吐息の日々〜労働日誌〜 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2008-11-21 イタリアに学ぶには

日経BP社のサイト「BPnet」で、評論家の森永卓郎氏が、経団連が人口減少に移民受け入れで対応するというアイデアを示した報告書を批判しています。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/160/index.html

移民受け入れが非常に困難な政策課題であり、先行した諸国でも十分うまくいっている例はないということは森永氏の主張のとおりで、実は氏が批判している経団連の報告書でも、経団連による欧州諸国の調査結果として「うまくいっていない」ということが明記されています。たしかに、慎重な上にも慎重な検討が必要な課題でありましょう。

さて、その後森永氏はなぜか経団連が移民受け入れを主張するのを「安価な労働力確保が目的」と断じ、「不況は企業による賃金抑制のせい」というかなり疑わしい氏の持論を展開します(もちろん、勤労者所得の伸び悩みが経済不振の一因であることはそのとおりと思います。ただ、森永氏はそれを過大評価しているように思われますし、それに対する対策は短絡的で合理的でないと感じますが、ここではそれは本題ではないのでこれ以上は書きません)。

そして、それに続いて、人口減少への対処として、イタリアの例を提示しています。

 「でも、日本の人口が減少するのは明らかだろう。森永は、移民以外に何かいい対処法を持っているのか」という反論される方もあるだろう。

 わたしが総理大臣になったら、本当の意味での構造改革をやってみたいものだ。低賃金労働力を使うのではなく、誰もがゆったりと暮らして、もっとクリエイティブな活動に専念するように推奨する。とりあえず、夏休みを1カ月とり、残業もやめるようにと勧告するだろう。

 こういうと、すぐ「森永はまた大ボラを吹いているが、そんなことでは経済はまわらない」としたり顔で批判する人がいる。だが、そんなことはない。たとえば、イタリアという国は、そんな感じでまわっているではないか。

 イタリアは、国土の面積が日本とほぼ同じで人口は約半分。しかも、日本と同じように高齢化社会である。ところが、一人当たりのGDPは日本とほぼ同じなのだ。いや、夏はたっぷりとバカンスをとり、労働時間は日本より少ないのだから、実質的に日本よりも一人当たりの所得は多いといっていい。

 なぜそんなことが可能なのかといえば、それは、高付加価値の製品をつくっているからだ。革製品やブランドの服など、イタリア製品といえば付加価値の高さによって世界市場で受け入れられている。もちろん、イタリアにだってさまざまな問題が存在しているが、少なくとも今の平均の日本人よりは、伸び伸びと暮らしているのは間違いない。

 そんないい先例があるではないか。現に日本でも、アニメやマンガをはじめとするクリエイティブな文化が、クールなものとして世界で評価されはじめたところである。それをもっと伸ばす方向を考えてみればどうだろうか。

 そのためには、若い人がもっと創造的になれる環境づくりが大切だと思うのだ。歩行者天国を禁止したり、メイド服で歩いているだけで取り締まったりするのは、方向が逆なのである。

 そして何よりも、本当に人口を増やしたいのならば、若い人がきちんと結婚できて、子どもがつくれるような給料を出すことが先決である。

http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/160/index3.html

あまり具体的な対処法が示されているとは申し上げられないように思いますが、イタリアを参考にすべきとの主張には一理ありそうに思えます。北欧マンセー論に較べればかなり日本に対するインプリケーションがあるように思えるからです。

ただ、イタリアにしてももちろん付加価値の高いブランド品だけで経済が成り立っているわけではなく、自動車産業のような重厚長大産業やIT・ハイテクにも一定のプレゼンスがありますし、日本だってアニメやマンガだけで経済が成り立つわけもありません。

また、一人当たりGDPが同程度とはいっても、現実の生活実感レベルでの消費生活は、まだだいぶ日本のほうがリードしているのが実態ではないかと思います。もちろん、なにをもって消費生活の豊かさとするかは個人の価値観によるところが大きく、田舎の農場で質素に素朴に暮らすことが「消費生活の豊かさ」であるという考え方ももちろんあるでしょう。しかし、少なくともイタリアにはディズニーランドもユニバーサルスタジオもなく、24時間営業のディスカウントストアもないでしょうし、会社勤めの女性が海外旅行に出かける頻度も日本のほうが相当高いでしょう。私はイタリアに住んだことも行ったこともありませんので本当のところがどうかはわかりませんが、政策論として述べるのであればこうした違いにも配慮する必要はあると思います。

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2008-11-20 日本電産に対する買収対抗策

一昨日の日経新聞に小さく出ていたのですが…

東洋電機製造 十七日、同社にTOB(株式公開買い付け)を提案している日本電産に対し、三度目の質問状を送付したと発表した。東洋電機の買収防衛策の手続きに沿った措置。過去二度の回答は「ほぼ過半について具体的な回答を留保された」とし、今回も従来の質問への再回答を求めている。日本電産労務管理などについて、引き続き書面での回答を要請している。

(平成20年11月18日付日本経済新聞朝刊から)

企業買収には特に関心はないのですが、「日本電産労務管理などについて」のところに反応しました。

で、両社のウェブサイトをみてみると、たしかに質問状(情報の提供要請)と回答書のやりとりが2往復半行われているようです。ただ、サイトに掲載されているのはお互いに「情報の提供要請を行いました」「提供要請が来たので回答書を送りました」「回答書が来ましたが不十分なので追加要請を行いました」といった事実だけで、質問や回答の具体的内容は開示されていません。まあ、そんなものなのでしょう。

それでも一応、東洋電機製造のサイトには、1回めの提供要請の際に<提供を要請した情報の項目とその概要>としてこうあります。

I. 日本電産及び日本電産グループに関する情報

日本電産グループの概要や内部管理体制、コーポーレート・ガバナンス、業績の状況、過去の企業買収の経緯及びその結果等について、十分な情報の提供を要請しております。

II. 本提案の内容に関する情報

本提案を行うに至った経緯や提案の方法、今後の本提案に関する手続の進め方、及び本提案の内容(当社との提携によるシナジーの具体的内容や買付価格の算定根拠、鉄道事業以外の事業を含む買収完了後の事業運営方針、当社取引先への対応、従業員の処遇等)について、より具体的かつ詳細な情報の提供を要請しております。

http://www.toyodenki.co.jp/html/images/teiansho2.pdf

ここでは、提携後の「従業員の処遇」が質問されているようです。

で、今回(3回め)の提供要請のリリースには、<再掲載した追加質問の概要>としてこうあります。

 「書面でのご回答をお願いしたい事項」

 本提案に関する提携による利益水準等の見通し及びシナジー効果、グループ会社管理の方法、日本電産グループにおける労務に関する状況について、書面での十分な情報の提供を要請しております。

