トップ頁 > この一年の注目記事 > 李大統領と語った日韓新時代

注目記事

 李大統領は北朝鮮問題に対して、理念ではなく実用の物差しで解決を図ることが重要だと考えており、「非核・開放3000」構想に基づき、北朝鮮が核放棄と開放の道へ向かえば国際社会と協力して、10年以内に北朝鮮住民の所得が3000ドルになるよう援助するという。さらに「いつでも首脳会談に応じる」として、南北の政治指導者が互いに尊重しながら統一の門を開ける方法を考えなければならず、そのために会う用意があるという姿勢を呼び掛けた。
 また、これまでの韓国大統領の就任演説が、自国の長所を強調して語る例が多かったのに対し、李大統領が自国の欠点をある程度指摘しつつ、国民全体の団結を訴えたことも「新生韓国」の姿を窺わせた。
 李大統領は先述のように、過去二代の大統領による10年間を「挫折」という言葉で表現し、誤った政策の結果、中産階層が縮小し、庶民生活が厳しいものになったことを指摘した。「油断しているあいだに世界は私たちを追い越していく。国家の競争力は落ち、資源と金融市場の不安が、わが国経済を脅かしている」「急変する時代の流れを冷徹に認識し、変わらねばならない」という言葉を通じて、強い危機感を示した。
 これらの言葉はすべて、韓国国民に対して「李明博氏が堂々たる大統領になる」という予感を与えたものである。国家指導者として将来のビジョンを打ち出せば、韓国の実態について大胆な発言を行なっても、国民は真剣に受け止めてくれる。だからこそ私も、李大統領との会談では私の考える日韓関係改善の方策について、あえて韓国側にとって耳の痛い話もしたのである。李大統領は、私のこうした意図をよく理解してくれたと感じている。

「中心国家」から「太平洋国家」へ

 また、今年3月1日に行なわれた三・一独立運動記念日の記念式典で、李大統領は日韓関係について「未来志向的関係をつくっていかなければならない」と述べた。「歴史の真実から目を背けてはならないが、いつまでも過去に縛られ、未来へ行く道を遅らせることはできない」として、歴史問題について言及しないことを示唆した。
 この発言も、かつて盧武鉉前大統領が三・一演説のなかで、当時の小泉総理の靖国参拝や竹島問題を取り上げたのとは対照的である。過去10年、このような発言をした韓国大統領は初めてだった。
 李大統領の発言の背景には、すでに中国の胡錦濤政権が福田政権に対し、歴史問題を政治的に取り上げないと述べていたことも大きい。だが同時に、右の発言は李大統領の度量の大きさ、文化に対する理解力の高さを示すものでもある。
 李大統領が自らを「保守主義」と称するのも、日本に対して、いままでと異なる態度を予感させる。彼が進歩主義、左派的なスタンスをとるならば、北朝鮮重視の姿勢へなびかざるをえない。逆に保守主義で行くなら、拉致問題の解決を訴える日本をはじめ、自由と繁栄を望む太平洋諸国のスタンスに近づくことになる。盧武鉉前大統領が韓国を中心国家として「北を重視する」と考えていた時代とは、完全に風向きが変わってきているといっていい。共産党体制、左翼進歩主義体制を敷いてきた中国やロシアも、徐々に自由主義の価値観を強くしており、私がかねて主張している「太平洋国家連合」の姿に近づいている。
 私の考える太平洋国家とは、太平洋に面する国という地理的条件に加えて、自由民主主義や市場経済を尊重し、それらを基本とする国家のあり方を意味する。韓国も太平洋国家の一員として、自由民主主義や市場経済を基盤に置いた保守主義をめざし、それを価値観として国家戦略を打ち出すことは正しい。
 日本と韓国が共通の価値観をもつことは、両国の関係を緊密にするうえで重要な要素である。この4月に李大統領がアメリカと日本を訪問するのも、韓国が太平洋国家へ向かう第一歩であると考えたい。
 日本と韓国は、2005年末に靖国参拝問題をめぐり当時の盧武鉉大統領が来日を中止して以来、首脳同士の訪問が途絶えていた。それがついに再開することの意義は計り知れない。まさに日韓関係に春が来たのであり、日本も韓国の変化を真剣に受け止め、こちらからも積極的に働き掛けていくことを考えなければならない。

日中韓トップ会談の実現を

 では今後、日韓関係の改善を図るための具体的方策として、何が考えられるだろうか。1つは韓国の大統領と中国の国家主席、日本の総理大臣による「日中韓トップ会談」の定期的な開催である。これは私の年来の主張であり、李大統領との会見でも、この点についてしっかりと触れた。
 三者会談構想については、日本の福田康夫総理大臣も内心では賛成している。中国の胡錦濤国家主席も、私と会った際に「前向きに検討する」と語っていた。李大統領は私との会談のなかで「まさにその時期です。いままで交流が少なすぎた」と明確な意思表示をしており、まさに実現の好機である。
「日中韓」の立場を考えれば、三者会談のイニシアティブを握るのは、日中のあいだにある韓国が適任である。李氏が新大統領として提言、推進の旗手となれば、中国も日本も敬意を表するだろう、と私は話した。

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