政局の混迷で暗礁に乗り上げている重要法案がある。消費者行政一元化を図る消費者庁設置関連三法案だ。今国会で成立すれば、来年六、七月にも設置の見通しだったが、審議が始まっていない。しかし、会期延長となれば、状況は大きく変わることになる。消費者保護という当初の目的に立ち返り、与野党は審議に入るべきだ。
消費者庁創設は「国民目線の改革」を掲げる福田康夫前首相の看板政策だった。福田前首相は関連三法案を閣議決定し、実現への道筋をつけて退任した。
麻生太郎首相は所信表明演説で「消費者の立場に立ち、その利益を守る行政が必要」と消費者庁創設に意欲を示し、関連三法案を国会へ提出した。汚染米の不正転売が大きな問題になっていたさなかでもあった。続く、代表質問や予算委員会の質疑でも、首相は「消費者の利益を守る行政が必要。悠長な議論はしていられない」などと法案の早期成立を繰り返していた。
法案は、消費者庁を内閣府の外局と位置づけ、食品や製品をめぐる被害情報を一元的に集約、その概要を公表して被害拡大の防止に努める内容だ。重大な被害が発生した場合、地方自治体に直ちに報告するよう義務づけ、有害商品の回収などに応じない業者に一億円以下の罰金を科すことも盛り込んだ。
これに対し、民主党は内閣から独立した「消費者権利院」を創設する対案をまとめ、鳩山由起夫幹事長が代表質問で示した。今国会のテーマの一つとして本格的な論戦が行われるものと思っていた。
ところが、株価暴落で景気対策が最重要課題として急浮上する一方、与党内では衆院解散先送り論が高まってきた。早期解散を求める野党との対立が深まる中、今月十二日、野党四党は「十分な審議時間の確保が難しい」として今国会での審議入りに反対を決めた。これには今国会の会期が三十日までという前提がある。会期が延長されれば、前提は崩れる。野党四党は、重要テーマであるとの認識では一致しているという。それなら審議に応じるのが筋だろう。
消費者の側に立つ役所への消費者団体などの期待は大きい。縦割り行政で消費者保護に有効な手だてを打てない「霞が関」を揺さぶる意義もあろう。当初は意欲的だった麻生首相の熱意は冷めてしまったのだろうか。政治が主導しなければできない改革であり、あらためて指導力を発揮してほしい。延長国会では一歩でも前に踏み込むよう、本格的な議論を望みたい。
インド最大の経済都市ムンバイで武装集団による同時テロが発生、真庭市出身の三十八歳の男性会社員を含む多数の死傷者が出る大惨事となった。無差別に人の生命を奪う卑劣な行為が、またもや繰り返されたことに強い憤りを覚える。
犯人グループは、駅や高級ホテルなど人の出入りが多い場所を複数狙って、銃や手りゅう弾で攻撃した。炎を上げる建物や血まみれで運ばれる人、逃げ惑う人たちで、街は恐怖と混乱に陥った。犯人グループの一部は、人質を取ってホテルに立てこもった。
この事件で、三井丸紅液化ガス関東支店課長の津田尚志さんが腹部などを撃たれ死亡した。津田さんは、同社の日本人顧客が参加した視察旅行に同行して日本から現地に到着、ホテルでテロに巻き込まれた。突然の悲報に、東京の自宅に残された妻子の心痛はいかばかりか。
ムンバイは成長著しいインド経済の中枢で、日本をはじめ海外から多くの企業が進出している。外国人も多い経済の拠点を混乱させ、政府に打撃を与える意図があったのだろうか。
インドは分離・独立や宗教対立、経済成長に伴う貧富の格差拡大などの不安定要因を抱え、テロ活動が相次いでいる。最近は仕掛けた爆弾を爆発させる手口が主だったが、今回は銃や手りゅう弾で直接攻撃した。その意味は何か。犯人グループの実態や犯行の背景など徹底した全容の解明が求められる。
懸念されるのが、テロ活動の連鎖的な広がりである。インド政府は再び惨劇が起こらないよう警戒を強めるとともに、テロ活動の温床となりやすい貧富格差などの問題への対策にも力を注ぐことが必要だ。各国も連携を強めテロの防止に毅然(きぜん)として臨まなければならない。
(2008年11月28日掲載)