 「インタビューにおいてご説明をお願いしたい事項」

 日本電産と当社の間の技術面でのシナジー効果の具体的な内容や、当社が日本電産のグループ会社となった場合の経営方針の詳細について、インタビューにおいて十分ご説明いただくよう要請しております。

http://www.toyodenki.co.jp/html/images/teiansho6.pdf

なるほど、「日本電産グループにおける労務に関する状況」について、「書面での十分な情報の提供」となっておりますな。

さて、東洋電機製造は7月に買収防衛策の導入を発表、8月の株主総会で承認され、9月に日本電産からの提携提案という話の流れなので、この買収防衛策も日本電産対策として導入された公算が高そうです。今のところは敵対的買収とまではいえないのでしょうが、一連のやりとりを見てもおよそ友好的という感じはしません。日本電産の永守社長は「敵対的であるとは断じて思っていない」と述べているそうですが、東洋電機製造側はおそらくそうは思っていないでしょう。

そこで「日本電産グループにおける労務に関する状況」が登場するわけですね。まだ記憶に新しいと思いますが、永守社長はこの4月23日の記者会見で「休みたいならやめればいい」「社員全員が休日返上で働く企業だから成長できるし給料も上がる。たっぷり休んで、結果的に会社が傾いて人員整理するのでは意味がない」「成長しているからこそ休みが無くても優秀な技術者がどんどん転職してきてくれている」などと発言し、これに対して連合の高木会長が猛反発、なんとメーデーの演説で「この会社の時間外・休日労働の実態を調べてみたい」「まさに言語道断。労働基準法という法律があることを、また、労働基準法が雇用主に何を求めていると思っているのか、どのように認識されているのか。ぜひ問いただしてみないといけない、そんな怒りの思いを持って、この日本電産のニュースを聞いたところであります」と批判、これを受けて日本電産も次のような弁明に追われるという一幕がありました。

 当社は雇用の創出こそが企業の最大の社会貢献であるとの経営理念のもと、安定的な雇用の維持が、社員にとっても最重要であると考えております。

 このような考え方に基づき、これまで経営危機に瀕し、社員の雇用確保の問題に直面していた多くの企業の再建を、一切人員整理することなく成功させて参りました。

 「ワークライフバランス」につきましては、当社では、上記の安定的な雇用の維持を大前提に、「社員満足度」の改善という概念の中の重要テーマとして位置づけております。

 このような考え方に基づき、社員の満足度向上を目的として、2005年度から「社員満足度向上5ヵ年計画」をスタートさせ、2010年には業界トップクラスの社員満足度達成を目指し、推進中であります。

 現に、社員の経済的処遇面に関しては、年々業界水準を上回る率で賃金水準を改善してきており、本年度も、平均賃上げ率は業界水準を大きく上回る6%にて実施することと併せ、年間休日も前年比2日増加させております。尚、休日については、来年度以降も段階的に増加させていく予定であります。

 加えて、男女ともに働きやすい会社を目指し、昨年4月にはポジティブ・アクション活動の一環として、家庭と仕事の両立を支援する目的で新たな制度の導入もし、更なる社員満足度向上に向けて努力を続けております。

http://www.nidec.co.jp/news/indexdata/2008/0428/CMFStandard1_content_view

賃上げ6%というのはなかなかスゴイなあと率直に思いますが、それはそれとして、日本電産のスタンスは「社長はそんなことは言っていない」というもののようです。まあ、このお方はなかなか強烈な個性の持ち主のようで、発言もポンポンと歯に衣着せずに極論を述べられるので、いろいろな形でマスコミを喜ばせているようです。日本電産のサイトにも「永守's Room」というページがあり、永守氏の著書を転載しているらしいのですが、そこをみてもこの手の表現があちらこちらに出てきて、けっこう微笑ましい(笑)ものがあります。まあ、実際のところは「そのくらいの意気込みでがんばろう」とか「われわれはそれほどに従業員のやる気、動機付けを重視している」ということなのでしょうが。私にも買収されて日本電産傘下に入った企業で働いている友人がいますが、彼をみてもまずまず普通に働いて普通に休んでますし。

とはいえ、あまりに公然と言われれば連合会長としても一言モノ申さずにはいられないでしょうし、そういうことがあれば敵対的(?)買収を仕掛けたときにも相手企業から攻撃材料に使われてしまうということも起こるわけで。いっぽうでこうした発言が永守氏のリーダーシップの源泉になっているという面もあるのでしょうから、それはそれで痛し痒しというところかもしれませんが。

東洋電機製造としては、従業員に対しても「日本電産の傘下に入ったらムチャクチャにコキ使われるんだぞ、そんなの嫌だろう」と間接的に呼びかけているのかもしれません(案外、これとは別に直接にも言っていたりして)。さて、それで従業員はどう受け止めるのか、そんなのイヤだよねぇ、というのも素直な反応でしょうが(そもそも買収されること自体抵抗があるでしょうし)、そのくらいでないとダメなんだ、俺はかまわないぜ、といった骨のある?社員もそれなりにいないと寂しいような気もしますが…。

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2008-11-19 キャリア辞典「人間力」(5)

「キャリアデザインマガジン」第80号に掲載したエッセイを転載します。

 平成17年5月に発足した「若者の人間力を高めるための国民会議」は、9月に第2回を開催し、「若者の人間力を高めるための国民宣言」を採択した。そこでは、「人間力」を「社会の中で人と交流、協力し、自立した一人の人間として力強く生きるための総合的な力である」として、「家庭、学校、職場、地域社会といった場を通じ形づくられる」と述べられている。そして「若者自らの自覚と努力も求められるところ」としつつも、「経済界、労働界、教育界、マスメディア、地域社会、政府が一体となって、若者の人間力を高める国民運動を推進する」との方針が示されている。それに続いて4つの宣言文があるが、それぞれ「子どもの頃から人生を考える力やコミュニケーション能力を身につけさせ、働くことの理解を深めさせる」「若者に広くチャンスを与え、仕事に挑戦し、活躍できる」「若者が働きながら学ぶことのできる」「やり直し、再挑戦できる」といった内容を含んでいる。そのあとに続く「国民運動推進の基本方針」は、政府、企業、学校、地域社会などの役割が縷々述べられており、さながら行政のやろうとしている施策の羅列という感があるが、若年雇用情勢に対する問題意識から厚生労働省が主体となっているものだけに、人間力はまずは「就職力」であり、就職後の就労を通じてさらに人間力が向上する、という構想になっているようだ。そのため、「基本方針」には企業の取り組みに関する事項として「若者に広くチャンスを与え、若者に雇用の場を提供できるよう努めます」「キャリア形成や教育訓練の仕組みを充実するなど、長い目で見た人材の育成に取組みます」「中途採用の拡大にも前向きに取り組み、フリーターなど安定した職についたことのない若者などについても、人物本位で採用し、育成に努めます」など、「企業の宣言」という体裁をとった行政の要請が多々織り込まれている。

 もちろん、行政としても「国民運動」の旗のもとにさまざまな施策を実施している。国民運動のサイトからひろいあげれば、ジョブカフェやヤングワークプラザをはじめとして、若者自立塾や地域若者サポートステーション、トライアル雇用、日本版デュアル・システム、YESプログラム、チャレンジファームスクール、働く若者ネット相談、その他各種セミナー・シンポジウム等々、ハコモノからマッチング促進、教育訓練など、まことに幅広く数多い。ジョブ・カードについてはサイトでの記載はまだなさそうだが、今年2月に開催された「国民会議」第5回の資料や議事録をみると記載があるので、これまた国民会議の取り組みの一環ということになるのだろうか。いっぽう、ハコモノのなかには、2003年にオープンし、いまやムダ遣いの代表として悪名高い「私のしごと館」も含まれていて、いささか「なんでもかんでも」の感もなくはない。

