50.000種の産業利用ができる究極のバイオマス・エネルギー「麻」

万葉集に詠われた大麻 
万葉集は日本最古の歌集で、七〜八世紀頃の間に詠われた歌が約四千五百首収められています。詩形や内容は様々で、歌の作者は天皇から名も無い庶民までと幅広く、他の歌集には見られない独特さがあります。豊かでいきいきとしたそれらの歌からは、当時の様子をうかがい知ることができます。
 万葉集には百六十首ほどの植物が詠まれていて、当時、人々の生活に深く浸透していた麻は、約三十首の歌に詠われました。麻の丈夫で、すっくと生える姿が好感を持たれていたからでしょうか、柿本人麻呂、田部福麻呂など人名にも「麻」という字が使われました。また自分のことをいうときに「麻呂」といいました。
 ※麻の万葉表記―麻、朝、阿佐、阿左。別名―「を(苧、麻)」・「そ(麻、素、蘇)」

    そ をみのおすきみあま    いらご      たまも
打ち麻を麻続王海人なれや、伊良虞の島の玉藻刈ります
(巻一−二三)
 (打ち麻を)麻続王は海人だというのでしょうか 伊良虞の島の玉藻を採っていらっしゃる

「打ち麻を」は麻続王の枕詩。麻続王が島流しにあったのを土地の人が憐れんで詠んだ歌。朝続王のことはくわしく解っていないが、当時の政治に批判的だった為に島流しにあったのではないかを考えられている。

       あさで             あずまをみな
庭に立つ麻手刈り干し布さらす 東女を忘れたまふな
 常陸娘子(巻四-五二一)
庭に立ててならべてある麻を干して水でさらす。こんな仕事をしている東の国(東日本)の女を忘れないでください。当時、麻は種まきから収穫、製布まで女性の仕事であった。

     そ   うみかみがた    す               おと
夏の麻引く海上潟の沖つ洲に 鳥はすだけど君は音もせず
 (巻七−一一七六)
海上潟の沖の洲で鳥たちはにぎやかに騒いでいるけれど、あなたからは何の音沙汰もない。「夏麻引く」は海上潟(地名:千葉県銚子付近)の枕歌。  

           まな                        いも せ
人ならば母が最愛子そあさもよし 紀の川の辺の妹と背の
 (巻七−一二〇九)
人間でいえば母の愛しい子供たちだ、紀ノ川の傍の妹山と背山は。(あさもよし:一−五五参照)

       きひととも   まつち   ゆ  く
あさもよし紀人羨しも真土山 行き来と見らむ紀人羨しも 
調首淡海:つきのおびとあふみ(巻一−五五)
(あさもよし)紀の国の人がうらやましい、真土山を行き帰りに見ることができるんだろうなぁ。紀の国の人がうらやましい。「あさもよし」は紀(紀の国)の枕詩。良い麻の衣を産出したため。

        うみをか     かせ                みやこ
をとめ等が績麻懸くとふ鹿背の山 時の往ければ京師となりぬ 
田辺福麿歌集(巻六−一〇五六)
娘たちが麻糸を掛けるという鹿背の山も時が変わり都となった

あさごろもけ                 いもせ         わぎも
麻衣着ればなるかし紀の国の 妹背の山に麻蒔く吾妹 藤原卿(巻七−一一九五)
麻の衣を着ればなつかしくなる。紀の国の妹背の山で、麻の種を蒔いていた彼女が。

       にいしまもり       まよひ
今年行く新島守が麻衣 肩の紕は誰が取り見む (巻七−一二六五)
今年新しく派遣されてくる防人の麻の衣の方のほつれは、誰が繕ってあげるのか。

  を  をふ   しもくさつゆ
桜麻の苧原の下草露しあれば 明かしていけ母は知るとも (巻一一−二六八七)
桜麻の麻畑の下草に露が降りています。泊まっていけばいい、お母さんが知ってもいいわ。

                   お  つ        はた
かにかくに人はいふとも織り継がむ わか機物の白麻衣 (巻七−一二九八)
あれやこれやと人は言うけれど、織りつづけるよ、僕の機の白い麻の衣を。(人の恋愛に他人があれこれ言うけれども、僕は想いつづけるよ・・・)

  そび うなかみがた  す             よふ
夏麻引く海上潟の沖つ渚に 船はとどめむさ夜更けにけり (巻一四−三三四八) 
(夏麻引く)海上潟の沖の渚に船を泊めよう、もう夜がふけてきた。

     あさてこぶすまこよひ    つまよ
庭に立つ麻手小衾今夜だに 夫寄しこせね麻手小衾 (巻一四−三四五四)
(庭に立つ)麻のふとんよ、今夜だけでも妻を与えておくれ、麻のふとんよ。 「庭に立つ」は麻の枕詩。麻は収穫後、庭などに立てかけておくため。

        うなひ                              したは
夏麻引く宇奈比を指して飛ぶ鳥の 到らむとそよ吾が下延へし 
(巻一四−三三八一)
(夏麻引く)宇奈比に向かって鳥がいくように、私は心で思いつづけていた(あなたに会いにいけるように、恋慕っています)

かみつけのあそ まそむら   むだ  ぬ    あ      あ
上毛野安蘇の真麻群かき抱き 寝れど飽かぬを何どか吾がせむ
 (巻一四−三四〇四)
上野の安蘇に群生する麻を抱きかかえるように寝てもあきない君を、これ以上いったいどうしたらいいんだろう。
「上野の安蘇」は現在の栃木県。今でも麻の名産地。麻を収穫する時は、麻をまとめて抱きかかえ後ろへ倒れるように引き抜くが、その姿が男女の抱擁に喩えられた。

 などなど、切なくも素敵で、当時の人たちの生活、心情などが感じられるような歌が、まだたくさんあります。やっぱり、日本っていいなー。