キャリア官僚という言葉は、あまりイメージがよくないようです。防衛省次官の汚職事件などの印象が強いせいかもしれません。それでも、頑固で正義感が強いキャリアもいるのです。
私の印象に残っているキャリアは警察官です。駆け出しの高松支社時代。香川県で事件が頻発していました。殺人と不正融資事件で三つも捜査本部が設置され、各社の取材合戦が続いていました。そのキャリア警察官はある課の課長でした。取材の手掛かりを…と思い、夜な夜なその課長の官舎を何度も訪れました。
ところが、現場で聞き込んだ情報をぶつけても「分かりません」「私の方が知りたい」など、つっけんどんな返事ばかり。互いに若く、意地を張り、けんかのような激しいやり取りもしました。
それでも懲りずに、ある晩も二人で押し問答。あまりに疲れたので道中、買ってきた缶コーヒーを「どうぞ」と差し出すと課長は「ああホッとする」と一気に飲み干し「これで私が情報漏らしたら、贈収賄になるんですかね」。あきれる私の顔を見る課長の表情は大まじめでした。
三日ほど後、官舎へ行くと「お待ちしてましたよ」とにやり。同じメーカー、同じ大きさの缶コーヒーを手渡され「これで“貸し借り”なしね」。安っぽいドラマのような展開に、私は心の中で白旗を上げていました。
賀状のやりとりもすっかり途絶えてしまいましたが、今でも警察庁あたりであの頑固さで頑張っているのでしょうか。キャリアと聞くと、私は今でもあの時の課長のまじめな顔を思い出すのです。
(玉野支社・高木一郎)