
貧乳と豆と変態と関西ガールズ(Spring has come!?)
とある休日の午後。新垣の部屋に藤本がやって来た。
やって来て何をするかと言えば特にこれと言ってする事は何もなく、一人で無駄に体力を消費する。
バストアップエクササイズ。
だから何でこの部屋でやるかなぁ?
フッフッとリズム良く息を吐く藤本を見ながら新垣はぼんやり思った。
「・・・もっさんこれから関西弁で喋ったらどうですか?」
「なんで?」
「だってもう巨乳は無理じゃないですか」
「んん?よく聞こえなかったなぁ、何が無理だって?」
「あ、いや、違う、無理じゃないけど時間がかかるでしょう?関西弁ならすぐですよ」
「そ。つか何でいきなり関西弁なの」
「だってほら、吉澤さんが最近付き合ってた二人って共通点あるんですよ、巨乳と関西弁」
「おぉ、そう言えばそうだったな」
「だから吉澤さんの好みってきっと関西弁で話す巨乳なんですよ」
「おおぉ、凄いよがきさん」
「いえいえ。だから関西弁で喋ったらその内吉澤さんゲット出来ますよ!」
「まじか!美貴頑張る!でかしたがきさん!」
「いやーそれほどでも。だからもっさん、明日から吉澤さんと話す時は関西弁ですよ?」
「おぅ、まかしとき!」
親指をグッとたて早速関西弁らしき物を使う藤本。
なんだかなぁ、何かに似てるなあ。
見かけによらず?可愛らしい声を持つ藤本。鼻にかかった甘い声での関西弁は可愛らしいちびっこチンピラの様だ。
藤本に見つからない様に新垣はこっそり笑った。
数日後、学校の屋上。
給水塔に凭れかかる二人の生徒。新垣と吉澤。
ヘラヘラ笑ってばかりの吉澤は珍しい事に疲れたような表情を浮かべていた。
心なしかやつれている様にも見える。
家に帰ろうとしていた所を吉澤に拉致された新垣は訳が分からずにただ吉澤が喋り出すのを待っている。
暫くして、やっと吉澤が口を開いた。
「なぁがきさん」
「何でしょう」
「火垂るの墓っていいよな」
「あぁ、アニメですか?いいですよねー。前もっさんと見ましたよ!」
「やっぱり」
やっぱり?
はぁっと大きな溜め息を吐く吉澤を見た。
そんな新垣の腕を吉澤がガッと掴む。
「頼むがきさん止めさせてくれ!」
目にうっすらと涙を浮かべ悲痛な声を上げて懇願する吉澤。
新垣は訳が分からない。
何だなんだなんだ?何を止めさせる?
「ちょっ、落ち着いて、何をです?もっさんですか?」
吉澤はブンブンと首を縦に振る。必死だ。
「そう、ミキティの関西弁!お願いだから止めて!」
吉澤は叫ぶ様にして新垣にすがりつく。
更に訳が分からない。
何でよ、吉澤さんは関西弁で喋る子が好きなんでないの?
私の思い違い?
あ、分かった!もっさんが巨乳じゃないからだ。
そうでしょ?
「最近アイツと喋ると何故か関西弁なんだよ。しかもセツコなの」
せつこ?
あぁ、あのアニメの妹か。
そうか、それだ!
何かに似てると思ったらそれだ、よく気付いたナイス吉澤!
「・・・でさ、夢にまで出てくんだよ。何故か私が兄貴でミキティが妹なんだ。
あの顔でセツコのカッコして『セツコな、おなかピチピチやねん』とか言うの。マジ恐怖だよ耐えらんない」
吉澤は一気に吐き出すと自分の体を抱き締めた。
相当怖いのだろうか、ガクガクと震えている。
新垣は想像してみた。
・・・・・・。
・・・うん。
怖ぇええええ!!!
こいつぁ立派な睡眠障害だ!
新垣は吉澤の腕を掴んだ。
「分かりました、止めさせましょう!」
吉澤の目を覗き込み、力強く宣言する。吉澤もきりっとした表情を浮かべ頷き返す。
ここに吉垣同盟が発足した。
「がーきーさん」
「何でしょう?」
「おっぱい、大きなった?」
「その調子ですよ!てか何で関西弁。吉澤さんに対してだけでいいんですよ?」
「だって抜けへんねやもん。無理」
新垣は頭を抱えた。
だめだ、今日絶対夢に出てくる。
鮭トバ片手に生肉かじりながらお腹ピチピチやねんとか言う。
レバ刺し出しておにーちゃんもどーぞとか絶対言う。
生で肉食べるからお腹痛くなるんだよ!
