現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

内定取り消し―若者の未来を裏切るな

 「来春から働いてもらうから」

 そういう学生たちとの約束を、企業がこれほどあっさりと、ほごにしてもいいものか。

 卒業まで数カ月となったこの時期に、少なくとも331人の大学生や高校生らが、いったん決まった採用の内定を一方的に取り消されていた。景気の悪化は深刻で、内定取り消しはまだまだ増えそうな気配である。

 いい学生を採りたいと企業が走り回っていた昨年までの売り手市場は、もはや見る影もない。このままいくと「就職氷河期」と呼ばれた10年ほど前の水準に戻りかねない状況だ。

 採用を取り消すかわりに金を渡された。そんな話も聞こえてくる。内定式を終えたばかりなのに、「入社しても希望の部署にはいけない。就職活動を再開した方がいい」と、内定の辞退を迫られた学生もいる。社会人として歩み始める直前に、世の中から裏切られたようなものだ。

 来春に向けた採用活動を、すでに終えた会社が多い。今さら「内定はなかったことに」と言われても、これから就職先を探すのは容易ではない。

 まして日本は、卒業時の就職先によって、その後の職業人としての生涯が大きく左右されがちな社会なのだ。

 会社の倒産で、やむなく内定が取り消された例もある。だが十分な説明もないまま、紙切れ一枚で通告された人もいるようだ。そういう企業は、ぎりぎりまで努力をしたのだろうか。

 内定の一方的な取り消しは労働契約の解除にあたり、合理的な理由がなければ違法とされる可能性が高いのだ。

 今はなにより、就職先をなくした学生たちを、できる限り支えなくてはならない。

 内定を取り消された学生は黙って泣き寝入りをするのではなく、まず学校などに相談しよう。相談を受けた大学や高校、ハローワークは、内定の取り消しが妥当かどうか、しっかり見極めるべきだ。もし疑念があれば企業に問いただし、必要ならば厳しい申し入れや指導をしなければならない。

 立場の弱い学生と企業の間に立って、取り消しをめぐる交渉や話し合いも進めてほしい。そのうえで互いに情報を交換しながら、学生たちの新たな就職先を探してもらいたい。

 将来ある若者の人生を振り回す愚行は避けねばならない。それは学生たちのためだけではない。

 不況に見舞われた90年代、企業は新卒者の採用を絞った。その結果、正社員になれないたくさんの若者が生まれ、その後も安定した仕事になかなかつけない世代ができた。

 そんな事態を再び招かないよう、企業には責任ある態度を求めたい。世の中にこれ以上、不満や失望の種をまいてはいけない。

党首討論―毎週でもやってみては 

 麻生首相と小沢民主党代表が初の党首討論に臨んだ。前回は4月9日、福田前首相のころだったから、ほとんど8カ月ぶりの開催である。

 両者のやりとりで目を引いたのは、衆院の解散・総選挙をめぐる発言だ。

 小沢氏が口火を切った。

 「首相が迷走を繰り返すのは、選挙の洗礼を受けていないからだ。国民の支援を背景に、首相がリーダーシップを発揮するのが民主主義のあり方だ」「第2次補正予算案を来年に先送りするなら、直ちに国民に審判を仰げばいい。12月に十分選挙ができる」

 安倍、福田、そして麻生と、総選挙を経ていない政権が3代も続く現状を考えれば、この主張はもっともだ。

 首相も率直に答えを返した。

 「私も解散というのはひとつの手段だと当初思っていた。その通りです」「ただその後、100年に1度の金融災害というほどの大きな問題が起き、政治空白がつくれなくなった」

 解散について、首相がこれだけざっくばらんに語るのは初めてといっていいのではないか。党首同士の論戦ならではのことかもしれない。ただ、その結論にはとても賛成できない。

 2次補正と来年度当初予算がともに成立し、執行できるようになる来春までは解散しない。首相がそう考えているように聞こえたからだ。それでは今の政治の停滞が、あと半年近くも続くことになってしまう。

 金融危機の影響が深刻になるのはこれからだ。危機が深ければ深いほど、一刻も早く国民の信任に支えられた政権をつくる必要がある。政治が力強さを取り戻すには、それしかない。

 小沢氏はこうも述べた。

 「12月に総選挙を断行して、あなたが国民の支持を得られたら、それこそ思う通りの政策を実行したらいい」

 総選挙でもし与党が勝てば、民主党も与党の政策実行には協力せざるを得ない。つまり、これまでのように参院での多数を使った抵抗戦術は控えよう。そんな考えを表明したとも受け取れる発言である。

 総選挙の敗者はその民意を重んじ、勝者が主導権をとることを受け入れるというルールを、事前に確認しておくのは意味のあることだ。

 この日のテーマは総選挙と2次補正の扱いに絞られた。両党首が直接論戦を交わしたことで、対立点がくっきりしたのは収穫だった。

 こんな討論をこそ、有権者はもっと聞きたいのではないか。道路特定財源の一般財源化をどうするのか。年内撤収が決まった自衛隊のイラク派遣をどう総括するのか。消費増税をどう考えるか……。テーマはたくさんある。

 臨時国会の会期は12月25日まで延長された。残り1カ月弱、毎週でも党首討論をやってみてはどうだろう。

PR情報