桜井淳所長から京大原子炉実験所のH先生への手紙-原発設置県は現実的災害評価と退避訓練を実施せよ-
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私は、主に、炉物理の研究と原子力発電所の事故・故障分析の研究を実施してきましたので、原子力発電所の災害評価については、必要最小限の知識、すなわち、著書『原発システム安全論』をまとめるために、歴史的な研究報告書であるWASH-1400(1975)とNUREG-1150(1990)を熟読・吟味し、その他、水戸に在住している関係から、茨城県が実施した東海第二原子力発電所の災害評価の報告書に目をとおした程度です。
東海第二原子力発電所の災害評価の報告書(茨城県原子力防災対策検討委員会「原子力防災対策等にの充実強化について」、平成10年8月)を読み(委員会構成員は学識経験者8名(知っている研究者は青地哲男・近藤駿介・能澤正雄・吉田芳和の各氏)・防災機関6名・行政機関4名)、感じたことをまとめてみます。
(1)事故想定が甘く、災害評価になっていないこと、
(2)WASH-1400(1975)やNUREG-1150(1990)と同程度の事故想定をした災害評価をすること、
(3)すべての原発設置県は、WASH-1400(1975)やNUREG-1150(1990)と同程度の事故想定をした災害評価をすること、そして、その結果に則り、現実的な退避訓練を実施すること、
(4)退避に必要な公共施設(道路等)を充実させること、
(5)原発災害評価の研究・実施は、原子力機構が国の予算で、各発電所の設置条件ごとに、WASH-1400(1975)とNUREG-1150(1990)並みの想定事故で評価すること、
等です。
東海第二原子力発電所の災害評価の場合、想定事故は、「多種多様な安全機能等が働かず、原子炉冷却材の喪失、燃料被覆管の破裂により、大量の希ガス、ヨウ素が格納容器内に放出され、排気筒から環境に放出」、放出放射性物質量は、「希ガス7600万Ci、ヨウ素6756万Ci」(報告書ではBq単位でしたが、分かりやすくするために、Ci単位に直しました)で、前者はスリーマイル島2号機炉心溶融事故の30倍、後者は450倍になっています。気象条件は、「周辺住民の線量が大きくなるような厳しいものとして、安全審査で用いられている条件を使用」しています。しかし、希ガスは、相互作用が少なく、比較的少ない外部被ばくへの影響しかなく、ヨウ素は、小児甲状腺ガンの原因になる。格納容器が健全であると想定し、いずれも排気筒から放出されると想定しているため、大気拡散により、影響が緩和されるようなシナリオになっています。WASH-1400(1975)とNUREG-1150(1990)では、格納容器の破損も想定し、被ばくに致命的な影響を与えるセシウム137とストロンチウム90等の放出も想定しています。東海第二原子力発電所の災害評価の条件がいかに甘いか、よく分かると思います。
周辺住民が受ける被ばく量は、大人全身線量として、「550m(敷地境界)-1.5mSv、1km-1.5mSv、2km-1.2mSv、5km-0.6mSv、8km-0.4mSv」、となっています。対応策としては、「具体的な対応は必要ない」となっています。それでは災害評価にはなっておらず、防災対策にもなっていません。現実的な想定事故で、現実的な評価をしたら、どうしようもない結果になるため、想定条件を調整したものと推察されます。よって、東海第二原子力発電所の災害評価の報告書(茨城県原子力防災対策検討委員会「原子力防災対策等にの充実強化について」、平成10年8月)は、災害評価としては、不合格です。
桜井淳