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2008年12月1日

◎裁判員制度本番へ 分からぬ点は素直に尋ねよう

 来年五月の裁判員制度開始に向け、全国の約二十九万五千人に最初の裁判員候補者名簿 に載ったことが通知された。この制度をめぐり当初から「人を裁くことの難しさ」をはじめとして数々の疑問点が指摘され、論争も行われてきた。

 参加に消極的な人たちが少なくないため見切り発車の側面もあるが、制度が動き出すか らには反対ばかり主張していられない。

 最高裁が今年四月に発表した裁判員制度についての意識調査によると、義務だからやむ を得ないとする消極派を含めても参加意向は全体で約60%だった。

 が、若い層ほど参加意欲が高く、年代が上がるほど意欲が低下することや、都市部より 地方の人々に参加への抵抗感が強いなどの傾向が分かった。

 法律の素人がプロと肩を並べて重い罪を裁くことがそもそも無理ではないかとする疑問 など、推進派と反対派・消極派の意見はことごとくといってよいほど対立したままである。

 どちらにも合理的と思われる論拠があるからややこしい。制度の運用が進めば、どちら の主張が妥当だったかがはっきりする可能性があるし、修正しなければならない点も出てくるだろう。

 国民の義務として受けて立つとの前提で言えば、裁判員に選任された場合、一番大事な のは何かを考えてみたい。それはいささかでも分からない点があれば、分かったふりをせず、納得がいくまで素直に説明を求めるという事実に対する誠実さではなかろうか。

 裁判員制度をめぐる論争の一つに、素人が裁判に参加することで誤判(冤罪)が生じや すいのではないかということがある。が、誤判はプロだけでやってきたこれまでにも少なからずあった。

 その多くは自白の強要や偏重、ずさんな証拠調べ、弁護人が被告の人権を積極的に擁護 しなかった等々が原因だった。分かりやすい例で言えば、裁判史に残る有名な松川裁判を覆したのは裁判の素人だった二人の作家で、自白の信頼性に疑問を抱いたからだった。真実への道は誠実に徹することである。肝に銘じたいことだ。

◎近江町の朝市 地元客に魅力あるものに

 金沢市の近江町市場が来年一月からスタートさせる「日曜朝市」は、日曜営業の成否を 占うリトマス試験紙になるだろう。近江町市場は「市民の台所」として、武蔵地区に今まで以上に活気を呼び込む強烈なパワーを持っている。地元客に魅力あるものが提供できれば、週末に郊外の大型店へ車で出掛け、買い物をするライフスタイルを変えることもできるのではないか。

 近江町市場再開発ビルはきょう一日に仮オープンする。一階部分の生鮮品店舗が順次開 業し、今月七日には初の日曜営業が実現する。来年四月早々には地下一階のスーパーや二階の飲食店街も開業する予定で、国道157号に面した「エムザ口」から七十八メートルに及ぶ「鮮魚通り」をはじめ、アーケード新築・改修工事は全区間で終わった。これだけの大事業がほぼ峠を越え、仮オープンという大きな節目を迎えたことを関係者とともに喜び合いたい。

 ダイエーの撤退や相次ぐ大型郊外店のオープンで、一時「冬の時代」を迎えていた武蔵 地区は、近江町再開発事業をテコにして文字通り息を吹き返した。来春の全館オープンに向けて、武蔵地区への注目度はこれまでになく高まっていくだろう。仮オープンの今のうちから県民や観光客の目を近江町に引きつけ、買い物を体験してもらいたいところだ。

 日曜朝市は、そんな近江町の戦略に合致する。丁々発止のやりとりや値切ったり、値切 られたりする面白さ。売り手と買い手が声を掛け合い、世間話をする楽しさ。良い品を安く買うだけでなく、そうした心の交流を楽しむゆとりを、特に若い人たちに知ってほしいと思う。

 全国的に知られる輪島の朝市をお手本として、近江町市場の名に恥じぬ品ぞろえをする ことが肝要であり、特に品質に関しては手抜きは許されない。食の安全や表示に厳しく対処し、クレームを出さぬ努力も求められる。目の肥えた地元の主婦に支持され、評判が口コミで広がれば、おのずと観光客も集まる。全国的な「朝市ブーム」も追い風になるはずだ。


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