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【昭和正論座】元内閣法制局長官・林修三 昭和49年12月7日掲載 (3/5ページ)
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≪行政に党派的対立の恐れ≫
こういう考え方に対し、多数意見がこれを合憲とする理由としてあげているところの重点を私なりにとらえてみると、第一には、こんどの一一・六判決の対象となった政治的行為の禁止違反の行為は、いずれも国会議員などの選挙にさいし、その選挙運動として、ポスターを掲示したり、文書を配布したり、個人演説会の司会をしたりしたものであることを重視し、こういう選挙に関連する選挙運動などというものは、行政の世界に党派的対立を導き入れ、公務員が政治的に中正、かつ不偏不党の立場で、国民の信頼にこたえつつ公正に職務を行うべきであるという建前に最も強い影響を与える典型的な行為であり、その意味で、公務員にも政治的意見の表明の自由はあるけれども、こういう特定の党派の候補者の立場に加担して、その者のために選挙運動を行うというような行為は、国民の共同利益の維持ないし公共の福祉の保持という見地から厳格に規制される必要があるということ、第二には、こういう種類の行為についてはそれが公務員の政治的中立性を害する危険性の度合いを、その公務員の職種、職務の別、管理職・非管理職の別、現業・非現業の別、裁量幅の広狭の別などによって区別すべきいわれはないということ、第三には今回の判決の対象となった政治的行為はいずれも軽微なものであって、これに対し刑罰の制裁を適用するのは不当だというが、個々の事件の態容は軽微であっても、国家公務員の属する行政組織は、原則として、全国的に広範囲につながっており、そういう行為が行政組織のつながりを通じて累積されることにより生ずる弊害は、決して軽視できないことなどの点であると考えられる。