ノート:心理学研究法(1)
お勉強ノートみたいなもの。
用いるテキストは、
心理学研究法 (放送大学教材) 販売元:放送大学教育振興会 |
これ。放送大学のテキストですね(2003年版)。内容的には、
心理学研究法入門―調査・実験から実践まで 販売元:東京大学出版会 |
この本とかなり重なっています。
放送大学のテキストは、スカパーなりケーブルテレビなりの放送授業(無料)と併せて学習出来るというスグレモノ。大学の先生が他分野の勉強をする時にもそうしている、というのも聞きますね。
では、始めます。
※参考・引用文献 『心理学研究法』 放送大学教育振興会
※htmlによる引用箇所以外でも、適宜文章を引用して用いている。
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まえがき(南風原朝和・市川伸一・下山晴彦)
▼心理学の研究は
経験に基づいて仮説を生成し、その仮説をさらに新しい経験によって検証しながらより精緻なものに鍛えあげていく活動
▼研究領域
知覚・思考・記憶・学習・発達・性格・人間関係 など広範囲。対象も、乳幼児や、人間以外の動物にわたる。
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第I部 序論
○第1章 心理学の研究とは(市川伸一)
§1 心理学は何をどう研究するのか
▼文学、哲学と心理学との違い
作家――日常的な経験の中から、人間性というものについて深く理解し、それを文学作品として表現しようとする。
心理学――ある心理的な現象がどのようなしくみから起こるのか理論を立てて説明しようとする。直接的・説明的・論理的。
哲学者――人間の認識活動、感情や欲求についての様々な理論を構築。思索的方法。
心理学――データを採る。実験・調査・心理テストなどを用いる。実証的方法。
哲学は思弁的で、心理学は実証的という事。また、心理学は経験科学ですね。共通点としては、当たり前ですが、どちらも論理的である事が重要。
心理学の多様な領域。基礎的―実践的。個人的―社会的。それぞれに方法的な特徴がある。
- 基礎的な分野(感覚・知覚・学習など)は、厳密なデータが採りやすく、法則や理論も立てやすい。大脳生理学とも密接な関係があり、自然科学的な方法論にのりやすい分野。
- 実践的な分野――教育心理学や臨床心理学など。理論をすぐにデータによって検証するのが難しい。
心理学が学際的領域だと言われるゆえん。基礎――応用 という分け方も。
▼意識、内観、行動
心理学の研究対象とは何か?
「心」?
では、心とは何を指しているか――「思い」、「考え」、「気持ち」など、一般的に、意識を指す。
19世紀に成立したと言われる近代心理学(補足:ヴント(Wilhelm Wundt)によるライプチヒ大学における心理学実験室設立が1879年)――心理学の対象を人間の意識と看做し、研究方法として、内観による報告という方法が採られた。
心理学史的には、この年が象徴的に、近代心理学誕生の年と看做せると思いますが、もちろん、精神(心理)物理学などの潮流も忘れてはなりません。いきなり新しい学問が出現する、なんて話は無いので。
意識主義、内観主義への2つの方向からの批判。
- 神経症治療の分野から発した精神分析からの批判――人間の行動について、意識にのぼらない「無意識」の膨大な領域によって規定されているとした。
- 行動主義心理学からの批判――心理学の対象として、外部から観察可能な行動(behavior)を研究し、法則性を明らかにして、人間以外の動物をも射程に入れた自然科学の一部門としての心理学が成立すると考えた。
象徴的には、精神分析ではフロイト、行動主義ではJ・B・ワトソン、となるかな。行動主義と一口に言っても、そんな単純では無い訳ですが。
2つのアプローチは、方法も体系も全く異なるが、行動を説明する構成概念が心であるとする点は共通(補足:行動主義は「構成概念」を認めているんでしたっけ?)。
直接観測出来ない心というものを構成概念として扱う、というのは、重要なポイントだと思います。
現在は、心理学の対象は、人間の精神的行動であるとされる。精神的行動には、比較的単純な行動(生理的反射・運動機能など)は含まない。
§2 行動の法則と説明概念としての「心」
現代の心理学――被験者の内観だけに頼った研究では無い。「行動」を見ていく事で、対象を、幼児や人間以外の動物にまで広げられる。
▼発達心理学から――乳児の図形の好み
乳児に対する言語的教示(「どちらの図形が好き?」)は、言葉が解らないために、不適切。→乳児が何を選ぶかとうい「行動」を観察してデータにすれば、何らかの法則を見つけ出せる。
様々な行動を、指標とする訳ですね。言語を理解出来ない乳児などを研究対象とする際には、これが重要。視覚的断崖の実験などは面白い。
Fantz(1961)の研究が紹介されている。色々の図形を見せて、「注視時間の割合」を見て、乳児の好みを探る研究。つまり、注視時間を好みの指標としてデータを採ったということ。その研究によると、乳児は、単純な図形よりも複雑な図形を乳児は好み、なかでも、人間の顔の絵が最も好まれる、というのが明らかにされた。※Fantz(ファンツ)の実験、とかでググってみて下さい。
▼学習心理学から――動物の学習の過程
動物に学習をさせる――芸を仕込むように、上手く出来たらエサなどの報酬を与える事を繰り返して定着させる(補足。強化や強化子。条件付けの理論など)。
スキナーのハトの実験とか、トールマンの迷路の実験とか。
人間――「ひらめき」つまり「洞察」という現象がある。動物にもあるか?
