地方病院を総合医の養成拠点に
石原晋さんが島根県邑南町の公立邑智病院(一般病床98床)の院長に就任して1年半がたった。当初は5割を割り込んでいた病床利用率が7割台に回復するなど、改革の成果が表れ始めている。院長としてこれまで最も重視してきたのが、「助け合い、教え合い」の精神だ。石原さんは「特定の専門分野に固執しない、何でもできるジェネラリスト集団を目指したい」と話している。
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石原さんは毎朝、病院近くに建てた、いおりから通って来る。
邑智病院の周辺は、冬は一面の銀世界に包まれる。しかし春の訪れとともに、今度は咲き乱れる花々に彩られる。石原さんは気が向くとカメラを構え、シャッターを押す。「病院の周りは毎日、景色が変わって興味が尽きない。もっと早く帰って来ればよかった」。
石原さんは、1975年に広島大を卒業して以来、救命救急医として超急性期医療の第一線に携わってきた。しかし2006年秋、故郷である邑南町の町長から邑智病院院長への就任要請を受け、悩んだ末に「ここらで人生をリセットしたい」と応諾した。
院長に就任して、これまであまり付き合う機会がなかった自治医科大出身の「総合内科医」たちの奮闘ぶりに驚かされた。「これは専門外だ」という言葉を吐かずに、何とか自分たちで対応しようとする。石原さんは、自分が携わってきた救急医療の専門性がこれに加われば、新しい展開が望めると感じている。
ただ、全国で深刻化する医師不足の問題は、邑智病院にとっても例外ではない。泌尿器科と外科の勤務医は共に1人のみ。石原さんが就任した当初、泌尿器科では1人の医師がすべての透析をこなし、外科では手術にも満足に対応し切れていなかった。
特に泌尿器科では、唯一の勤務医が満足に休みも取れず、学会にも参加できずにいた。そこで他の専門領域の医師に対し、研修をおこなって透析業務に協力することを呼びかけると、各診療科から名乗りが上がった。このため今では、小児科など各科の医師たちも加わり、透析の当番をしている。
また、外科系各科の医師が相互に協力して手術チームを組む体制も整備。外科の手術に麻酔科医や泌尿器科医らが助手として参加するようになった。これによって、従来は敬遠せざるを得なかった全身麻酔下での大きな開腹手術にも対応できるようになった。 さらに看護師や臨床検査技師、薬剤師らの業務範囲にもメスを入れた。当初は医師が担当していた超音波検査業務を臨床検査技師にカバーさせたり、病棟での与薬・点滴業務を看護師から薬剤師に振り分けたりと、職種間の相互支援の幅を広げた。
一連の見直しに伴い、各職種では本来業務の割合が格段に高まった。これがスタッフの満足につながっていると、石原さんはみている。
燃え尽きた勤務医が病院から去る「医療崩壊」が叫ばれる時代。石原さんは、今後も当面は勤務医不足の解消は望めないとみている。しかし、希望は失っていない。
「『助け合い、教え合い』で専門性のすき間を埋めていけば、かなりのことができるはずだ」
邑智病院では、消化器内視鏡や心エコー、気管支鏡など内科全般の業務を1人の内科医がこなす。石原さんは「この病院を総合医養成の拠点にして、何でもできるジェネラリストを育てたい」と話す。
より深刻な医師不足に悩まされているからこそ、地方の病院が都市部のモデルケースになりうると考えている。■「助け合い、教え合い」の精神、地域全体に
石原さんは就任以来、地域連携室を立ち上げ、急性期病院としての自院の機能を積極的にアピールし始めた。地域内の連携体制を築くため、邑智郡内のすべての病院や診療所、介護・福祉施設が参加する「邑智郡地域連携会議」も設置。さらに、地区医師会に呼び掛けて施設ごとの得意分野を整理した。
互いの施設担当者の顔すら知らずにいた地域に、「助け合い、教え合い」の精神が広がり始めた。すると、当初は4割台に低迷していた邑智病院の病床利用率も、7割以上に跳ね上がった。
地域の重症患者はかつて、遠方の出雲地方や県外の医療機関を受診せざるを得なかった。
「だけど、重症患者に対応できるだけの機能はもともと地域の中にあった。それならば、連携を充実させて各施設の機能を十分に引き出せばいい」
地域内の医療ニーズの8割程度に対応できるようになることが、石原さんたちの目標だ。
更新:2008/12/01 19:09 キャリアブレイン
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