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注目記事

李大統領と語った日韓新時代

中曽根康弘(元内閣総理大臣・日韓協力委員会会長)

柔軟な思考力の持ち主

 今年2月25日、韓国の李明博新大統領の就任式がソウルで開かれた。就任式には私も出席し、翌26日には日韓協力委員会会長として、ソウル市内の青瓦台で李大統領と会談を行なった。
 初めてお会いした新大統領の印象は「教養のある、穏やかな人物」というものであった。柔軟な思考力の持ち主であり、日韓関係の改善に対して、じつに強い情熱をもっていることを感じた。
 李大統領については、大統領選挙後の彼の言動から人柄・教養面ともに優れ、十分話し合いのできる方だろうと思っていた。おそらく新しい日韓関係の構築を望んでいるであろうと思い、今回の会談により、その考えが正しかったことをあらためて確信した。
 過去三代の大統領、すなわち金泳三、金大中、盧武鉉三政権の時代は、日本と韓国の関係はややもすれば冷却したものになりがちであった。過去三代の韓国大統領はどちらかといえば左派色の強い政治家であり、一方の日本側も、小泉純一郎総理や安倍晋三総理の靖国参拝に見られるように、若干、硬直した姿勢の政権が続いた。こうした関係がもたらしたマイナス面について、李大統領は残念に思っていたようであった。私もまた同じ考えをもっていたので、改善の志をもつ李大統領と、完全に話が合致したことを覚えている。
 じつは2003年に盧武鉉大統領が就任したときも、私は就任式の翌日、新大統領と会談を行なった。このとき私が述べたのは「韓国も『太平洋国家』の1つであり、太平洋を重視する政策をとることが韓国のためになる」というものであった。だが、これに対する盧武鉉大統領の答えは、「韓国は北東アジアの『中心国家』であり、北も重視する」というものであった。
 この「中心国家」という考えが盧武鉉政権およびその前の金大中政権の基礎にあり、対米関係や対日関係をぎくしゃくさせていた一因だったといえる。そのため李大統領は就任演説で金大中、盧武鉉政権の10年間をあえて「挫折」と批判し、韓国の自国中心主義により、他国に学ぶ姿勢の欠如から貿易や科学技術の導入が遅れていることを「政策に問題がある」として、是正していく考えを明らかにしたのである。
 さらに私は、26日の李大統領との会見後、全斗煥元大統領と金鍾泌元国務総理(韓国の首相に当たる)の家を訪問した。全斗煥氏は私の総理大臣時代に韓国大統領を務め、金鍾泌氏とは30年来の親友である。長い付き合いのなかで金氏の自宅を訪問するのは初めてであったが、2人とも大いに好感をもって迎え歓待していただいた。
 この2人から聞いた李大統領への評価も、いずれもすこぶる高いものであった。
 とくに金鍾泌氏の場合、ハンナラ党内で李氏との対立候補だった朴槿恵氏が親戚関係にあり、今回の大統領選ではどちらを応援するか大いに悩んだという。それでもソウル市長時代、李氏が高速道路のコンクリートに覆われていたソウル市内の清渓川を太陽の下に復元し、交通網を整備した行政手腕や、政治的力量を考え、韓国発展のために李明博氏が望ましいという結論に達し、応援することにした、という。
 全斗煥、金鍾泌の両氏は、かねてより韓国の政体を「健全な保守主義」に戻したいと願っていた。金泳三政権以降、左派系の進歩主義色の強い大統領が三代続いた結果、韓国政界内部では不協和音が強くなっていた。そんな状態を立て直したいという両氏の思惑が、自ら「保守主義」をもって任ずる李大統領の思想と合致したといってよい。
 李大統領の就任式における演説も、「新生韓国」の誕生を感じさせる立派なものだった。就任式には市民25000人を含む約6万人が参加したが、参加者は韓国人・外国人を問わず、同じ感想をもったことだろう。
 なかでも今年を「先進化元年」として、堂々と「韓国を早く先進一流国の1つにしなければならない」「今後、韓国は『理念の国』から『実用の時代』へと変わる」と述べたことは、国民にとって大きな激励となったはずである。
 国内問題では経済再生を最も緊急の課題として、企業の投資環境を改善することで新成長の原動力を確保し、さらに雇用を創出することを挙げた。「小さな政府と大きな市場」によって効率を高め、優秀な人材を育て世界へ送り、その一方で世界中の人材を呼び入れるという。
 輸出産業が経済の多くを占める韓国にとって、市場開放は避けられない流れであり、経済発展のために自由貿易協定(FTA)、EPA(経済連携協定)を積極的に進め、国富を増やさねばならないとの姿勢を示した。
 また、国民大衆の生活の改善を訴え、恵まれない国民のための施策として能動的、予防的な福祉の必要性や青年層と高齢者の雇用創出に努めることを宣言した。
 外交面では、「日本、米国、中国、ロシアなどと等しく協力関係を強化する」と語った。外交の安定性を重視し、これまで関係の薄かったわが国に対する配慮を行ない、北朝鮮や中国とのバランス関係を考え直した政策といえる。
 アメリカに対しては、伝統的な友好関係を「未来志向的な同盟関係」に発展・強化させることを宣言し、日本、米国との3カ国関係を強化することも語られた。これらは過去三代の欠陥を是正し、いままで欠けていた日本やアメリカとの提携を強化することを意味している。さらには、国連平和維持活動(PKO)への積極参加も掲げている。
 北朝鮮に対しては、過去三代の大統領は北朝鮮の態度にかかわらず、ひたすら協調に重点を置いていた。しかし李大統領はこの点を是正するため「北朝鮮の核放棄と開放政策を望む」と述べ、「いうべきことはいう」決意をはっきりと示した。

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