チンパンジーの洞察学習――手の届かない所に吊るされているバナナを取ろうとするが上手く取れないでうろうろする。が、しばらくして、下に置いてある箱を積み重ねて足場を作り、見事にバナナを取る。ゲシュタルト心理学者のケーラーによる実験が有名。
▼行動的データとしての内観報告
現代の心理学では、内観を全く使わないという訳では無い。
人間の意識とか心は、それ自体は客観的な存在ではないので、科学的な対象にはなりえない事が、改めて確認された、というのが重要。従って心理学者は、行動を説明するためのもの、つまり構成概念として「心」を捉えている。
内観報告も、言語報告(verbal report)という一種の行動的データとして扱う。それがそのまま心の仕組みを表しているのでは無い(被験者によるバイアスの混入)。発話プロトコル法では、考えている事を出来るだけ即座に言葉に出すのを求める事で、行動の理由を後から説明する際に入るようなバイアスを避けようとする。
心理言語学なんかでは重要でしょうね。認知心理学などでも、内観報告は用いられると思います。
§3 研究のすすめ方
心理学の研究は、データ収集―考察 とが行きつ戻りつしながら、次第に認識が深められているプロセスなので、単線的なものでは無い。ここでは、時間的に短い単位を取り出して、心理学の研究の進め方を大まかに見る。
別のエントリーの、論文の書き方のまとめなんかも、参考になるかも知れません。
▼問題の設定
何に関心を持ち、何を知りたいか――日常的な経験、調査・実験・実践、学術的文献の検討、などから。
自分はこの研究において何を明らかにしたいのか:リサーチクエスチョン
▼データの収集
方法
- 観察・面接の記録
- 自由記述の質問紙
- 段階評定式の質問紙
- 能力を測定するテスト
- 実験場面での正答率や応答時間
- 脳画像的なデータ(fMRIなど)
漠然とした関心や仮説は、データ収集の段階で、「どのようなデータによってそれを示すのか」という具体的方法に結び付けられねばならない。予備研究(予備調査・予備実験など)が重要。
どのような理論・仮説を立て、作業仮説をどうするか。つまり、この仮説が妥当ならば、この実験ではこういうデータが採れるであろう、という見通し。それが無いのに適当に実験してやろう、というのでは、意味が無いですね。どういう方法でデータを収集するか、というのもきちんと考える。
▼分析と解釈
データの分析と解釈。
数量的データ――統計的手法
仮説検証の一つの方法として、統計的検定が伝統的によく使われる。
最重要の道具。この方法を軽視する人も多いと聞きます。でもそれは、料理するのに包丁が要らない、と言うようなもの。せめて、統計的仮説検定の基本的論理は押さえておかないと、大変な事になりますよね。あらゆる実証科学の研究の成果をきちんと検討出来なくなってしまう。でも統計学は難しいんだな。
▼研究の発表
ゼミや学会での口頭発表、報告書や論文などの文章。
研究発表の意義として、
- 発表する事で、自身の考えの整理や再検討が出来る。
- 発表準備や論文執筆の段階で、主張が明確になったり新たな問題点が見つかる。
- 他者への情報提供。
- 他者からの意見を受けるという社会的コミュニケーションの機会。
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