3月のチベット騒乱を受けてチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世の特使と中国政府の高官が実施してきた対話が、成果のないまま中断した。
これを踏まえインドで開かれた亡命チベット人総会では、「独立ではなく高度の自治を」と訴えるダライ・ラマの「中道路線」から「断固独立を」との強硬路線への転換を求める声が多く出た。チベット人の間で強硬論が強まれば再び騒乱が起きかねないだけに、心配な展開だ。
一方の中国政府は、ダライ・ラマの中道路線に対し「事実上の独立を目指している」との批判を続けている。外務省の秦剛・副報道局長が「政府の立場は明確で一貫している」と述べるなど、高圧的な姿勢を改める気配はない。
3月の騒乱のあと、日米欧など多くの国の政府やメディアが対話による問題解決を訴えた。世界を巡った北京五輪の聖火リレーは欧州や米国、日本などで「チベットに自由を」と訴えるデモに迎えられた。
5月に対話が動き出してからデモはかなり沈静化したが、それは対話の成果への期待が一因だった。「中国政府は北京五輪の成功を演出するため対話のポーズを示しただけではないか」。政府高官の硬直的な発言は、こんな疑念さえ招いている。
中国政府は依然として、外国メディアのチベットでの取材を厳しく制限している。中国メディアの報道によれば、騒乱に関与したとされる人々の逮捕・収監などを進めているもようだが、現地で何が起きているのか実態は見えず、人権侵害を懸念する声は根強い。
ダライ・ラマは12月に欧州を訪問し、フランスのサルコジ大統領ら欧州諸国の首脳と会う予定だ。これに対し中国政府は26日、フランスで予定されていた欧州連合(EU)との首脳会議の取りやめを通告するなど、外交でも強硬な姿勢を改めて鮮明にしている。
金融危機もあって世界の中での中国の存在感は大きくなっており、チベット問題での高圧的な姿勢がますます目立っている。多様な人々の声に耳を傾ける度量と、外国メディアの取材を自由に認める開放的な姿勢が、今こそ必要ではないか。