 さて、この「国民運動」で若者の人間力は高まったのだろうか。第5回国民会議の資料をみると、15〜24歳の完全失業率や大学・高校生の就職率、いわゆる「フリーター」の人数などはここ数年で顕著な改善を示しており、いわゆる「ニート」についても微減となっており、とりあえず「人間力」=「就職力」だとすれば高まったといえるかもしれない。もっとも、これらの数値には景気循環的な要素、すなわちこの間は基本的に景気回復期で人手不足傾向にあったことの影響が相当反映されていることは間違いない。循環的な要素ど政策努力の効果とがどれだけ寄与しているのかの判別はむずかしいだろうが、いずれにしても今後景気が後退局面に入ればこれらの指標も悪化することは避けられない。そのとき、若年雇用の悪化がどの程度にとどまるのかが、これら施策の試金石となるかもしれない。

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2008-11-18 最近の報道から

2題。

国家公務員の所定労働時間、15分短縮

先週金曜日の日経新聞から。今年の人事院勧告は月給・ボーナスとも昨年から据え置きということで完全実施されるそうです。

政府は十三日、国家公務員の給与水準を月給、期末・勤勉手当(ボーナス)とも据え置くとした二〇〇八年度人事院勧告を完全実施する方針を固めた。前年度は審議官級以上の「指定職」を除き、月給を〇・三五%、ボーナスを〇・〇五カ月分引き上げており、据え置きは二年ぶり。一日八時間の勤務時間を十五分短縮し一日七時間四十五分とする「勤務時間に関する勧告」も完全実施する方向だ。

 今国会に給与関連法案を提出、成立を目指す。国家公務員の給与勧告は人事院が民間企業の給与水準を調べ、官民格差を是正する形で決める。今年は民間の平均月給が公務員を百三十六円上回った。格差が小さかったことから給与改定の勧告は見送った。民間の労働時間の調査は平均が一日七時間四十五分で、公務員より十五分短かった。

(平成20年11月14日付日本経済新聞朝刊から)

「据え置き」というのは国家公務員全体の給与水準でありまして、当然ながら個人レベルでみれば約2%の定昇があり、それぞれに月給は上がり、連動してボーナスも上がるわけですが、それはそれとして。

あっさり書かれていますが、1日あたり15分の所定労働時間短縮は大きいですねぇ。これは時間あたり賃金で単純計算すれば約7.4%3.2%のベアに相当します。もし、短縮された15分にも割増賃金を支払うとすると、さらに大きなベアということになります。もちろん、所定労働時間も重要な労働条件ですから民間準拠で短縮していくのはけっこうだと思います。労働時間短縮はベアと違って0.4%とか、小刻みにやることは実務的に難しく、どこかである程度まとまった長さを一気にやらなければならないことも間違いないでしょう。ただ、それを今年やるかなあという素朴な疑問は感じないではないのですが、まあ何が悪いのだと言われれば悪いということもないでしょうが…。

全労連から初の中労委委員

週末の産経新聞です。共産党系の全労連から、はじめて中労委委員が任命されたそうです。

 麻生太郎首相は16日付で、労使関係の調整に当たる中労委委員に、全労連系の前全日本国立医療労働組合副委員長の淀房子氏(61)を任命した。中労委委員はこれまで連合(約664万人)の関係者が占めており、全労連(約93万人)系は初めて。全労連は「労働委員会、行政民主化の闘いの歴史的な一歩だ」としている。

 中労委委員は、学識経験者による公益委員、労組が推薦する労働者委員、使用者団体推薦の使用者委員各15人計45人の3者構成。淀氏は、特定独立行政法人の争議の調整にかかわる。

(平成20年11月16日付産経新聞朝刊から)

まあ、これまでも地労委では何人か全労連系の委員が任命されていますので、自然の成り行きといえばいえるでしょう。全労連はこれまでILOに提訴するなど、労委委員輩出には意欲的に取り組んできましたので、「歴史的な一歩」はこうした政治運動にありがちな誇張としても、大きな成果であるには違いありません。全労連がこうした運動に取り組むのは、労働運動としてもまたまことにもっともなものでありましょう。

いっぽう、連合からは当然ながら?なんの反応もないようなのですが(私が知らないだけかもしれませんが)、連合が労働戦線統一、「一国一ナショナルセンター」を理念に掲げるのであれば(いまや掲げていないのかもしれませんが、労働運動であれば掲げるのが筋と思います)これはやはり反省が必要ではないかと。連合の組織率が低下したことで、相対的に全労連の存在感が高まり、労働運動の分裂が深まったわけですから。まあ、まったくもって余計なお世話ではありますが。

佐藤佐藤 2008/11/21 08:41 >これは時間あたり賃金で単純計算すれば約7.4%のベア
何というべらぼうなベアかと思いましたが、数値が2倍です。

0.25時間/8時間=3.125%

それにしたところで3%台のベアはこのご時勢では破格であることには変わりありませんが。

労務屋@保守おやじ労務屋@保守おやじ 2008/11/22 09:19 ご指摘のとおり、計算間違いでした。ああ恥ずかしい(^^;;;ご指摘ありがとうございました。

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2008-11-17 ワーク・ライフ・バランス推進研究プロジェクトがスタート

東京大学社会科学研究所が、民間企業6社(アメリカンホーム保険、アリコジャパン、オリックス、資生堂、東芝、博報堂)とのタイアップで「ワーク・ライフ・バランス推進研究プロジェクト」をスタートさせたそうです。ワーク・ライフ・バランス(WLB)支援と企業経営・人材活用の関係に関する実証的研究や、参加企業と協力してWLB支援のためのモデル事業を行うとともに、WLBに関する研究センターの設置を目指すとのこと。プロジェクト代表は、人材ビジネス寄附講座のプロジェクトでも活躍しておられる佐藤博樹教授です。来年1月21日の午後には、プロジェクトのキックオフシンポジウムが開催されるとか。

ホームページも開設されています。

http://wlb.iss.u-tokyo.ac.jp/

相次ぐ採用内定取り消し

きょう、フジサンケイビジネスアイのサイトに江利川毅厚生労働事務次官の談話が掲載されました。内容は採用内定取り消しに関するもの。

 米国発の金融危機が実体経済に影響を及ぼし始めたことで、来年4月に入社予定の大学生の内定取り消しが増えている。江利川毅(えりかわ・たけし)厚生労働事務次官は「米国の不況が若年層の雇用にまで影響を及ぼしてきた」と警戒感を示す。

 バブル崩壊後の就職氷河期に就職できなかった大学生が今、“年長フリーター”の増加という社会問題になっている。職業安定法施行規則によれば、高卒者なども含め「新規学卒者の内定を取り消した企業はハローワークに届け出なければならない」。ハローワークは、内定取り消しの事情を調査し、場合によっては企業に撤回を求める。

