2-2.新聞記事における分布は、客観的な分布とどれだけ一致しているのか?
3.結果
3-1.集計結果
1998年度の朝日新聞の犯罪報道記事における容疑者の国籍の分布は、以下のとおりである。
表1.朝日新聞1998年前半の犯罪報道記事における容疑者国籍
|
|
|
中国
|
84
|
3.3%
|
韓国
|
44
|
1.7%
|
フィリピン
|
10
|
0.4%
|
バングラデシュ
|
10
|
0.4%
|
コロンビア
|
7
|
0.3%
|
台湾
|
7
|
0.3%
|
イラン
|
6
|
0.2%
|
ミャンマー
|
4
|
0.2%
|
ブラジル
|
4
|
0.2%
|
米国
|
3
|
0.1%
|
インドネシア
|
3
|
0.1%
|
タイ
|
2
|
0.1%
|
スリランカ
|
2
|
0.1%
|
北朝鮮
|
2
|
0.1%
|
ポルトガル
|
1
|
0.0%
|
ベトナム
|
1
|
0.0%
|
ブータン
|
1
|
0.0%
|
フィンランド
|
1
|
0.0%
|
ナイジェリア
|
1
|
0.0%
|
スペイン
|
1
|
0.0%
|
ギリシャ
|
1
|
0.0%
|
|
195
|
7.6%
|
|
2,413
|
93.6%
|
|
2,579
|
101.1%
|
3-2.新聞記事の具体例
表1に含まれる記事から若干の具体例を示せば、以下のとおりである。
@【中国人】 五日午前五時ごろ、兵庫県尼崎市****丁目の**時計店に何者かが侵入していると、同店二階の自宅で寝ていた店主の****さん(五四)から一一〇番があった。尼崎中央署員が調べたところ、店内から三人の男が逃げようとしており、自称中国人で二十五歳の男一人を住居侵入の疑いで現行犯逮捕、ほかの二人は時計や宝石類約三百点(推定約八百万円相当)を盗んで逃げた。同署の調べでは、逃げた二人はいずれも二十五歳前後で中国人らしい。A【韓国人】 福岡入国管理局と福岡県警は二十八日、九州一の歓楽街・中洲地区(福岡市博多区)で働く不法残留外国人や客引きなどの取り締まりをした。昨年五月から続けている同地区の風俗環境浄化作戦の一つで、博多署は出入国管理及び難民認定法違反(不法残留)の疑いで韓国人のホステス、***容疑者(四一)を現行犯逮捕、入管は同法違反(資格外活動)の疑いで中国人留学生(二九)から任意で事情を聴いている。同署は風営適正化法違反(客引き)の疑いで、同日までに風俗営業店従業員ら九人を逮捕した。B【イラン人】 大阪府警関西空港署は一日までに、アヘンを体内などに隠して密輸入しようとしたとしてイラン在住のイラン人男性(三一)をあへん法違反(密輸入)で逮捕し、アヘン約七十二グラム(末端価格約五十八万円相当)を押収した。調べでは、同容疑者は五月十六日午後九時四十分ごろ、フィリピンから関西空港に着き、アヘン約七十グラムをポリ袋に入れ、腸の中に隠すなどして国内に持ち込もうとした疑い。C【米国人】 沖縄県警名護署は六日、停車中の車内で仮眠をとっていた男性から現金などを奪ったとして、米海兵隊キャンプ・シュワブに勤務する上等兵、****・*****容疑者(二〇)を強盗容疑で現行犯逮捕した。調べでは、*****容疑者は六日午前五時四十四分ごろ、名護市辺野古の路上に停車中の車内で仮眠していた同県宜野座村在住の男性(四七)を路上に押し倒し、現金千五十円や携帯電話などを奪ったが、通行人からの一一〇番通報で駆けつけた警察官に捕まった。同容疑者は調べに対し、「すべて否認する」と話しているという。
表2.外国人ならびに日本人の「犯罪者」率(その1)
|
(x) |
(a) |
登録者数 (b) |
人口計 (c=a+b) |
「犯罪者率」 |
対日本人 来日外国人 「犯罪者率」 (日本人=100%) |
中国
|
2,401
|
327,005
|
294,201
|
621,206
|
734
|
243% |
韓国・朝鮮
|
548
|
1,160,034
|
636,548
|
1,796,582
|
47
|
15.6% |
フィリピン
|
269
|
144,305
|
115,685
|
259,990
|
186
|
61.6% |
ブラジル
|
536
|
70,794
|
224,299
|
295,093
|
757
|
250.7% |
米国
|
89
|
720,142
|
42,802
|
762,944
|
12
|
4.0% |
タイ
|
84
|
64,246
|
|
−
|
131
|
43.4% |
日本
|
324,263
|
|
107,427,000
|
302
|
100% | |
|
来日外国人刑法犯
|
+ 再入国 |
(末尾注2参照) |
|||
|
交通業務上(重)過失致死傷は除外
|
総人口 (15歳以上) |
(x/a)*10万人
|
|||
|
平成10年次
|
|
|
|
||
|
警察庁2000:241
|
|
法務省2000:456-457
|
次に、外国籍の総計と日本人を比較した表3を見てみよう。
