備前市で小児科医院を開業するK医師から先日、医学についてお話をうかがう機会がありました。少し長くなりますがご紹介します。
「医学とは病気を治す学問だと考えられているが、そうではない。病に苦しむ人のことを思い、その苦しみを取り去ってやりたいと願う心や、苦しみから回復した人のことを喜ぶ心を養う学問である。最新鋭の技術も知識も医学を実践する手段にすぎない」
K医師は、開業前は国立岡山病院(現在の国立病院機構岡山医療センター)で最先端の小児医療に携わり、医学の可能性と限界を間近に見てきた経験を持つだけに、重みのある言葉です。
「医学的には手遅れです」。私たちは違和感もなく、医師の言葉を受け止めます。しかし、K医師によると、多くの医師が言う「医学的」とは医療技術と知識で事足りていたことであって、真の医学はこれらを超えたところから始まるというのです。
翻って日常の医療現場はどうでしょう。患者と医師の信頼関係が築けるケースばかりではないでしょうし、最悪の場合は医療過誤訴訟に発展します。患者側が専門性の高い医療の過失を証明するのは至難の業。それを分かっていながら医療になじまない司法に頼るのはなぜでしょうか。真相究明に加え、医師からの温かい一言を求めているからかもしれません。
医は仁術。医師不足に直面する備前にも、そんな言葉を思い出させてくれた医師がいるのです。
(備前支局・二羽俊次)