするからよっちゃんは必死で足にしがみ付いたって。
顔やら身体やらメチャクチャに踏みつけられて、それでも何とか部屋に連れ戻す。
窓に鍵掛けて、カーテンを閉めると、さっきまで暴れてたのがウソみたいに大人しくなったってさ。
「もう寝よう」ってよっちゃんが言うと女の人は黙ったまま頷いて、涙を一滴零したんだって。
これがよっちゃんの昨日の夜の話。