来日外国人の犯罪者率は、日本人のそれの10.4%に過ぎない。その他の外国人の犯罪者率は、来日外国人の2.5倍近くはあるものの、日本人のそれと同等である。
日本にいる外国人の犯罪者率は、日本人と同じ程度か、それよりも低いのである。
|
(y=x1+x2) |
(a) |
登録者数 (b) |
在日米軍 関係者 (c) |
人口計 (d=a+b+c) |
犯罪者率 |
その他の外国人 犯罪者率 |
犯罪者率 |
|
10,248
|
4,556,845
|
1,512,116
|
110,000 |
6,178,961
|
118
|
300 |
166
|
|
324,263
|
107,427,000
|
302
|
302 |
302
|
|||
|
外国人
刑法犯 |
+ 再入国 |
各種情報 から推定 |
|
警察庁の定義 とは異なる(同前) |
|
||
|
(x1) 5,382 + その他の外国人(x2) 4,866 |
総人口 (15歳以上) |
|
(X2/(b+c))*10万人 |
|
|||
備考3) | 検挙人員数 は、いずれも 交通業務上 (重)過失致 死傷を除く |
|||||||
|
平成10年次
|
|
|
|
平成10年次 |
|
||
|
法務省2000:506
|
法務省2000:456-457
|
1997・平成9年 | 1998・平成10年 | 1999・平成11年 | 2000・平成12年 | 2001・平成13年 | |
来日外国人 | 116 ( 40) | 118 ( 39) | 122 ( 42) | 120 ( 42) | 136 ( 45) |
その他の外国人 | 311 (106) | 300 ( 99) | 284 ( 97) | 258 ( 90) | 250( 84) |
外国人計 | 166 ( 56) | 166 ( 55) | 163 ( 56) | 155 ( 54) | 166( 56) |
日本人 | 294 (100) | 302 (100) | 292 (100) | 286 (100) | 298 (100) |
1997・平成9年 | 1998・平成10年 | 1999・平成11年 | 2000・平成12年 | 2001・平成13年 | ||
凶悪犯 | 来日外国人 | 5 ( 73) | 6 ( 85) | 7 (106) | 6 ( 87) | 8 (111) |
その他の外国人 |
2 ( 40) |
3( 47) |
3( 50) |
3( 38) |
3( 37) |
|
日本人 | 6 (100) | 6 (100) | 7 (100) | 7 (100) | 7 (100) | |
粗暴犯 | 来日外国人 | 7 ( 18) | 7 ( 18) | 7 ( 20) | 11 ( 23) | 11 ( 24) |
その他の外国人 |
20( 53) |
21( 58) |
17( 49) |
21( 45) | 21( 45) |
|
日本人 | 38 (100) | 37 (100) | 35 (100) | 47 (100) | 46 (100) | |
窃盗犯 | 来日外国人 | 68 ( 41) | 68 ( 40) | 69 ( 44) | 72 ( 48) | 78 ( 50) |
その他の外国人 |
49( 30) |
48( 28) |
43( 27) |
37( 25) |
38( 24) |
|
日本人 | 164 (100) | 169 (100) | 159 (100) | 150 (100) | 155 (100) | |
知能犯 | 来日外国人 | 7 ( 60) | 7 ( 67) | 5 ( 55) | 5 ( 50) | 5 ( 48) |
その他の外国人 |
5( 47) |
5( 48) |
5( 47) |
4( 41) |
4( 40) |
|
日本人 | 11 (100) | 11 (100) | 10 (100) | 10 (100) | 11 (100) | |
風俗犯 | 来日外国人 | 4 ( 57) | 4 ( 55) | 3 ( 54) | 2 ( 41) | 2 ( 44) |
その他の外国人 |
5( 70) |
4( 60) |
2( 37) |
3( 47) |
2( 43) |
|
日本人 | 6 (100) | 7 (100) | 6 (100) | 6 (100) | 6 (100) | |
その他の 刑法犯 |
来日外国人 | 27 ( 40) | 27 ( 38) | 30 ( 39) | 24 ( 36) | 31 ( 42) |
その他の外国人 |
25( 37) |
26( 36) |
27( 35) |
20(31) |
22(29) |
|
日本人 | 68 (100) | 72 (100) | 75 (100) | 66 (100) | 74 (100) |
日本人 | 外国人計 | 中国人 | 韓国・朝鮮人 | ブラジル人 | フィリピン人 | アメリカ合衆国民 | タイ人 | |
