
がきさんみきさんのenjoy!学生生活
季節はもう初冬。二学期の期末テストが終わりもうすぐ冬休み。
テスト前になると図書館で勉強をするんだ。
という親友である加護亜依ぼんにつられる形で図書館へ行ったはいいものの、
結局勉強など一切せずに迎えてしまったテスト本番。結果は散々だった。
だが新垣はそれ程落ち込んではいなかった。
テストは散々だったが新しい出会いがあったのだ。三年生のごとーさん。図書館で出会った。
図書館へ行ったはいいが勉強などせずに、新しく知り合った後藤とずっと話に花を咲かせていたのだ。
この後藤という人がとんでもなく頭の良い人で、なんでも大学の医学部に進学する事が既に決まっているらしい。
一度新垣が後藤に期末テストのために勉強をしなくてもいいのか?と聞いた事がある。
すると後藤はテストの五分前に教科書パラパラ見たら大抵出来るからと笑ったのだ。
新垣には信じられなかったが、後藤の頭の良さは本物らしかった。
それほどまでに頭の良い後藤は藤本の親友でもあった。
藤本の友達である後藤は彼女のために『おっぱい薬』を作ってあげている。
頭は良いのだがその賢さを使う場所が少し間違っているんじゃないかと新垣は思うのだが、
後藤本人はたいして気にしていないようなので新垣もそこには触れない。
そんな頭は良いけど少しどこかおかしい後藤と仲良くなれたので新垣はテストの結果が散々でもあまり気にしていなかった。
今日までは。
いつものように授業を終え、図書館へよって後藤と少し喋る。
するといつの間にか吉澤がやってきて、何故か吉澤と一緒に帰ることになって学校を後にする。
吉澤とは途中で別れ、一人自宅へと帰路を歩く。
家へ辿り着き「ただいまー」とドアを開けたすぐだった。
母親が鬼の様な形相で立っていた。
「た、ただいま?」
「おかえり」
母親は返事を返してくれたが明らかに怒っている。
なぜだ、何かしたかな?
寄り道も買い食いもしてないし、帰ってくるのちょっと遅かったかもだけど図書館よってただけだし何もしてないよ?
「里沙、お母さんは悲しいわ」
「は、何が?」
「アンタが馬鹿だって事はとうの昔から知っているの。もう分かりきっている事なのになんで隠そうとするの」
母親は悲しそうに言うと後ろに回していた手を出した。
・・・あ。
母の手には×印だらけの答案用紙が握られていた。
別に隠そうとしてた訳じゃないんだけどなぁ。
てか貴方実の娘にむかって馬鹿って。ちょっと酷いよ。
確かに馬鹿だけどお母さんには言われたくないよ。
「頭悪いのは知ってたけどまさかここまで酷いとはねぇ。誰に似たのかしら」
アンタだよ!若しくは父さんだ!
だって私貴方達の子供でしょ?それともどこかから拾ってきた子なの?
母親は悲しそうに言う。彼女の疲れてしまった様な顔を見て新垣は申し訳なく思ってしまった。でもどうしようもないよ。
「アンタ今からこんな点数低くてちゃんと進路なんかは考えているの?」
母親は言う。
新垣は俯いてしまった。進路。なんか嫌な響きだ。
全く考えてないよ、だってまだ一年生だもん。
「一年生だからまだいいやなんて思ってると後で痛い目見るわよ」
母親は悪戯っぽく笑った。
新垣は笑い返したものの心をズバリと読まれて少し気まずかった。
母は気付かない様で、雰囲気をガラリと変えると優しく言った。
「さ、いつまでもそんな所に立っていないで中に入りなさい。すぐご飯にしましょう」
母に促され新垣は家の中へ入った。
その日の夕食は何故かいつもより心に染みた。
そして入浴を済ませ自分の部屋で寛ぐ。暫くすると鳴る窓ガラス。
「やぁがきさん、こんばんは」
藤本がやってきた。
外はもう大分寒い。朝方や夜なんかは吐く息が白く見える。
それでも藤本は毎日のように窓から現れる。
新垣の部屋にきて何をするかと言えば大して意味のないバストアップエクササイズ。