 また、やむを得ない事情で内定が取り消されたケースについて、ハローワークは厚労省に報告することになっているが、「本省への報告はまだ4件。しかし、これからさらに増えそうだ」と江利川さん。「ハローワークを通じて企業に内定取り消しの実態を聞き、学校からも情報を収集したい。そのうえで、補正予算で認められた雇用対策に力を入れなければ」と気を引き締める。

http://www.business-i.jp/news/special-page/kanwa/200811170005o.nwc

実際、このところ内定取り消しに関する報道が散見されます。たとえば日経の11月7日の報道です。

 景気後退が加速するなか、大学生や高校生の就職が急速に厳しさを増している。首都圏の大学では来春卒業予定の学生が内定を取り消されるケースが夏以降相次ぎ、高校からも「求人票が激減した」などの声が上がる。ここ数年の好調から一転、「就職氷河期」再来に学生らは危機感を強めている。

 「この時期に内定取り消しが相次ぐことは過去数年間なかった」。明治大(東京・千代田)の就職・キャリア形成支援事務室の職員は声を落とす。同校では8月下旬から10月末までに、不動産やIT(情報技術)関連企業から内定を得ていた4年生4人が「業績不振」を理由に内定を取り消された。1人は10月1日に「内定承諾書」を企業に提出したばかりだった。

http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20081107AT1G2704806112008.html

続いて読売の11月12日付。

…駒沢大学では、今年9月末から10月初旬にかけて、男子学生2人の内定が取り消された。内定を取り消した不動産会社と自動車部品製造会社の担当者は説明と謝罪のために大学を訪れ、理由を「景気低迷による事業計画の見直し」と説明したという。

 駒沢大学キャリアセンターは「大学としては『不本意だ』という意思表示をするのが精いっぱい」と困惑を隠さない。

 また、明治大学の就職・キャリア形成支援事務室によると、8月下旬から10月末までに、不動産2社、情報通信、ゲーム機製造の計4社からそれぞれ内定を得ていた学生4人が「業績不振」を理由に内定を取り消された。4人は再び就職活動を続けている。

 地方でも内定が取り消されるケースが出ている。マツダの減産などの影響で景況感が悪化している広島県では、広島労働局が10月末に県内の16大学に聞いたところ、6大学の8人が内定を取り消された。建設会社や不動産会社などで「経営環境の悪化」が理由だった。

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/special/47/naruhodo306.htm

11月11日付の産経。

…「現金50万円を渡され、内定がなかったことにされた」。各大学の就職部には、就職を控えた4年生の学生たちから、内定取り消しの報告が寄せられている。首都圏だけでも、日大、亜細亜大、大東文化大、明星大…。いずれも件数は少ないというが、売り手市場だった近年では見られない光景だ。

 やはり、米国発の金融危機の影響で、各大学の就職部では「幸いにも時期が早いので、再度の就職活動をサポートすることに力を注いでいる」という。

 就職斡旋機関「いい就職プラザ」を運営するブラッシュアップ・ジャパンによると、内定取り消しは不動産関連企業で目立つという。秋庭洋社長(41)は「この調子だと例年の4〜5倍にまで増えそう。金融不安が日本の大学生の就職戦線に大きな影響を与えている」。

 学生の人生設計を狂わしかねない事態に、厚労省は内定取り消しの実態調査を全国のハローワークに指示。「企業の都合で一方的に内定が取り消された場合は、企業への指導も可能なので、相談してほしい」と呼びかけている。

http://sankei.jp.msn.com/life/trend/081111/trd0811110033000-n2.htm

朝日は10月28日にこう報じていました。

…「このまま入ってきてくれても希望の部署にはいけないと思う。あなたのキャリアを傷つけることになるので、就職活動を再開した方がいい」

 関西の私立大に通う4年生の学生(21)は先週初め、5月に内定をもらった大手メーカー(東京)から、電話で内定「辞退」を促された。今月初めの内定式で顔を合わせたばかりの人事責任者は、「業績が悪化し、株価も激しく落ちている。会社はリストラを始めている」と付け加えた。

 学生にとっては、留学経験を生かせると考えて内定3社の中から選んだ会社だった。同社の内定者仲間にも同様の電話がかかっている。学生は「今はまだパニック状態としか言えません」とこぼした。

 「こんな事態は初めて。内定取り消しなんてしたら、翌年から誰もその会社には応募しなくなるのに」。流通科学大(神戸市西区)の平井京・キャリア開発課長は困惑を隠せない。同大学の4年生2人が、相次いで就職の内定取り消しを受けたからだ。

 大阪市の不動産会社に内定していた男子学生は、9月下旬に呼び出され、「景気が悪くて、マンションが売れない。社員の一部にも退職をお願いしている危機的な状況だ」と取り消しを告げられたという。学生は「この時期から、どう就職活動をすればいいのか」と途方に暮れる。別の男子学生は大阪市のコンピューターシステム会社から内定を取り消された。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200810280080.html

いずれも個別事例の取材にもとづく記事ですが、労働市場全体にこうした動きが広がっているのではないかと想像させるものがあります。厚労事務次官も言われるように、まずは情報収集、実態把握が必要でしょう。

そこで次官の談話にあるハローワークへの報告ですが、職業安定法施行規則で次のように定められています。

第三十五条  厚生労働大臣は、労働者の雇入方法の改善についての指導を適切かつ有効に実施するため、労働者の雇入れの動向の把握に努めるものとする。

2  …新規学卒者…を雇い入れようとする者は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、あらかじめ、公共職業安定所…にその旨を通知するものとする。

一  新規学卒者について、募集を中止し、又は募集人員を減ずるとき…。

二  新規学卒者の卒業後当該新規学卒者を労働させ、賃金を支払う旨を約し、又は通知した後、当該新規学卒者が就業を開始することを予定する日までの間(次号において「内定期間」という。)に、これを取り消し、又は撤回するとき。

三  新規学卒者について内定期間を延長しようとするとき。

「通知するものとする」とはいうものの、特段の強制力があるわけではなさそうで、実際にどれほど通知されているのか疑問を禁じ得ません。もちろん、ハローワーク経由の求人(募集)で募集を中止したり人数を減らしたりする場合には、これはその手続きをするでしょうが、それ以外の場合はどうかというと…。企業がたとえば「大卒理系500人」などと採用計画を発表したものの、思わしい人材がそれだけ集まらず、結局350人の採用にとどめた…というのは比較的ありがちな状況だと思いますが、こうしたケースもいちいちハローワークに通知されているかというと、まあ100%されているとは考えにくいものがあります。というか、専任の採用担当者(厚労省が開く実務セミナーなどを受講している)がいる企業や、社労士に諸手続を委託している企業ならともかく、そうでない企業ではそもそも使用者がそれを知らない、ということもありそうです。

さて、江利川氏の記事によれば、内定取り消しについて「ハローワークは…場合によっては企業に撤回を求める」とのことです。採用内定取り消しについては有名な最高裁判決(大日本印刷事件−最二小昭54.7.20)があり、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされていますので、単に業績が悪くなった、といった理由では内定取り消しは無効とされる可能性が高いようです。まあ、業績悪化は経営者の責任だから、ということでしょうか。