報道件数(注1) | 4,826 | 390 | 168 | 88 | 8 | 20 | 6 | 4 |
客観件数(注2) | 324,263 | 5,382 | 2,401 | 548 | 536 | 269 | 89 | 84 |
報道率(%) | 1.49 | 7.25 | 7.00 | 16.06 | 1.49 | 7.43 | 6.74 | 4.76 |
対日本人比率 | 1.00 | 4.87 | 4.70 | 10.79 | 1.00 | 5.00 | 4.53 | 3.20 |
日本人 | 外国人 | |
報道件数(注1) | 4,826 | 390 |
客観件数(注3) | 324,263 | 4,866 |
報道率(%) | 1.49 | 8.01 |
対日本人比率 | 1.00 | 5.39 |
日本人 | 外国人 | |
報道件数(注1) | 4,826 | 390 |
客観件数(注4) | 324,263 | 10,248 |
報道率(%) | 1.49 | 3.81 |
対日本人比率 | 1.00 | 2.56 |
第1に、1998年度前半の朝日新聞に関して、新聞の犯罪報道における容疑者・犯人の国籍は、外国人による事件の場合、日本人よりも多く報道されている。
第2に、1998年度の外国人の「犯罪者率」は、日本人と同じか、それ以下である。日本に住んでいる外国人は、日本人と同様に、あるいはそれ以上に、法律を守って暮らしている。
第3に、来日外国人の犯罪者率を罪種別に見ても、凶悪犯については日本人並み、その他の罪種に関しては明らかに日本人より低く、来日外国人が日本人より特に凶暴であるとは言えない。
第4に、「その他の外国人」の犯罪者率を罪種別に見ると、近年は、概ね日本人の4割程度に過ぎない。
第5に、「来日外国人が増加すると犯罪が多発するようになる」と考える日本人は少なくない(4月24日配付プリントの4-1&4-2を参照せよ)のは、以上のような犯罪報道のあり方が多少なりとも影響を及ぼしているのではないかと推測できる。我々は、客観的データに基づいて冷静に判断するべきである。
ただし、これらの結論は、1998年上半期の朝日新聞の記事のみを分析した結果に基づくものである。この結論を確かなものとするためには、異なる時期の、異なる新聞について、さらに分析することが必要であろう。
注1)「刑法犯」の定義は、法務省『犯罪白書』の以下の定義にしたがう。「刑法犯」とは、刑法(明治40年法律第45号)及び次の特別法に規定する罪をいう。@爆発物取締罰則(明治17年太政官布告第32号)A決闘罪ニ関スル件(明治22年法律第34号)B印紙犯罪処罰法(明治42年法律第39号)C暴力行為等処罰ニ関スル法律(大正15年法律第60号)D盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律(昭和5年法律第9号)E航空機の強取等の処罰に関する法律(昭和45年法律第68号)F人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律(昭和45年法律第142号)G航空の危険を生じさせる行為等の処罰に関する法律(昭和49年法律第87号)H人質による強要行為等の処罰に関する法律(昭和53年法律第48号)
注2) 警察庁の『警察白書』における「犯罪者率」の定義は、「14歳以上の人口10万人当たりの検挙人員」というものである。一方、我々は、検挙された外国人の年齢構成に関する情報を得ることができなかったので、「14歳以上の」という条件を付けて犯罪者率を求めることができなかった。ただし、14歳未満の検挙人員は、犯罪者率を大きく変化させるほどには多くないだろうと推測できるので、ここでの分析結果にはほとんど影響を及ぼさないと考えられる。
【改訂内容の記録】
・2003年3月27日:
表2から「在日外国人犯罪者比率」ならびに「対日本人の在日外国人犯罪者比率」を削除した。理由は、分母が「来日外国人+外国人登録者」であるのに、分子は「来日外国人検挙者」のみであったため。再計算した結果を掲載する予定です。ご指摘くださった匿名の某氏に御礼申し上げます。
・2002年11月12日:
(1)「平成13年の犯罪」が警察庁ホームページに掲載されたことにより、「その他の外国人」の犯罪者率ならびに罪種別犯罪者率が算出可能になったので、結果数値を表4と表5に追加した。
(2)表5の知能犯に関する日本人犯罪者率に関する計算ミスを修正した。
・2002年10月6日:
(1)日本人検挙人員数から「交通業過」(道路上の交通事故に係る業務上(重)過失致死傷及び危険運転致死傷)に関する分を除外した。
(2)日本人総人口を15歳以上に限定した。
(3)「その他の外国人検挙人員」の定義に見合うように、日本在住の外国人の人口に在日米軍関係者総数の推定値を算入した。
(4)以上に伴い、各犯罪者率、ならびに各報道率が変更された。
(5)犯罪者率の時系列的推移に関する表を追加した。
・2002年6月21日:報道率の算出方法を修正した。