なんで自分の部屋でしないんだろう。
新垣はいつも思うが別に迷惑ではないのでそのままにしている。
今夜も藤本は一人黙々と体を動かし続ける。新垣はそれをぼんやりと見ていた。
「がきさんどうした?今日はいつにも増して変だよ」
藤本の声で我に帰る。
一区切り付いたのか藤本はベッドの上で胡座をかいている。
「やぁ、別に何もないですよ・・・てか何ですかいつにも増してって。いつも私普通ですよ?」
「いーや、がきさんは普通じゃないよ。それに何もない事はないでしょう」
藤本は髪を掻き上げると妖艶な笑みを浮かべて言った。
「美貴さんに何でも話してみなさい?」
凄くセクシーだけど胡座掻いてるから五十点マイナス。
新垣は観念したように溜め息を吐くと藤本の前に紙切れを広げた。
母から奪い返した答案用紙だ。
藤本の顔が一瞬笑い出しそうになったのは見なかった事にしておく。
「・・・お母さんにこんな点数で進路どうするのかって」
「は、ははぁ、確かにこりゃ大変だね」
藤本は笑いを堪えるかの様に明後日の方向を見ながら取り繕った言葉を吐く。
恥ずかしくなって答案用紙を回収し引き出しの奥の奥に突っ込む。
なんだよ、馬鹿にしやがって。
「で、でもさぁ、がきさんまだ一年生なんだし」
「そーゆー風に思ってると後で痛い目見るってお母さんが言いました」
「あ、あらそう」
会話が途切れて気まずくなった。
何だよ、進路進路って。馬鹿じゃないのか。
でもなぁ。
つい最近仲良くなった後藤は既に医学部へ進学が決まっているらしいし、
新垣の中でトップオブザバカの位置に君臨している吉澤だってもうすぐ芸術大学の推薦試験があるらしい。
大事な事なんだよなぁ。
一年生だからいいやなんて言うけど三年生になるのなんてあっという間だもんなぁ。
三年生。
後藤と吉澤。後藤と吉澤?
・・・もっさん。
そうだ、そうだよ、目の前で寝転がってお腹掻いてるこの人も三年生だよ!
もっさんはどうなの!?もっさんの進路は?
「ああああのもっさん!!」
「何、いきなり五月蠅い」
「進路は!?」
「・・・面舵いっぱい?」
トップオブザバカは吉澤さんだけど次点はこの人だ。
ってそうじゃない。
「もっさんの進路は決まってるんですか!?」
「あー、そっちか」
藤本は面倒臭そうに呟くと体を起こした。
そしてベッドから降りてくる。
新垣の目の前で立つとニィッと笑った。
「ナーイショ」
口をポカンと開けて固まる新垣を残して藤本は自分の部屋へ帰って行ってしまった。
藤本の部屋の窓が閉まる音で新垣はようやく動き出す。
・・・内緒?
何が内緒?
進路が?進路が決まっているのかいないのかが内緒?
どっちだろう。
決まっているのならもっさんの進路はどんなだろう。決まっていないのならもっさんはどんな進路を選ぶのだろう。
新垣は突然怖くなった。
三年生。進路。卒業。・・・別れ?
いやだいやだいやだいやだいやだいやだ!!
そんなのって嫌だ!
だって、今までずっと一緒だったんだ、これからだってずっと一緒だよね?
家は隣りだし離れ離れになんかならないよね?
どこか遠くに行っちゃうなんてないよね?
そうだ、吉澤さんも後藤さんもだ、遠くになんか行かないでしょう?
散々馬鹿だとかアホだとか言ってたけど私貴方達の事好きなんだよ、離れていったりなんかしないよね?
ずっと一緒にいたいよ!
突然悲しみが襲ってきて新垣にはどうしようもなかった。
嫌だ。卒業なんかしないで。
また来年もその次も一緒に学校行こうよ。
どんな馬鹿やったっていいから。一緒に遊んでよ。
大人にならないでよ。ピチピチの高校生でいてよ。
私を置いて行かないでよ。
悲しくなって新垣は泣いた。
静かにしゃくり上げて泣いた。
机の上の写真立ての中で藤本と吉澤と新垣の三人が笑っていた。
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