ただ、今回の状況がどうかというと、もちろん個別判断であるには違いなく、安易に内定取り消ししてハローワークから撤回を指導される企業もかなりありそうですが、一部には内定取り消しも致し方ないという企業もありそうです。現在の労働市場の実態として、それがいいかどうかは別としても、4年生の4〜5月くらいには大学新卒者の相当数が就職内定を得ているでしょう。企業サイドとしても、このくらいの時期には採用内定の決断をしなければならないのが実情と思われます。この時点で、たしかに昨年からサブプライム問題などは認識されてはいましたが、はたしてリーマン・ショック以降の金融危機、急激な経営環境の変化、それにともなう業績の悪化が予測できたかといえば、それは困難だったと考えざるを得ないのではないでしょうか。それにより業績が極度に悪化して、社員にも希望退職を求めているような状況であれば、これは「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる」という判断もありそうに思えます。まあ、繰り返しになりますが個別判断でしょうし、東京と大阪で判断がわかれそう(笑)な気もします。

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2008-11-14 大内伸哉『君たちが働き始める前に知っておいてほしいこと』

君たちが働き始める前に知っておいてほしいこと

君たちが働き始める前に知っておいてほしいこと

「キャリアデザインマガジン」第80号のために書いた書評です。書評のわりには、自分の言いたいことを書いている部分が多いですが(^^;;;;


 厚生労働省は、この8月から「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会」を開催している。「非正規労働者の趨勢的な増加や労働契約の個別化、就業形態の多様化等が進む中、労働関係法制度をめぐる知識、特に労働者の権利に関する知識が、十分に行き渡っていない状況が問題として指摘されている」という問題意識のもと「労働関係法制度をめぐる実効的な教育の在り方を提示していくことを目的として開催するもの」であるという。実際、この研究会に提出された資料をみると、労働者の権利理解の状況はあまり進んでいるとはいえないし、不利な就労形態、労働条件で働いている人ほど理解が低いという傾向も指摘されている。

 こうした問題意識は、これまでもたびたび指摘されてきた。たとえば、今日の若年雇用問題に関する最初期のまとまった文献である玄田有史(2001)『仕事の中の曖昧な不安−揺れる若年の現在』(中央公論新社、2005中公文庫)は、その最終章で高校生に向かって「就職先でトラブルにあったら労働基準監督署に行こう」と呼びかけている。法的に保証された権利を知らない、あるいは知っていても救済を受ける方法を知らないがために、離職したり、不利な労働条件に甘んじたりしている実態があるとすれば、それはたしかに解消すべきものであろう。

 この本は、最初に「卒業後に、就職したり進学してアルバイトをしたりすることになる高校生を主たる読者と想定して、働く際に身につけておくべき基本的な法的知識を説明したものです」と書かれているとおり、そのためのテキストといった趣のものである。56ページの小さな本であり、現実に働いたときに身近なものとなりそうな20のテーマを取り上げ、平易な表現で法律の解説を試みているのに加え、「困ったときの相談先」や労働組合の役割も説明されており、巻末には都道府県労働局の一覧と労働基準法の抜粋、そして行政が作成した労働条件通知書の様式が掲載されている。労働法をすべて網羅しようとすると膨大なものになるし、正確な解説を期すればどうしても難解で読みにくいものとならざるを得ない。行政も同様の問題意識からか類似の啓発資料を作成しているが、たとえば東京労働局の作成した「ポケット労働法2008」をみても、分量は123ページに及び、文章も平易が心がけられているとは感じるものの、読みやすいとまではいいにくい。この本は、対象者を「主に高校生」に限定し、内容を彼ら・彼女らにとって身近なものとなりそうなものに絞り込むとともに、詳細は思い切って省いて原則の説明に大半を費やし、文体も口語調の若者が親しみやすいものとするなど、並々ならぬ苦心でこれらの課題に取り組んでいる。800円という価格は普及の上で微妙なところだが(上述の「ポケット労働法」はネット上で公開されている。http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/siryo/panfu/panfu05/pdf/all.pdf)、この努力は多とすべきものだろう。

 ただ、この内容だけでよいのかといえば、もとより十分は期することが難しいわけではあるが、不満も残らないではない。その最たるものは「企業内での解決」という観点が欠落していることで、実はこれは最初に紹介した「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方に関する研究会」でもそうした傾向がみられる。たしかに、たとえば年次有給休暇の取得を申し出たときに「この忙しいときに何を言ってるんだ」とか「わが社にはそんなものはない」などと言い出す程度の低い使用者もまだまだいる、というのは、残念ではあるが悲しい現実だろう。それでも、「これこれこのように段取りして、仕事には支障のないようにしますから」と説明すれば「そうか、だったら休みなさい」と円満におさまる可能性も決して低くはないのに、いきなり「年次有給休暇は法的に保障された労働者の当然の権利です」と労働基準監督署に駆け込んだとしたら、仮に休暇はとれたとしても、その後に大きな禍根を残すリスクは高い。もちろん、行政の監督に頼らざるを得ない石頭の子どもじみた使用者もいるわけだが、そういう場合もなるべく事を荒立てずにうまく運ぶのが大人の知恵というものだろう。まあ、ここまで望むのは高校生対象の本にはないものねだりかもしれないが…。

 さらに言えば、「今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方」という観点からは、労働者の権利の拡大が経済や労使関係の発展段階に応じてどのように実現されてきたのか、ということの理解をはかることが大切ではないかと思う。もちろん、不屈の労働運動によって権利の獲得が進んでいった時代もあるが、国家経済の発展、労使関係の安定・成熟にともなって、政労使の三者による話し合いで問題の解決や権利の拡大がはかられたり、労使協調による生産性向上の成果を労働条件の向上を通じて権利の拡大に結び付けていくという枠組みも整えられてきた。わが国でもほんの20年前にはまだ週休1日、法定週48時間労働が一般的だったが、現在では週休2日、法定週40時間が広く定着している。こうした大きな成果が実現できたのは、国の政策的支援もさることながら、個別労使が生産性向上と労働時間短縮にそれぞれ努力したことの積み上げに他なるまい。権利の実現をはかるということは、実は労使がよい職場、よい会社を作るために努力することに他ならないということは、しかし現実の職場、会社においてでしか教育できないことなのだろうか。だとすれば、今後の労働関係法制度をめぐる教育の在り方におけるOJTの意義と労使の役割はまことに大きい。

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2008-11-13 JR東日本、契約社員5割増

今朝の日経から。「契約社員5割増」という見出しにまず驚いたわけですが…。

 東日本旅客鉄道(JR東日本)は2011年度をメドに、駅・旅行業務に携わる契約社員を現在に比べ56%増の2500人に増やす。志望者で試験に合格すれば、将来正社員に登用する。最新鋭機やインターネットの導入で、今後、窓口などの人員縮小が見込まれることから、正社員以外の雇用形態を増やし機動的に人員配置できるようにする。

 採用を増やすのは「グリーンスタッフ」と呼ぶ契約社員。「みどりの窓口」での切符販売、改札での運賃精算、案内、旅行商品の窓口業務などを担当する。高卒以上が条件で、年間500―600人を募集する。採用後は東京、横浜、千葉など首都圏の主要駅に配属。契約は1年ごとに更新する。

