勝新太郎は1990年1月16日、米ホノルル空港での税関検査の際、コカイン1・75グラムをパンツの中に隠しもっていたとして、麻薬不法所持で逮捕された。同年3月12日、現地での釈明会見は芸能史に残る迷言珍言のオンパレードだった。一部を再現すると…。
−−どうして所持していたのか
『(飛行機で)トイレに入ると、いろいろ、おせんべい、南京豆なんか(ファンが)くれるんだ。たまたま、これ(コカインを)くれてネ。まずかったナー。俺は58(歳)だけど、その瞬間は何かわかんないけど、ポッと(パンツの中に)入れちゃったんだ』
−−なぜパンツに?
『パンツじゃなきゃ、ゴムがなくて落っこっちゃうもんネ。パンツがいけねーんだとも言えねえんだけど、パンツに責任があるともいえんし』
−−今、思うことは
『身から出たサビとはいえ、あまりにもひどいことを書かれすぎた。勝新太郎はこの世に生まれちゃいけないん男だなんて…。もうパンツははかない方がいいかナ、うん、パンツははかない』
稀代のエンターテイナーならではの煙幕だった。その直後、ハワイを訪れた映画評論家の浜村淳(73)は勝と食事をしている。「『座頭市』の原作はわずか80行ほどで、それをいかに膨らませたか。斬るより、鞘に納める方が難しかったことなど、延々と3時間近く話しましたが、全部『座頭市』の話でしたね」。
帰国すれば、日本でも即逮捕かといわれ、心労は相当だったはず。だが、もう一度「座頭市」を撮りたい…という叶わぬ夢を胸に抱いていた。のちに、勝は大阪で再会した浜村に声をかけた。
『ハワイではみんなから冷たい目で見られていたのに、訪ねてきてくれてうれしかったよ』
純真ゆえに、バカはした。だが、気持ちに曇りはなかった。それが勝新。ちなみにパンツは白いブリーフだった…といわれている。=終わり(敬称略)
勝 新太郎(かつ・しんたろう)
1931(昭和6)年11月29日、東京都生まれ。97(平成9)年6月21日死去。本名・奥村利夫。長唄三味線の杵屋勝東治の次男として生まれ、長唄で渡米した際、映画俳優になることを決意。54年に映画「花の白虎隊」でデビュー。60年の「不知火検校」で開花し、「悪名」や「座頭市」「兵隊やくざ」でダークなヒーロー像を確立。社長を務めた勝プロダクションが81年に倒産、90年にはコカイン不法所持でハワイで逮捕された。兄は故・若山富三郎さん、妻は二代目中村鴈治郎の長女で女優、中村玉緒。