そして放課後。
のんはぐったり疲れてた。何でかって?
亜弥ちゃんと別れた後、教室に行こうと思ったら突然肩をガッチリ捉まれた。
なんとなーく嫌な予感がして、そのまま手を振り払って行こうとしたけど、そうは行かなかった。
「つーじー、ちょっと待ちなさいよ!!」って、後ろから恐ろしい声がしたんだ。
その声は予想通りもいいトコで、ぎこちなーく、ゆっくりゆっくり振り返ると、バケモノがいた。
汗で前髪をおでこに張り付かせ、大きな目をギョロギョロ光らせて、耳まで裂けてしまいそうに口をニィッと吊り上げて、ケメちゃんがニタニタ笑ってた。
「ひぃっ・・・」とのんが声を上げるとケメちゃんは「人の顔見て声上げるってなんなの!」と口から唾を飛ばす。
だてしょうがないじゃんか、怖いものは怖いんだもの。
ケメちゃんはのんを掴んだままギタギタベトベト説教をたれる。
きっととてもいい事を言ってたんだろうけどそのお話は右の耳から入って左の耳から抜けていく。
だってそれどころじゃない、早く放してほしい。
のんのせつじつな願いも虚しく、結局その後HR五分前のチャイムが鳴るまでのんはずっとケメちゃんに捉まれてた。
それで解放されたのかって言うと、それもまた違う。だってケメちゃんはのんの担任。
教室まで引っ張られて、そこでもケメちゃんのギラギラスマイルを見せつけられた。
そんなこんなで朝から唐揚げ、ステーキ、ハンバーガー二つ食べさせられたような気分。
のんはぐったり疲れてた。
だから亜弥ちゃんが現れた時は生き返った気分だった。
「よ、お待たせ」って笑う亜弥ちゃんに「レタス!!」って言っちゃったくらいに。
「レタスってなんだよぅ」って苦笑いする亜弥ちゃんに朝の出来事を話すと「可哀相に・・・」と頭を撫でてくれた。
あぁ、やっぱりレタスはいいなぁ。のんはゴマドレッシングをかけて食べるのが好き。ってそうじゃないよ。

「ね、よっちゃんち、行こ?」

「ん?ああ、そうだね。れっつらごー!!」

高らかに宣言する亜弥ちゃんの後をついていく。何だか楽しい。

「ひーちゃんから何か連絡あった?」

しばらく歩いていると亜弥ちゃんが聞いてきた。のんは首を横に振る。
もしかしたら授業中に何かあるかも、と思ってマナーモードにしてポケットに入れておいたけど、よっちゃんからの連絡は一度もなかった。

「亜弥ちゃんは?」

「こっちも何も」

亜弥ちゃんは肩を竦めた。
よっちゃん、大丈夫かな。あの女の人、大丈夫かな?

亜弥ちゃんは駅の方に向かっているみたいだった。
人通りが多くなってきて、静かだったのがだんだんと賑やかになってくる。
駅について電車に乗って二つ目で降りた。よっちゃんは大学の近くにアパートを借りた、なんて言ってたかな。
しばらくして亜弥ちゃんはとあるアパートの前で立ち止まった。
新しくもなく、そこまで古くもない、二階建てのアパート。

「・・・ここ?」

「うん、多分。ひーちゃん、ココ上がってったからさ」

亜弥ちゃんは階段を指差した。その奥に沢山の自転車やらバイクやらが置いてあるのが見える。
あ、よっちゃんの自転車発見!

「ここみたい、よっちゃんの自転車がおいてあるよ」

「どれ?あ、ホントだ」

ピカピカ光る銀色のフレームに、いっつもボールが入ってるカゴ。正真正銘よっちゃんの愛車だ。

「・・・でも部屋は?」

「んー、階段上がってったから二階だとは思うんだけれども」

のんと亜弥ちゃんはそのアパートを見上げた。二階だけで六つの部屋があるみたい。
洗濯物とか干してあればある程度絞られるのに、と思うけどどの部屋も洗濯物の一枚も干していない。

「一部屋ずつあたってみる?」

亜弥ちゃんが面倒臭そうに言った。

「それが一番確実だね」

しょうがないね、といった風に2人で頷くとアパートの階段を上がった。

まず、一番手前の部屋。いくよ?と亜弥ちゃんに合図してインターフォンを鳴らした。
ピンポーン。反応なし。
もう一度。ピンポーン。やっぱり反応なし。

「留守みたい」

「じゃあ違うね」

2人で肩を竦めて次の部屋。そこには表札がかかってた。よっちゃんとは違う人。
「手間が省けたね」と亜弥ちゃんが言って三番目の部屋の前に来た時だった。
大きな音を立てて一番奥の部屋のドアが勢いよく開き、そこから人が飛び出してきた。

「ちょっと待ってって!!」

遅れて飛び出してきた人と目が合った。

「・・・よっちゃん?」

「・・・のの?と、亜弥?」

訳が分からないといった様子のよっちゃん。
そんなよっちゃんとのん達の間に挟まれている、最初に飛び出してきた人。
その人は、昨日のん達が河川敷で見つけた、あの女の人だった。