ぼーっと立ったまんまののんとよっちゃん。その足下には知らない女の人。
ゴォォオオオオオオオ・・・・・と頭上で音を立てて、また電車が通り過ぎていった。

「どうしよう」

よっちゃんがポツリと呟いた。それはひとり言。のんは黙ったまんま女の人を見てた。

「どうしようね」

のんもひとり言。よっちゃんは爪を噛んで女の人を見てた。

女の人は苦しそうに目を瞑ったまま動かない。
空を見た。青い空はもうどこにもなくて、全部が薄いオレンジになっていた。
犬の鳴く声が聞こえてくる。
女の人の額に乗っていたタオルを取り替えようと手に取った。もの凄く熱い。
触ってみ?とよっちゃんに突き出す。
よっちゃんはタオルを手にとって驚いたように目を開き女の人を見た。川でタオルを濡らしてまた戻る。
よっちゃんが女の人を背負っていた。

「・・・どうすんの?」

「連れて帰るしかないだろ」

よっちゃんは地面を睨んでぶっきらぼうに言った。のんはタオルを片手に持ったままボーっとしてるだけだった。
何だか頬っぺたが冷たいな、と思ったら自分でも知らないうちに泣いていた。
悲しいわけでもどこかが痛いわけでもない。怖かったんだ。
よっちゃんは女の人をおぶったままザッザッと歩く。置いてけぼりにされたくなくて走って後を追いかけた。
斜面を上がって一息つく。目の前には横になった自転車が一台。一台。のん達は三人。
ここまできたはいいけれど、ここからどうしようか。2人で顔を見合わせた。
おぶっていた女の人をそっと降ろしてよっちゃんが腰を下ろす。

「あー、どうすっかなー」

手の平を拳でパンパン殴りながらよっちゃんが呟く。
のんは手にしていたタオルを女の人の額にそっと置いた。そしてよっちゃんの隣に座って川の流れを見つめる。あ、ボール。
薄暗い河川敷に白いボールがぽつんと浮いている。

「のん、ボールとってくんね」

よっちゃんに言って一気に斜面を駆け下りた。
のんはこれでもフットサルプレイヤーだ。一応。だからボールは友達。大切にしなきゃなんだ。
ゴメンね、ボールさん。拾い上げたボールを大事に抱えて斜面を上がる。
人が一人、増えていた。それと自転車も。