
dive! dive! dance!
さあベイべー思いっきり飛び込んでおいでよなんて両手広げて爽やかに笑うもんだから、
お言葉どおりに勢いつけて飛び込んでったらお腹のどこか変なところからぐえと声を出してぐしゃっと潰れた。
潰してそのまましばらく上に乗っかっていたら今にも死にそうな声で重いっすなんて、
最近少し体重が気になり始めた私に核ミサイルをぶつけてきた。
だからもう少し乗っかっていようかななんて思ったけど下で潰れてるソイツの顔がマジでやばそうで、
その白い顔が真っ赤になってたので可哀相かなとか思っちゃったりもしてだからしょうがなくどいてやった。
私が退くとゲホゲホと大げさに咳込んでみせて、苦しそうに胸を押さえてもう死ぬなんて言い出した。
その言葉がやっぱり私の軟なハートにグサグサと突き刺さるもんだから、
介抱してあげる振りして背中をおもいっきし叩いてやった。
すると今度は目を白黒させて声にならない声を上げて眉毛を八の字に歪めて心底痛そうな顔をした。
酷いや痛いやなんて言いながら、でも何故かその口元が緩んでて本気なのか冗談なのか分からなかったから放っておいた。
放っておいて私は壁にもたれてソイツを見てた。
今日もオトコマエですね。今日もキャプテンしてますね。今日も人気者ですね。
しばらく何もせずにただボーっとしてソイツを見てた。
するといきなり腕立て伏せを始めた。
彼女が突然にストレッチをしたり叫び出したりなんて事は日常茶飯事なので、
特に驚きもせずに彼女が数を数えながら腕立て伏せをするのを見ていた。
すると目が合った。
目が会っても彼女は身体を動かしたままで私もただ見つめるだけでなんだかおかしな空気が流れた。
50まで数えて彼女は腕立て伏せをやめた。
近くにあったタオルで汗を拭きながら私の隣に腰を下ろした。
なんでいきなり腕立てよと突っ込むと力持ちになりたいんだと真面目な顔して答えた。
意味が分からなくて眉を潜めると彼女は立ち上がって言った。
さあベイべー僕の腕に飛び込んでおいで
両手広げて真面目な顔して放つソイツに一発蹴りを入れた。
崩れながら蹴りじゃなくて愛が欲しいんだななんて小さく呟いてた。聞こえないように言ったつもりなんだろうけどしっかり聞こえてた。
だからもう一つおまけにお尻を蹴ってあげた。
ひゃんと年甲斐にもなく可愛い声して逃げるソイツに飛び込んで欲しいんだったら足腰鍛えなと言ってやった。
するとソイツは真面目な顔して何やら考え出した。
首を捻ったりウンウン唸ったり。なかなか動きそうにないので放っておいた。
まただ。
目の前にはニコニコ笑って何か絶対変な事考えてる奴の姿。
なるべく気にしないように目にしないようになんて努力してみても結局それは何の意味も成さなくて、あっさりとソイツに捕まった。
そしてまた同じ事言うんだ。
いいかげん少しウンザリ来てそれに練習だってちゃんとやらなきゃだしなんかムカついてだから思いっきり飛び込んでやった。
また潰れて拗ねて文句言って私の繊細なガラスで出来た乙女心を傷つけるのかしらなんて思ったけれど全然違った。
ソイツは潰れなかったのだ。
正面から飛び込んでいった私をしっかり捕まえて離さなかった。
ビックリして、嬉しいと同時に凄く恥ずかしくてこんなちゃんと支えれるようになるなんてどんだけ鍛えたんだよこの馬鹿が、
なんて少し可笑しくも感じたりしてまあでもそんな彼女をちょっとカッコいいななんて思ってしまったのが一番だった。
さすがにそのまま何時間も立ってるなんてことは出来なくて、
ほんの何十秒かで私の足は地面について彼女は人工の芝にバッタリ倒れた。
そして寝ころんだままえへへと笑った。やった、うちってば力持ち。なんて無邪気に言うもんだから可愛くて私も隣に寝ころんだ。
するとコロコロと転がってきてねね、惚れた?なんてニヤついた顔して聞いてきた。
その顔がムカつくほどに可愛くてだからばーかとその顔を向こうへ押しやった。
それでもソイツはしつこくて顔をこっち向けてまた聞いてくる。
えへへ、惚れたべ?だべだべ?なんて調子に乗ってきたソイツを寝ころんだまま足で突き飛ばしてやった。
するとおお痛い痛いとまるで小さな子供のように喚き出して、ちょっと私も力入れすぎちゃったかな、
なんて罪悪感を感じてそいつの顔を覗きこんでみると、ソイツはおっきな目を三日月みたいに細めて笑ってった。
呆れて物も言えなくて私は立ち上がった。もうそろそろ真面目にやんなきゃヤバイよね。
練習の輪に入ろうと立ち去ろうとした私の足を彼女が掴んだ。
なんだろうと思って彼女を振り返ると、真面目な顔してなんかあったらウチが受けとめたげるからねなんて言うんだ。
何も言えずに黙ったまま彼女を見つめてたら、だからいつでも飛びこんどいでよなんて自分の胸をドンドン叩きながら言った。
嬉しくて少し恥ずかしくて黙ったまま半身起こした状態の彼女の頭をくしゃくしゃ撫でた。
彼女が嬉しそうに笑うから私も笑った。
さあいこう。
立ち上がって彼女が手を差し出すので握った。
暖かくて大きな手。この手で私を支えてくれた。ぎゅっと握ると彼女もぎゅっと握り返した。
白いボールを転がしながら歩く彼女の横顔はとても綺麗で何だか楽しくて私は繋いだ腕を前に後ろに大きく振った。
彼女は一瞬ビックリした顔をしてでもそれはすぐ笑顔に変わってスキップまで付け足した。
太陽は馬鹿みたいに眩しくて、まっ平らな地面はそのまま空に繋がってるかのよう。
腕を振って地面を蹴って。
dive,dive,dance.
歌いながら彼女と共に。
手を繋いで大空に飛び込んだ。
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