 同社は全従業員63000人のうち約98%を正社員が占める。運転や設備保守など「安全運行に関わる業務には非正社員はなじまない」(人事部)とし、他業種に較べて契約社員の活用は進んでいなかった。

(平成20年11月13日付日本経済新聞朝刊から)

「全従業員63000人のうち約98%を正社員が占める」これにも驚きました。契約社員が56%増で2,500人ということは、現在は1,600人で、全従業員63,000人のうち契約社員1,600人を除く全員が正社員とすると、なるほどたしかに約98%が正社員となります。まことに驚くべき正社員比率です。JR東日本の長期雇用に対するこだわりについては、以前このブログでも紹介したことがありますが(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20060823)、それにしてもこれほどとは思いませんでした。

  • というか、JR東日本というと相当数のアルバイトが働いているという印象がありますが(そうでもないのか?)、これはどうカウントされているのでしょうか?従業員としてはカウントされていないのか、あるいは別会社での雇用といった形になっているのか…。

 JR東日本は、繁忙期と閑散期、あるいはラッシュアワーとそれ以外などの業務量格差はかなりありそうですから、ここまで硬直的な人員構成になってしまうと、シフト勤務や変形労働時間制などを活用してもなおかなりの非効率が発生しそうな感じがしますが、大丈夫なのでしょうか?(まあ、カウント外のアルバイトなどで対応しているということかもしれませんが…)あるいは、非効率より安全が大事だ、JR西日本をみてみろ、ということかもしれませんが、JR東日本といえば公益的かつかなり自然独占的な企業ですから、過剰品質を価格転嫁されて高いサービスを買わざるを得ないというのは消費者にとってはあまりハッピーな状態ではないと思うのですが…。そういう意味では、契約社員が増え(て経営が効率化して料金が下が)ることは利用者にとっては歓迎すべき取り組みということになります。契約社員を増やすのはけしからん、という意見ももちろんあるでしょうが、そこには「他人の雇用を安定させるために自分はいくら余計に料金を払うつもりがあるか」という悩ましい問題が横たわっているわけです。

 まあ、人数が56%増えても全体の中での比率としては4%程度で、世間の非正規比率に較べればずいぶん低いですし、正社員登用もするということなので、これだけではそれほど効率化効果は上がらないかもしれません。そういう意味では、これがさらに広がるのかどうかが注目されます。

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2008-11-12 雇用保険部会

政府・与党の追加経済対策「生活対策」に盛り込まれた雇用保険料の引き下げを進めようということか、昨日、労政審の雇用保険部会が開催されたとのことで、日経新聞にそのもようが報じられています。

 厚生労働省は十一日、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の雇用保険部会を一年ぶりに開き、失業者への給付のあり方の見直しや保険料率引き下げなどの論点を提示した。年末までに結論を出す。社会保障費の自然増圧縮の財源として浮上している雇用保険の国庫負担の削減については、労働側が強く反対した。

 失業給付を受けるには離職前二年間に保険料を一年以上払っていることが必要。倒産、解雇を理由とした離職なら、離職前一年間に六カ月以上が条件となる。

 ただ実際には雇用情勢の悪化で非正規社員を中心に雇い止めが増えており、雇用保険の適用対象から漏れ失業給付を得ていない。労働側から「非正規社員のセーフティーネットを拡充すべきだ」との声が相次いだ。

 総賃金の一・二%を労使で折半している雇用保険料率の引き下げを巡っては、厚労省が政府の追加経済対策に盛った一年に限り最大〇・四%引き下げという案を提示。この日は労使から賛否の具体的意見は出なかった。

 雇用保険の国庫負担問題では、労働側が「国庫負担削減の話まで議論するなら、今後の審議に参加しない」とけん制した。

(平成20年11月8日付日本経済新聞朝刊から)

ふーむ、料率引き下げには「労使から賛否の具体的意見は出なかった」ですか。先日もご紹介しましたが、連合は事務局長談話で反対を表明していたはずですが…。経営側がどう出るかも注目されるところです。連合も主張するとおりで、普通に考えて、これから雇用失業情勢が悪化するときに雇用保険の料率を下げたり積立金を他用途に流用したりするのは愚策であり、いったん下がった料率が結局また上がるということになれば企業も事務コストが余計にかかりますから、それほどありがたい話でもないような気がしますが…。そういえば、積立金流用の話は出なかったのでしょうか。ちなみに、連合が有力な支持母体となっている民主党の「経済・金融危機対策〜「生活第一」で将来を切りひらく〜」には、さすがに雇用保険料引き下げなどは含まれていないようです(もっとも、全体をみると農業の戸別所得補償制度など、雇用保険料引き下げよりもっと筋の悪い内容がいくつも含まれているようではありますが…)。

非正規社員のセーフティーネットを拡充すべき、との主張は、これからさらに非正規雇用の雇い止めなどが増えそうな情勢であることを考えれば妥当な意見と申せましょう。ただ、それをどこまで雇用保険の枠組みでやるのがいいのか、という点では議論がありそうです。雇用保険でやるとすると、その原資は労使が負担した保険料ということになります。まあ、労働側からそうした意見が相次いだということですから、労働サイドとしては労働者が負担した保険料が非正規雇用のセーフティネットとして再分配することを容認した、ということなのでしょう。実際、正社員の雇用の安定は非正規雇用のフレキシビリティの上に成り立っていることは否定しようがないわけですから、正社員にそれなりの負担を求めることは妥当といえるかもしれません。経営サイドにしても、こうした人事管理を採用することで受益しているのであれば、やはり一定の負担はあってしかるべきとも考えられましょう。このあたりはよく議論してほしいところです。

雇用保険の国庫負担の削減については、労働側が「国庫負担削減の話まで議論するなら、今後の審議に参加しない」という強硬な姿勢をとっているようです。まあ、雇用保険の国庫負担は「国として失業対策に責任を持つ」ことの表明であるという説明がされているようですから、これの削減に対して連合が「国は失業対策の責任を放棄するのか」と憤るのはわからないではありません。

ただ、失業手当に国庫負担があるのは先進国ではむしろ例外に入るわけで、なにも国庫負担がないから国は責任を負わないということでもないでしょう。国庫負担の削減がそのまま保険料負担にはねかえるということなら労使とも反発するのは当然ですが、国庫負担の存在が必ずしも直接的な失業者へのセーフティネットとはいえない政策的支出(育児休業給付など)を正当化してきた側面もあります。雇用保険は失業保険に特化して保険料負担が増えない範囲に整理し、その他の事業は続けるなら別途一般会計で予算を確保する、ということであれば、検討の余地は十分にありそうに思われます。

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2008-11-11 ボーナス減額

きのうのエントリとの関連で、やはり週末の日経新聞から。

 民間調査機関六社の民間企業の冬のボーナス予測によると、従業員一人当たりの平均支給額は四十万五千三百七十八円と昨冬に比べ二・九%減る見通しだ。この通りになれば二年連続の前年割れで、夏も含めると昨夏から四回続けてのマイナス。世界経済の急減速と資源高で企業収益が大幅に悪化するのが響く。

