「ったく、来るなら来るで連絡くらいしろよなー」

よっちゃんは自分の分のコーヒーを入れながらブツブツ言っている。

「だってさ、上げてくれないと思って」

亜弥ちゃんは拗ねたように言った。

ひょんな事からあっさりとよっちゃんの部屋を発見したのん達はズカズカと上がりこみ、カルピスをご馳走になっている。
太陽の下を延々と歩き続けてきたのん達には最高のプレゼントだ。
例の女の人はクッションを抱いて窓際にぼーっと座っている。
こんな暑い日なのに湯気の立つコーヒーを持って、よっちゃんが戻ってきた。

「あの人、元気になったの?」

小さな声で聞くとよっちゃんは頷いた。

「ん、とりあえず熱があったからさ、風邪薬飲ませてこれでもかってくらい布団掛けて水飲ませたら朝には元気になってた」

よっちゃんの言葉どおり、その人は昨日とは別人みたいに顔色もよく、元気そうだった。

「名前とか、分かった?」

今度は亜弥ちゃんが聞く。けれどよっちゃんはその問いには首を横に振った。

「んにゃ、何もわからん。名前も歳も、何でアソコにいたのかって事も」

「それは分かってないって事?それとも覚えてない、忘れてるって事?」

真剣な顔で亜弥ちゃんが聞く。よっちゃんは頭を抱えてしまった。

「う゛〜・・・あーもーちょっと疲れた。バトンタッチだ、お前達頼むよ」

よっちゃんは情けない声で言ってもう一つの部屋に引っ込んでしまった。
亜弥ちゃんと目が合って、肩を竦めた。


「頼むよって言われてもねー」

カチ、コチ、カチ、コチ。

「バトンタッチなんて言われてもねー」

カチ、コチ、カチ、コチ。

時計が規則正しく時を刻む。のんは亜弥ちゃんと並んで座って膝を抱えてた。亜弥ちゃんも同じく。
そしてのん達の視線の先には、クッションを抱えたまま気持ち良さそうに眠る女の人。

「「どうすればいんだろねー」」

2人同じ事を言って溜息まで被った。

「とりあえず寝てるし、その間にひーちゃんのお部屋チェックでもしようか」

「お、それいいそれいい!!」

「ダーメーだ!!!」

「「ぅおう!?」」

いつの間にかのん達の後ろによっちゃんが立っていた。