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【昭和正論座】元内閣法制局長官・林修三 昭和49年12月7日掲載 (4/5ページ)
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≪上からの圧力の防波堤≫
この一一・六判決での多数意見の考え方は、まことに適切でありもっと正当に評価される必要があるのではないかと考える。多くの人々は、公務員に対する政治的行為の規制を、反政府的・反与党的政治的行為の禁止という面のみからとらえ、それが下級公務員にも及んで多くの公務員の正当な政治的意見表明の機会を抑圧していることの不当性をいうが、政治的行為の規制は、上級機関ないし与党的な勢力からの公務員に対する政治的圧力を抑制する防波堤としても強く作用している点を、まず見逃してはならない。そして、公職の選挙における選挙活動などは、最も露骨に政治的・党派的な対立の具体化する典型的行為であり、かりに、下級の非管理職的公務員についてでも、そういう政治的行為が解禁されたとしたら行政の場はどういうことになるであろうかを考えてみる必要があるように思う。
おそらく野党勢力のほか、与党勢力は一層強く、いろいろの権力機構を通じてこれらの者に働きかけ、公務員の職場には深い党派的対立の亀裂が生ずるであろうし、またいろいろの圧力に対しもともと弱い立場にある公務員は、こういう働きかけに応じて右往左往し、行政の場に政治的偏向が横行することになるであろう。猿払事件は郵便局の現業職員の事件であるが、かりにそういう現業職員であっても、郵便業務や郵便貯金業務などという国民生活に深いかかわりのある事務に従事しており、それらの事務運営に党派的偏向が導入されるとしたら国民の公務に対する信用は根本からくずれるであろう。