 各社は厚生労働省の毎月勤労統計調査に基づき、従業員五人以上の事業所を対象に支給額などを予測。それによると、民間ボーナスの一人当たり支給額は昨夏に前年比一・一%減と三年ぶりに前年水準を割り込んだあと、昨冬(二・八%減)、今夏(〇・四%減)とマイナス基調に入っている。

 ボーナスの減少は家計の購買意欲を一段と冷え込ませる。「原油価格急落で物価面からの所得下押し圧力は和らぐが、ボーナスと残業代の減少がこうしたプラス効果を打ち消す」(第一生命経済研究所)との見方も浮上。個人消費は四―六月期の実質国内総生産(GDP)で三・四半期ぶりのマイナスを記録。仮に七―九月期以降もマイナスが続くようだと、日本経済は成長の下支え役を失うことになる。

 民間調査機関の冬のボーナス予測(前年比増減率%。▲はマイナス)

調査機関一人当たり平均支給額支給労働者数支給総額
第一生命経済研究所▲4.00.8▲3.2
みずほ証券▲3.21.2▲2.0
三菱UFJ証券景気循環研究所▲3.00.6▲2.4
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲1.80.7▲1.1
みずほ総合研究所▲1.60.6▲1.0
野村証券金融経済研究所▲3.81.3▲2.6
6社平均▲2.90.9▲2.1
07年冬実績▲2.81.6▲1.2

(平成20年11月8日付日本経済新聞朝刊から)

たしかに、「賃金に下方硬直性がある」とはいっても、それは基本的に月例賃金の話であって、賞与も含めた年収ベースでみればそうでもないわけですね。実際、90年代末以降のデフレ期においては、月例賃金については名目ではベアゼロが続いても、物価が下落していたため実質賃金は上昇しているという状況がありましたが、賞与が変動することで年収でみれば実質でも減収になる場面もあったでしょう。これは、経団連も「2008年版経営労働政策委員会報告」で「一時的な業績改善は賞与・一時金に反映させることが基本」と述べているように、日本企業が一般社員にも広く利益配分的な賞与を支給してきたことの帰結であり、これ自体は社員の意欲向上・動機づけに大いに資してきたと評価できると思いますが、いっぽうで年収ベースで賃金の下方柔軟性(?)が存在することがデフレを長期化させた、という指摘もあるところです。

さて、賞与を夏・冬とも月例賃金2か月分とすれば、冬賞与が2.9%減少すると、単純計算でベア約0.4%をキャンセルすることになります。夏賞与も同じく減少するとすれば約0.7%分ということになりましょうか(計算は概算かつ自信なし、です)。ということは、仮に政府が経済界に賃上げを強要できたとしても、企業はそれこそ「総額人件費」レベルで賞与を減額してこれに対応することも可能なわけです。とすると、政府が掲げる「賃上げ要請」がどれほど購買力の確保につながるかは疑問もありそうです。

もっとも、下方硬直性のある賃金の引き上げには、賞与とは異なる心理的な効果がある、つまり賃上げなら下げられることはまずないから生活水準を上げようかという気になりやすいのに対し、次も同じだけ出るかどうかわからない賞与については、増えても貯蓄に回す、あるいは一時的な消費に使うにしても、生活水準を上げるまではいかないのではないか、という説もあるようです。なるほどもっともらしいような気はしますが、本当にそうなのか、検証されているのかどうかは不勉強にして知りません。検証してみる値打ちはありそうなので、誰かやっているのではないかとは思うのですが…。

また、記事にもありますが、残業代の減少というのも効いてくるかもしれません。ならしてみればわが国の所定外労働は平均月10時間台でそれほど多いわけではありません*1が、それでも時間外が10時間減少すればこれまた単純計算で月例賃金は約7%減少する計算になります(もっとも、これは賞与には効かないので年収ベースではそこまではいきませんが)。これはとりあえず今回の記事にある賞与の減少や、経済界に賃上げを要請といったものよりかなり大きい数字になります。特に、多残業を生活設計に組み入れている労働者にとっては強烈な消費抑制効果が働くでしょう。

ということで、財源不要のバラマキという意味で政治的に魅力的なのはよくわかるのですが、やはり購買力維持とかいう目的で企業に賃上げを求めるのはあまり筋のいい考え方とはいえないようです。政策的に国民の収入減に対する補填が必要だというのであれば、政府が減税などの方法で行うのが普通の考え方というもので、そういう意味では現在取り沙汰されている「定額給付金」は考え方としてはまっとうと申せましょう(一種の逆人頭税なので低所得者に手厚いことも政策の趣旨に一致しているといえそうですし)。ただ、当然ながらこれは2兆円なら2兆円の財源の手当てが必要なわけで、だとすればこれはこれでもっと有効な使い方があるのではないか、という議論は別にあるのでしょうが。

先週末に発表された厚生労働省の「平成19年就業形態の多様化に関する総合実態調査結果の概況」によると、非正社員の割合が37.8%という結果になっていたそうです。

http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/syugyou/2007/1107-1.html

新聞報道はこちらです。

 厚生労働省が七日発表した就業形態についての実態調査によると、労働者に占める非正社員の割合は三七・八%となり、前回調査(二〇〇三年)から三・二ポイント上昇した。企業が柔軟な雇用を目指した結果だが、働く意欲を高めるための賃金制度見直しなど課題も多い。

 非正社員とは契約社員や派遣労働者、パートタイム労働者など正社員以外の労働者を指す。〇三年との比較では、派遣労働者の比率が四・七%と二倍超に増えた。製造業や金融・保険業で活用が目立つ。

 非正社員を活用する理由を事業主に複数回答で聞いたところ、「賃金の節約」が四〇・八%でトップ。続いて「一日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」三一・八%、「即戦力・能力のある人材を確保するため」二五・九%の順となった。

(平成20年11月8日付日本経済新聞朝刊から)

このブログでも時折書いてきましたが、私は「非正社員の増加は潜在成長率の下方屈折と産業構造変化による構造的なものだが、過度の増加は人材育成や技能形成・伝承などに支障を来たすため、いずれこの増勢は止まる」と考えていて、増勢が止まる時期については「3分の1強くらいが上限で、そろそろではないか」と(希望も含め)推測していました。しかし、この結果をみるかぎりこの推測はハズレだったようで、自らの不明を率直に反省しております。まあ、それにしてもそろそろ限界ではないでしょうか(負け惜しみ&希望的観測)。経済情勢をみるともう少し増加が続かざるを得ないのでしょうが、その後は景気回復にともなって反発が来るのではないかと期待しています。さすがに非正規雇用が半数に迫るようでは、日本全体の技能レベルがかなり低下してしまうのではないかと心配です。

