地球環境と大麻の可能性
前田耕一(まえだこういち)
1950年大阪府生まれ。高校教員、NHKニュースキャスター・解説者、大学講師、ジ.ャーナリストを経て、現在、東京・下北沢で日本初の大麻の実を使った専門レストランを経営。大麻再合法化を目指す「日本大麻党」代表。
1998年8月、日本で初めて大麻の実を使った専門のレストランがオープンして話題を呼びました。
オーナーの前田さんは20歳の頃から世界を旅して、訪れた国は50カ国以上。そこで大麻と出会いました。興昧を持った前田さんはその歴史や有用性を知るにつれ、大麻はこれからの地球環境に大きな役割を果たすことを確信していきました。世界では大麻を見直す動きが始まっています。まだその有用性があまり知られていない日本で、様々な活動を通して大麻への理解を広げています。
大麻との出会いと環境問題
日本では、古来より大麻を神道の儀式や相撲の横綱のまわしに使っていますが、世界中のほとんどの民族が、神聖なものとして宗教儀式で使っています。それは塩などのように基本的に必要で恩恵をもたらすという意味で、何かを感じていたからだと思います。
僕にとって麻の体験というのは、日本人として大麻との再会といいますか。僕は外国旅行に行くようにしているのですが、そこで大麻と出会いました。インドやネパールにはその辺に生えていますから。これがかつて半世紀前には、日本のどこにでも生えていて、食料や衣類になっていたんです。その歴史などいろいろ調べてみると、とても価値のある植物でした。しかし戦後、アメリカの影響で大麻には厳しい規制ができ、自由に栽培することはできない状況になりました。
それまでは、機械油の90%が大麻の油だったんですけれども、石油化学工業が発展してきて、燃料としてしか使っていなかった石油からナイロンやプラスティックなど、いろいろな物ができるようになりました。そうして大麻に変わって石油が使われるようになっていきました。
しかし今、その石油が地球規模での環境破壊をもたらしています。なにも石油が悪いということではなく、偏重しているからですね。今はまだ石油の事を考えた開発ではなく、石油から便利なものを造ろうということしか考えていないので、バランスが崩れてきている。
今後考えられるのは地球環境問題に大麻が大きな役割を呆たすのではないか、ということです。種は食料に、茎からは繊維や燃料がとれ、プラスティック(生分解性)などもできる。そしていろんな物を取ったあとの最後のかすが紙になります。環境に優しく再生可能な植物として、大麻を見直そうという動きが世界的になってきました。やがて日本全体が大麻という植物をもう一度考え直すときが来ると思います。これまで日本では大麻についての報道はいい事なんて一つもなかったのですが、最近は少しずつ変わってきたと思います。
可能性を見える形へ
今迄僕は(大麻について)情報発信をしていたけれども、やはり見える形、ものとして提示していかないと、相手はなかなか納得されないし、産業や農業を変えるというなら、これからはその辺も証明していかないと。農業では過疎や減反になったりして休耕作地が増えていますが、そこにどのように麻を生かしていくことができるかということや、新たな工業製品などを作っていって、こういう可能性があるんですよ、というモデルを見せるということ。
そしてたくさんの人が着目するようになったら、あとはいろんな人が現れて、いろんな事を考えるようになります。僕が全部がやるというわけにはいかないし、する気も無いですから。そういう人達と一緒になってこちらの持っている情報や、あるいはそういう人達の持っているノウハウを結びつけて新しい動きを作っていけないか、というのが今後僕のやることです。
ここ(レストラン麻)は一種のモデルレストランですね。まだ大麻についてのその種子の栄養価とか、体に良くていろんな料理ができるということは、ほとんど知られていません。ここに関して一番敏感に反応したのは自然食の人達ですね。彼らのパーティーや農業に関わる人達の勉強会もありました。いろいろされている人達が集まるスぺースとして利用されています。営業的には儲かっていないのですが、価値のあることだと思っています。
時代の変革期に
これまでは石油の時代といわれる世紀だったのですが、一つの鉱物が地球上でそういう舞台へ踊り出してですね、流れからいえばその時代も仕方ないというか、意味のあることだったのでしょうね。ただ本当の地球規模、あるいは生命とかそういうところで考えると、地下の石油と地上で太陽の光を浴びて育っていくものとの底力の違いがあると思います。