そんなのヤダヤダ。それに吉澤さんと約束したんだ。
「ぅあ、あ、あの、もっさん」
「何?」
「あの、今日吉澤さんに会ったんですけど、関さばっ」
ボフッ!
言い終らない内に顔面に枕の急襲。
顔に張り付いた枕を取ると目の前には鬼。もとい藤本美貴。
魂抜かれる!新垣は慌てて目を逸らした。
「よっちゃんと会った?美貴知らないんだけど」
「うぅ、いや、あのですね、会ったというか、いや、別に私は会いたくなかったんですけどね、
吉澤さんが、あぁ、でも吉澤さんも別に私に会いたいなんて思ってないんですよ?
あのですね、あーなんと言うかつまり遭遇したというか拉致られたというか・・・」
「長い。しかも何それ意味分かんない。美貴も拉致られたい!」
拉致られたいってアンタ。
地団駄を踏みガチガチ爪を噛みながら悔しがる藤本。
おぉ、何だか優越感。って違うだろ!
つーか貴方相当吉澤さん好きですね。
「で、まぁ吉澤さんに会ったんですけど、関西弁ブーム終ったみたいですよ」
「マジで?」
「でじま」
「ふーん、関係ないね」
「は?」
「気に入った。美貴これから関西ガールになる!」
ぅおっとぉ!宣言しちゃった!
目キラキラ光ってるじゃないですか!どうした藤本、滝川を捨てるのか!
グヘェ!いきなり右フックは卑怯ですよもっさん。
「ゲフゲフ、ぅ、や、あの、でも吉澤さんが」
「うるさいなぁ、よっちゃんは関係ない」
「・・・はぁ?」
「美貴、好きな人出来た」
「ほぅ・・・って、はぁあああああ?」
恥じらう様に俯き加減で頬を赤く染める藤本。
前に組んだ手をモジモジさせてまるで恋する乙女だ。
って、恋してるのか。
でも吉澤さんじゃない。誰に対して?
つーかさっき地団駄踏んで悔しがったの誰だよ。拉致られたい発言したの貴方でしょ?
「よっちゃんさんの事嫌いになった訳じゃなくて、好きだけど大好きだけど超好きだけど
ほんとマジでクレイジーフォーユーのフォーリンラブなんだけどそれ以上に好きな人見つけちゃった」
テヘッと舌を出して恥ずかしそうに笑う藤本。新垣の背中に虫酸が走る。
こんなのもっさんじゃない!
痛いどころかそれ通り越してキモい。
新垣は藤本の目の前でパンッと手を叩いてみた。
驚いたのか目を大きく見開く藤本。
しかし次の瞬間。
「何しとんじゃい!」
出た!伝説の大外刈り!
まともにくらった新垣は受け身もとれずにどうっと床に倒れ込んだ。
やっぱもっさんだ。うん、もっさんだよな?
「もっさん」
新垣は床に倒れたまま天井を見つめながら口を開く。
視界の隅には藤本の顔が少し映っている。
満足そうな笑みを浮かべた藤本はん?と首をかしげる。
「もっさんの好きな人って誰ですか?」
「んー、一番はよっちゃんだけどぉ・・・んふー、内緒」
ぐはあっ!君の瞳に恋してる!
藤本は妖艶な視線を新垣に向けるとしゃがみ込んで耳元で囁いた。
「がきさんも恋しなよ」
最後にフッと息を吹き掛け悪戯っぽく笑うとまた明日ねと手を振って自分の部屋へと戻っていった。
なんだ今の。
心臓がドキドキしていた。息の掛かった耳がこそばゆかった。
体中がむず痒くて床の上をゴロゴロ転がり回った。
どうしたんだ私。どうしたんだもっさん。
もっさんの好きな人って誰だよ。吉澤さんじゃない人って誰だよ。私は知ってるのかよ。
恋しなよなんて一々言われなくてもするよ。相手がいればだけどね。
なんでもっさんに言われなきゃなんないんだ。そんな事言うなよ。
何故かイライラして枕をバシバシ殴ったらスッキリした。
吉澤さん、申し訳ありませんがもっさんの関西弁は止めれそうにありません。
それより重大な使命が新垣には出来てしまったのです。
吉垣同盟も誠に勝手ながら解消させていただきます。
てか吉澤さんは知ってるのか?
そう、これ大事だよきっと。明日聞いてみよう。
心に一つ決めると新垣は電気を消して布団に入った。
明日。明日だ。
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