派遣労働者が大幅に増えたのは、これは製造現場への派遣が解禁されたことの影響でしょう。平成15年調査では、製造業は「正社員76.7%、派遣2.0%、パート12.3%」だったのが、今回調査では「正社員70.3%、派遣9.8%、パート10.9%」となっていて、派遣が7.8パーセントポイント増加しているのに対し、正社員は6.4パーセントポイント減少、パートが1.4パーセントポイントの減少で、なんとこの二つでうまく計算が合ってしまいます。もっとも、これをもって製造業の常用代替が進んでしまった、と考えるのもやや早計な感があります。この中には、高齢法改正で60歳以降の継続雇用が義務化されたことにともない、「60歳定年でいったん退職→派遣会社からの派遣で継続就労」という形で就労する高齢者が相当割合含まれていると思われ、だからこそ今般の派遣法改正の議論にあたっても、インハウス派遣の規制から定年退職者を除外することとされたわけでしょう。もっとも、これは全産業の数字ですが、派遣労働の活用理由として高齢者再雇用をあげた企業は2.6%(平成15年1.7%)しかなく、嘱託の67.3%(平成15年56.5%)に較べてかなり少ないので、それほど多くはないのかもしれません。ちなみに、派遣労働には「2009年問題」も目前に迫っていることは周知のとおりで、これは派遣の比率を下げる方向に働くものと思われます。まあ、それで非正規比率までが下がるかというと、そうはなりそうもありませんが…。

なお、非正社員活用の理由については「賃金の節約」が40.8%でトップということですが、他の選択肢のうち「景気変動に応じて雇用量を調節するため」「長い営業(操業)時間に対応するため」「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」「臨時・季節的業務量の変化に対応するため」といったフレキシビリティに関する選択肢も、結局のところはすべてコスト抑制、「賃金の節約」につながるわけなので、複数回答だと相当の重複がありそうです。「賃金の節約」が単純に単価の低さを意味しているとは考えないほうがいいように思われます。

*1:「毎月勤労統計調査」による。所定外のデータには統計による差が大きいことが指摘されていますが、とりあえず残業代について考える場合は毎勤統計がいいでしょう(笑)。

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2008-11-10 経団連、雇用を重視

週末の日経新聞から。経団連の2009年版経営労働政策委員会報告の原案が明らかになったとのことです。

 日本経団連が二〇〇九年の春季労使交渉に向けて経営側の指針としてまとめる「経営労働政策委員会報告」の内容が明らかになった。今の経営環境を「危機的状況」とし「減益傾向が強まる中、賃上げよりも雇用維持を重視する企業も少なくない」と明記。賃上げを打ち出した〇八年方針を修正して引き上げ判断を個別企業に委ね、雇用確保を最優先と位置付けている。

 経団連会長、副会長が集まる会議などでさらに詳細を詰め、十一月末に最終案を固める。ここへきて政府・与党は経済界に賃上げを求めているが、人件費の決め方は「個別企業の交渉により、自社の支払い能力に即して決定すべきである」とし、「総意」としては賃上げを掲げない構えだ。

 各国経済の減速に見舞われるなど、企業を取り巻く現在の環境は石油危機、バブル経済崩壊後に次ぐ「第三の危機」と指摘。次の労使交渉は「過去の経験、教訓を踏まえながらの対応が重要」と慎重さをにじませている。

 加えて「生産性上昇を伴わない賃金上昇は高コスト体質を加速させ国際競争力の一層の低下を招く」と懸念を表明。経営の課題は「自社の実態を踏まえ総額人件費をいかに適正に管理するかである」とした。

 そのうえで「中長期的な視点にたち、雇用安定を最優先に話しあう」との方針を新しく盛りこんだ。

(平成20年11月8日付日本経済新聞朝刊から)

たしかに、11月4日のエントリ(http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20081104)でご紹介した政府・与党の追加経済対策「生活対策」では依然として「経済界に対する賃金引上げの要請」が掲げられていましたが、どうも経団連としては経済界をあげてこれに応じるような情勢ではない、という判断のようです。

もっとも、それでは記事が書きたてるほどに大きなスタンスの変化があったのかというと必ずしもそうではなさそうで、もちろん報告書を読んでみなければわかりませんので推測に過ぎませんが、基本的な考え方はあまり変わっていないのではないでしょうか。たとえば、「個別企業の交渉により、自社の支払い能力に即して決定すべきである」というのは、旧日経連時代から「横並び一律ベアはもはや論外」の意味で言われてきていますので、別に目新しいものではありません。ただ、記事のとおり「減益傾向が強まる中、賃上げよりも雇用維持を重視する企業も少なくない」という表現がされているのだとすれば、たしかに2008年版の「全規模・全産業ベースでは増収増益基調にあるとはいえ、企業規模別・業種別・地域別に相当ばらつきがみられる現状において、賃上げは困難と判断する企業数も少なくない」に較べれば踏み込んでいると申せましょう。実際、企業業績がそれだけ変化しているので当然といえば当然かもしれませんが。

同様に、「生産性上昇を伴わない賃金上昇は高コスト体質を加速させ国際競争力の一層の低下を招く」とか「自社の実態を踏まえ総額人件費をいかに適正に管理するかである」とかいうのも、要するに生産性基準原理(の変形?)と総額人件費論ですから経団連のこれまでの主張と同じで、わざわざ記事にするほど目新しいものではありません。いっぽう、「石油危機、バブル経済崩壊後に次ぐ「第三の危機」と指摘」したうえで「過去の経験、教訓を踏まえながらの対応が重要」と「慎重さをにじませている」というのはなんとなく意味ありげで、これはおそらく昨今の物価上昇を念頭においたものという気がします。連合は物価上昇分の賃上げを求める方針だそうですから、これに対抗して、石油危機の際に賃上げを抑制して物価上昇も抑制した「管理春闘」の経験を持ち出しているのではないでしょうか。まあ、このあたりは報告書を読んで見なければなんともいえませんが…。

ただ、「雇用維持を重視」というのも、後段の「中長期的な視点にたち、雇用安定を最優先」という表現によく現れているように、「中長期的な」雇用、すなわち正規雇用がもっぱら念頭におかれているのではないかと思われます。つまり、実質的に意味するところは大企業を中心にこれまで広く採用されてきた「正社員の長期雇用、長期人材育成・投資、長期回収」という考え方はこれからも維持していく、ということであって、そのためのフレキシビリティ確保の役割を持つ非正規雇用については、契約期間・派遣期間終了にともなって粛々と雇い止めなどが行われることになるでしょう。というか、すでにそうした動きが広がっているのが現実ではないかと思われます。

もっとも、ある段階に達すれば、前回の景気後退局面のように、非正規雇用を一定割合維持しながら、希望退職などによる正規雇用の削減に踏み込む企業も出てくるかもしれません。結局のところは経済合理性の話ですから、最終的には「長期にわたって人材投資して能力と経験を蓄積し、その分賃金も高く、定着は良好で配置転換なども容易だがだが雇用の柔軟性は低く削減コストの高い正社員」と「能力や経験はそれほどでもないが賃金は低く、定着や配置転換はあまり期待できないが雇用の柔軟性は高く削減コストの低い非正社員」との比較衡量になるわけで。

いずれにしても、経団連が「雇用維持」を言ったからといって雇用失業情勢は悪化する可能性が高いわけですから、再就職支援や雇用創出、あるいは失業給付などのセーフティネット確保のための政策が重要になりそうです。ということは、これまで繰り出してきた雇用対策もその真価を問われる場面になるのかもしれません。

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