歴史的にみてこれだけ厳しく禁止されても、わずか50年で復活してくるという、この麻の力強さですね。そしてなおかつ人々に恩恵を与え続けている。与えることしか考えいない。本当に…母の愛というのですか、植物の場合の。ありがたいことですよお。
おかげで僕は飯を食わしてもらっているわけで。 麻の恩恵を頂戴しているのです。健康になるとか生活が成り立つとか、環境に優しいとかそういう大麻のプラス面がだんだん明らかになってくれば、さらに多くの人がかかわ ってくるでしょう。それは大きな流れになって"ちから"になっていくことは明らかです。
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取材協力:レストラン麻 東京都世田谷区北沢2−18−5 北沢ビル3F TEL&FAX03−3412−4118/HP http://www.asanomi.jp/index.html |
近代社会と生命 植物は大地に根ざし、大空の下で静かにたたずんでいる。 そうして大地と宇宙の声を聞いている。 人々は太昔から植物に、何かしら神聖さを感じ取ってきました。薬草を摘むときには、その獲物に祈りを捧げたり対話をする人々がいます。日本では古い樹本をご神木として祭ることがあります。その中で大麻という植物は多くの儀式に用いわれてれてきました。 お盆の迎え火や送り火を焚く苧殻(おがら)、供物に添える苧殻箸は大麻の茎で作られています。また神社の注連縄(しめなわ)にも使われ、伊勢神宮には大麻幣(お札)や年に一度、大麻の布を供する、神御衣祭(かんみそさい)という重要な式典があります。また天皇陛下即位の儀式である大嘗祭(だいじょうさい)では、大麻で織られた麁服が皇居の神嘉殿に祭られました。 宗教的儀式で用いられるのは、それが見えない部分、例えば精神的な部分での役割があるということでしょうか。塩や水も多くの儀式に用いられますが、それは人問が生きていく為に欠くことのできない物として、見えないけれども、確実に存在するもの、例えば生命あるいは精神の象徴だとするなら、その象徴のひとつである大麻がほとんど姿を消してしまったということは、その社会において精神性、あるいは生命観が姿を消てしまったといえるのではないでしょうか。 現在大麻には厳しい規制が掛けられていますが、くしくも今世紀、日本では塩や水にも何らかの制約がかけられました。20世紀初頭、それまで普通に作られていた塩は専売公社の独占販売になり塩田は全廃されました(この法律は1997年に廃止)水道水には消毒のためとして、規定量の塩素が入れられています。 戦後敗戦国だった日本があれよあれよという間に先進国の仲間入りを果たすことができたのは、日本人の勤勉さで近代科学や様々な技術を吸収し、発展させることができたからでしょう。近代社会においては「目に見える事」「多くの物」が重要でした。物がたくさんあれば、お金を持てば幸せになれると。目に見えない物、精神性や生命などが入る余地はほとんどありませんでした。 そうして物質社会に突っ走り、多くの物に囲まれ、便利になって、ふと気づいてみると目の前にあったのは、コンクリートの壁、ぼろぼろに傷ついた自然、切れかけた人間同士あるいは他の生き物たちとの関係、さまよう大人、荒れる子供たち。 「何か違うんじゃないか?」人々は感じ始めました。そしてそれまで置き去りにしていた目に見えない物、「心」や「生命」に目を向けるようになりました。ここ数年「心の時代」といわれています。 近代社会はそれらを排斥することで発展した社会といえますが、これからは「心」あるいは「生命」観と、これまで築いてきた多くの技術を合わせていくという時代へ、変わっていくのではないでしょうか。そういう時代に大麻という植物と再会することになったのは、必然といえるかもしれません。大麻は多くの可能性を持っています。日本の優れた技術は、その可能性の多くを実現することができるしょう。そこに近代社会が忘れかけていた生命に対する畏怖の念を置き去りにすることがなければ、きっとうまくいくのではないでしょうか。 参考文献 麻薬の化学/一戸良行著(研生社) マリファナ・ブック/ローワン・ロビンソン書(オークラ出版) 植物の世界8、14/朝日新聞社 世界有用植物事典/平凡社 マリファナ/レスター・グリンスプーン、ジェームズ・バカラー著(青土社) 医療マリファナの奇跡/矢部武著(亜紀書房)他 |
地球環境と大麻の可能性 月刊「波動」1999年4月号より