エロフィス!体育祭



秋晴れの空の下、高らかにファンファーレが鳴り響く。
ハロモニ女子学園高等部体育祭開催。
正に体育日和のこの日、学長やらなんやらのお偉いさん達の話を終えて競技が始まる。
新垣里沙は憂鬱だった。
まず何よりこの体育祭実行委員という役職が泣きたくなるくらい嫌だったし、ギンギラギンにさり気なくなんてもんじゃなく、
あからさまにガンガン照り付ける太陽にそりゃあもう心の底からムカついていたし、それになにより、

「がきさぁ〜ん、吉澤さんは暇すぎて死にそう」

と、先程から同じフレーズをエンドレスリピートなこの人がもう本当に鬱陶しかったのだ。
じゃあそのまま死んで下さい。と、喉元まで出かかった言葉をすんでの所で飲み込んで、振り返るとぎこちなく微笑む。
吉澤は色気ムンムンな医務教員と歓談(猥談?)していた。
・・・別に暇なんかじゃないんじゃん。やっぱり死んじゃえばいい。
と言った風に、まあ新垣の心は爽やかな秋晴れの空とは正反対にどんよりと曇っていたのだった。
一つ大きな溜め息を吐いて机に肘付いた。その手に顎を乗せて目を細める。
あぁ、暑い。暇。眠い。暑い。背中暑い。マジ暑い。むわむわする。って、

「よよよ吉澤さん!?」

「っがっ、いひはいうほうあ、えおは(いきなり動くなベロが)」

なんだかムショーに暑いと思ったら背中にべったりくっついていた吉澤。
目に涙を浮かべて口を押さえている。ざまぁみろ、いい気味だ。
汗でくっついてしまった服をパタパタと動かし空気を取り込む。それでも入ってくるのはぬるく蒸し暑い空気。
パタパタするのをやめて再び椅子に腰掛ける。
何がしたいのか地面にぺったり俯せに寝転がる吉澤を無視してグラウンドに目を向ける。
トラック内で様々な競技を行う生徒達。あぁ、向こう側に行きたい。
今すぐここを離れたい。誰か私をここではないどこかへ!

「・・・何してるんですか吉澤さん」

「ん?ひんやりする」

「は?」

「あっついだろ?がきさんもやってみなよ、ひんやりするぜ、地面。地面最強愛してる」

吉澤は伏せたまま地面にキスしている。そんな趣味があったのか。
とりあえずこの馬鹿はもう無視する事にして再びグラウンドに目を向ける。
あぁ、暑い。暇。眠い。暑い。マジ暑い。頭暑い。むぁむぁする。って、

「ぶばぁっっ??」

「うひゃひゃ、がきさんお前面白いな!」

「うーん、がきさんあんま顔ぐりぐりせんでぇ、こそぐったいわぁ」

「っっばぁっ!?岡田唯ちゃんDカップぅ!!?」

呼吸困難に陥りそうになりながらも必死の思いでふわふわした何かから頭を引き抜くと、
馬鹿笑いする吉澤とボーっと突っ立っている吉澤の元彼女、おっぱい一号岡田唯ちゃんDカップ。
何だ、何が起きたんだ?
訳が分からずしかめ面する新垣に吉澤がニヤニヤしながら小さな声で尋ねる。

「どうだったがきさん、初めてのパフパフは?」

「ぱふぱふ?」

「そう、パフパフ。初めてだろう?」

「パフぱ・・・変態!!」

思わず突き出した右腕は吉澤の顔面にクリーンヒット。
ほげぇ!と吹っ飛ぶ吉澤を尻目に新垣は一人赤面した。
パフパフって。関西弁巨乳岡田唯ちゃんのDカップおっぱいでパフパフって。
うはぁ、どうしよう。
苦しかったけれどふわふわしてて良い匂いがした。
そう、例えばそれはきっとシュー生地の中にたっぷりとつまったクリームのようなものだ。
ふわふわとろとろ気持ち良くて甘いんだ。
あぁ、あのまま窒息死しても良かったかもしれない。

「がきさん一人でニヤけてんなよぅ、思い出し笑いか?むっつりエロか?イヤらしい子ね!」

コイツの相手をするくらいなら。
吉澤は口元に手を当ててくひひと笑う。
その後ろでは相変わらず岡田がボーッと突っ立って。
何故に彼女は私にパフパフなんかをしてきたのだろうか。きっと吉澤さんにでも命令されたんだろうな。
新垣は酷く蔑んだ視線を吉澤に送ると再び机に肘付いた。
グラウンドではプログラム通り、順調に競技が進行されている様だ。
楽しそうだな。新垣はまた溜め息を吐いた。
机に肘を付いたまま目を閉じる。背後から聞こえてくる吉澤と岡田のアダルトな会話は聞こえない振り。
あぁ、暑い。早く帰りたい。家に帰ってアイス食べよう。汗でべとつくシャツを着替えてシャワーも浴びて。
あぁ、マジ暑いし暇だし眠いしだけどその前に、

