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社説:党首討論 首相は何も答えなかった

 これで国民への説明になったとは思えぬ。麻生太郎首相と民主党の小沢一郎代表の初の党首討論が行われた。小沢氏は首相が2次補正予算案の国会提出を来年に先送りした対応に絞り、論戦を挑んだ。首相はこれまでの説明を繰り返すだけで、まともに答えようとしなかった。

 補正予算を出さないのなら年末に衆院解散を、と小沢氏が投じた直球も首相はかわし、守勢に回った。国会の会期が来月25日まで延長されたにもかかわらず、与党の都合で景気対策が出ず政治空白が生じかねないというのでは国民は到底、納得しまい。延長国会を消化試合に終わらせてはならない。

 党首討論の開催自体、福田康夫前首相と小沢氏が火花を散らせて以来、実に7カ月ぶりだ。今国会でさまざまな理由を挙げ応じなかった小沢氏だが、麻生政権のほころびが次々と露呈する中だけに、有利だと踏んだのだろう。

 案の定、小沢氏は追加経済対策を盛り込んだ2次補正予算案の今国会提出を首相が見送った点に絞った。「政局よりも政策」との首相の持論との矛盾を突き、「国民への背信行為」と批判した。首相は1次補正予算による現行対策でも中小企業の資金繰りなど年内の対策は十分だと改めて強調。金融機能強化法改正案が審議中であることも先送りの理由とし、小沢氏に成立へ協力を呼びかけた。

 ところが、小沢氏が2次補正を見送るならば衆院解散を断行するよう首相に迫ると、今度は金融危機が「100年に1度」との見方を持ち出し、景気重視を理由に拒んだ。これでは自分の都合に応じ経済の深刻さの認識を使い分けているようなものではないか。

 2次補正を今国会に提出した場合、審議が暗礁に乗り上げ、年末の衆院解散に追いこまれる事態を避けたいという与党事情が先送りの真相だろう。答えるに答えられず、矛盾した説明を繰り返したとみられても仕方がない。

 やりとりが全体的に盛り上がりに欠けた印象も否めない。自らの発言が次々と問題化したせいか、首相は別人のように官僚答弁的な慎重発言を繰り返した。小沢氏も主張は正攻法だったが首相と初討論のぎこちなさもあり、すごみはもうひとつだ。首相が解散に応じない以上、残る会期でさらに党首討論を重ねて補正予算提出を迫り、双方の対立点を明らかにするのが筋だろう。

 国会は延長されたが新テロ対策特別措置法、金融機能強化法両改正案の採決に民主党が柔軟姿勢で応じた場合、会期が余り日程が無為に消化されるおそれもある。国民の生活への危機感と、駆け引き主導の政治のギャップは極めて深刻だ。野党党首が討論で投げた球を、首相がまともに打ち返さない--。そんな状態が続いてよいはずがない。

毎日新聞 2008年11月29日 東京朝刊

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