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社説:内定取り消し 若者の夢を台無しにするな

 大学4年の男子学生(23)が採用内定の取り消しを電話で通告されたのは2週間前だ。「君たちを受け入れる財力がなくなった」。内定をもらった他の6社を断って選んだ会社だった。10月の内定式で社長は「不況だが、うちは大丈夫」と言っていたのに裏切られた思いが募る。再び就職活動を始めたが、「だめなら留年も」と心は焦る。

 マンション分譲の日本綜合地所はこの学生も含め、いったん採用を決めた大学生53人全員の内定を取り消した。経済情勢の悪化を受け、業績予想を大幅に下方修正したばかり。「やむを得ない措置」と強調する。

 来春卒業予定の大学生や高校生らの内定取り消しが急増している。厚生労働省の緊急調査では、その数は11月25日現在、87社で計331人。年度途中にもかかわらず、金融破綻(はたん)が相次いだ97年度の1077人、就職氷河期が続いていた01年度の380人に次ぐ多さだ。今春の大学卒業者の就職率が96・9%と最高水準の「売り手市場」だったのに、米国発の金融危機が風景を一変させてしまった。

 内定通知を受けた学生は通常、他社への就職活動をやめ、その会社に入る準備をしながら社会人となる日を心待ちにする。人生の門出を目前に、希望を突然断ち切られる衝撃と心痛は計り知れない。企業のご都合主義で若者の夢を踏みにじることは許されない。

 採用内定は企業と学生との労働契約に当たり、取り消しは合理的理由があると認められる場合に限られるとの最高裁判例がある。地裁レベルでは、企業が経営上の理由で内定を取り消すには、正社員の整理解雇と同様▽どうしても人員削減が必要▽努力しても他に方法がない--などの厳格な要件が必要だとの判断も示されている。要は、よほどのケースでない限り、取り消しは認められないことを企業は肝に銘じるべきだ。

 経営破綻ならともかく、経営悪化を理由にした内定取り消しが331人中212人に上る。安易な取り消しはないか、厚労省は速やかに実態を調査し、適切な指導を行う必要がある。学生も泣き寝入りせずに、学校やハローワーク、労働組合などに相談し、企業に十分な補償などを求めてしかるべきだ。同時に企業はその学生の新たな就職先探しに最大限の努力を払う責務がある。ハローワークなどの支援も欠かせない。

 来春までに契約が打ち切られる派遣や期間工ら非正規労働者は厚労省の調査で3万人を超える。10月の有効求人倍率は0・80倍と4年前の低い水準に落ち込んだ。雇用情勢は悪化の道をたどる。

 90年代~00年代前半の就職氷河期は多くの年長フリーターらを生み出し、今なお正社員になれずに苦しむ人も多い。就職氷河期の再来を招かぬよう、政府は直ちに抜本的な雇用対策を打ち出さなければならない。

毎日新聞 2008年12月1日 東京朝刊

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