「吉澤ぁあああっ!!」

「ぅおっとぉ、落ち着け、まだ何もしてないよ!」

「黙れ!岡田さんも!何されるがままになってんの!おかしいでしょ!」

「ぇえ〜、せやかてほんまに背中痒いねんもん」

「だからって何で!」

口から唾を飛ばす新垣の視線の先。
岡田唯ちゃんDカップの豊満な身体にフィットしている体操服を中程まで捲り上げ、
背中に腕を突っ込む吉澤となんだか嬉しそうな表情を浮かべる岡田の姿。
吉澤は残念そうに顔をしかめると名残惜しそうに腕を抜いた。
岡田は岡田で物足りなさそうに体をくねらせる。
なんなんだこの人達。変態だ。エロフィスだ。
新垣は頭を抱えてしまった。
なんなんだよこいつら。あぁ、もうホント逃げ出したい。
ウンザリする新垣をよそにエロフィスな二人組はキャッキャとはしゃぐ。
新垣は無視することにした。グラウンドで繰り広げられる競技に集中することにした。
すると視界に見慣れた平らな胸の持ち主。藤本だ。
近寄り難いオーラを発し、偉そうに腕を組んで立っている。
どうやら次に行われる100m走に出るらしい。

「吉澤さん吉澤さん」

「なんだいなんだい」

「次もっさん走るみたいですよ?」

「へー、そう」

なんだよ。
せっかく教えて上げたのに吉澤の反応はイマイチ。
大の仲良しさんなのに。応援くらいしてあげたっていいじゃないかバカヤロウ。

「あ、ウチも走らな」

背後で声が上がる。どうやら岡田も出場する様だ。

「よし、じゃあ吉澤さん見ててあげる!」

嬉しそうな声を上げる吉澤。

「は?何それ」

一瞬前とは打って変わってはしゃぎ声をあげる吉澤に新垣は鋭い視線を浴びせる。
すると吉澤はスススと近寄ってきて、耳元で囁いた。

「だってミキティおっぱいないじゃん」

「はぁ?」

「やっぱさ、ゆさゆさ揺れるおっぱいの方が素敵じゃん?」

あぁ。
全身から力が抜けて、崩れ落ちた。吉澤は小さな子供のように目をキラキラさせて嬉しそうに笑う。
その笑顔は憎たらしい程に純粋。泣きたくなった。
そうだよ、そうだよね。
もっさんはおっぱいが無いもんね。走っても跳ねても全く揺れないもんね。
それに比べてDカップおっぱい。
じっとしていてもどっしりとした存在感。一歩踏み出すだけでゆさゆさ揺れちゃうもんね。ホラ、今でも。
走ったりなんかしたらもうアホみたいに踊り狂っちゃうよ。サンバだね。岡πサンバだ。

「藤本さんに勝てるやろか」

「ミキティは速いぜ?でも勝つか負けるかじゃないよ、とにかく精一杯走るんだ!」

そうだね。貴方はおっぱい揺れるの見たいだけだもんね。
きっと走るのではもっさんが勝つよ。でもそれはきっと試合に勝って勝負で負けるような感じだね。
おめでとう岡田唯ちゃんDカップ。勝者は貴方だ!
新垣は力無くヘラヘラと笑った。

「なんだよがきさんキモいな、妄想しすぎだぞ変態!」

変態に変態って言われちゃった。もうどうでもいいよ。
さっさとおっぱい見に行ってこいよ変態。
手を繋いでトラックへ向かう吉澤と岡田を力無い笑みで見送った。
あぁ、暑い。空はムカツク程に青い。真っ白な体操服は太陽を反射して眩しい。
きっと素敵に揺れるんだろう。どんなものなんだろうか。
もっさんには悪いけど少しだけ見てみたい。ほんの少しだけね。
頭の中をおっぱいが浸食していく。新垣はグラウンドにがっついた。
スタートを告げるピストルの音が響いて、新垣の視界でサンバが繰り広げられた。


サンバの直後に鼻血が出てしまったのはきっと暑かったからだ。間違いない。
鼻を押さえて藤本にオメデトウを言いに行った。無い胸を張って藤本はとても満足そうに笑った。
その傍らで試合に負けたDカップのおっぱいが未だにぷるぷると揺れていた。
溢れ出す真っ赤な鮮血を抑えて岡田にはありがとうと言っておいた。
グッジョブ岡π、本当の勝者は貴方だよ!





―エロフィス!体育祭―





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