こんな快挙が待っていようとは、場所前はまったく予想できませんでした。
初土俵から十五年目、三十歳で十両昇進を果たした琴国関(真庭市出身、佐渡ケ嶽部屋)です。
というのも、琴国関は初めて幕下に上がった二〇〇〇年以降、一進一退を繰り返し昇進のチャンスを逃していたからです。体格に恵まれ素質もありながら、本番で緊張しすぎて力を出せない精神面の弱さが課題でした。
ところが、東幕下十枚目で臨んだ九州場所は別人のようでした。六戦全勝で迎えた七番相撲。十両昇進が懸かる正念場で、西幕下筆頭の福岡(八角部屋)との激しい投げの打ち合いを執念で制します。全勝同士の優勝決定戦は千昇(モンゴル出身、式秀部屋)を一気に押し出し、幕下優勝を飾りました。
七戦全勝で関取の座を確実にし、花道を引き揚げながら流した大粒の涙。十両昇進会見で見せた晴れやかな笑顔。どちらも美しい姿でした。所要八十九場所は史上二番目のスロー出世で「長かった」の言葉に実感がこもりました。
それにしても、長年はね返され続けた十両の壁を突き破る原動力は何だったのでしょう。
これまで休場は一度もなく「けがをしても休むことは頭にない」というほどの稽古(けいこ)熱心さ。今年、十両に上がれなかったら辞めるとの覚悟と開き直り。そして場所前の秋巡業「大相撲真庭場所」でもらった古里の温かい励まし。この辺りに飛躍のヒントがありそうです。今後、本紙記者が取材を掘り下げ、琴国関誕生の秘話を掲載予定です。
(運動部・飯田陽久)