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関西特集

街はいま

堺はソニーの城下町 (08/03/15)

 かつての大阪府堺市は白砂青松の町であった。大正時代には大阪商人が堺の浜寺に別荘を構えた。1906年に開校し、現在も続く水泳学校「浜寺水練学校」は全国にその名をとどろかせた。高度成長期には臨海部が国内屈指の重化学工業地帯となった。だが、その顔ぶれは急速に替わっている。地元の代表的企業だったダイセル化学工業は昨年、本社を堺市から大阪市に移し、その一方で、ハイテク銘柄のシャープが世界最新鋭の液晶パネル工場で進出し、そこにソニーも相乗りすることが決まった。堺は今、大きなイメージチェンジを遂げようとしている。(編集委員 竹田忍)

シャープ堺工場に資本参加

堺新工場への資本参加を発表するソニーの中鉢社長(左)とシャープの片山社長(2月26日)
堺新工場への資本参加を発表するソニーの中鉢社長(左)とシャープの片山社長(2月26日)
 イメージチェンジの引き金を引いたのはシャープが堺市堺区堺浜地区に建設中の世界最先端の液晶パネル工場「液晶コンビナート」だ。シャープはこれを別会社化し、ソニーが資本参加する。新会社の名称は未定だが2009年4月に設立し、世界初の第10世代マザーガラスを用いた液晶パネル製造設備を備える。出資比率はシャープが64%で、ソニーは33%とマイナーな立場だが、数字の多寡は問題ではない。堺における「SHARP」の一大プロジェクトに「SONY」の4文字が加わったことに意義がある。

世界に通用する「SONY」

シャープが建設中の堺の液晶パネル工場
シャープが建設中の堺の液晶パネル工場
 液晶テレビに経営資源を集中して業容を急拡大したシャープだが、世界のテレビ市場では依然としてソニーが圧倒的なブランド力を誇る。米調査会社、ディスプレイサーチの調べでは07年10−12月の全世界の薄型テレビの売上高シェアでソニーは19.5%を占め、0.2ポイント差で韓国サムスン電子を退けた。日本国内では強みを見せるシャープも世界市場ではソニーの後塵を拝し、10.1%にとどまっている。

 このソニーが堺で生産したパネルを用いて液晶テレビを作り、世界中に販売する宣伝効果は計り知れない。堺商工会議所は地元の優れた企業を「堺技衆」に認証してイメージアップと堺のブランド浸透を目指してきた。2006年10月からはご当地自動車ナンバーの「堺ナンバー」も登場したが、ソニーを通じての堺ブランド展開は、世界が舞台だけにスケールが違う。

06年からカメラレンズも生産

ソニー子会社が堺などで生産する一眼レフカメラ「αシリーズ」の交換レンズ
ソニー子会社が堺などで生産する一眼レフカメラ「αシリーズ」の交換レンズ
 実は堺におけるソニーの拠点は液晶パネルだけではない。デジタル一眼レフカメラ「αシリーズ」の交換レンズもまた堺で生産しているのである。ソニーの生産機能を担う「ソニーイーエムシーエス美濃加茂テック」の堺サテライトとして06年4月に稼動した。

 もともとフィルム式AF一眼レフの「αシリーズ」はミノルタ(現コニカミノルタ)が手がけていた。その資産をソニーが継承したことから、堺にある「コニカミノルタセンシング」(堺市堺区大仙西町)の本社兼「コニカミノルタオプト」の堺サイト内の1棟を借りて堺サテライトの生産ラインを設けた。

 ソニー製のα用レンズはこれまでに約100万本出荷している。海外でも生産しており、堺で作るのは職人技を要する多品種少量生産の交換レンズだ。ソニーのα用レンズの中には独カール・ツァイス社との共同開発モデルもあり、ツァイスが認定した国内工場で生産している。認定工場の所在は明らかにしていないが、今のところα用レンズの国内生産拠点は堺しかなく、言わずもがなではある。

 堺市内には大阪府立大学が立地し、私立大学も数校ある。すぐ北隣の大阪市住吉区には大阪市立大学がある。若者の間で人気の高いソニーをテコに大学生に対する求心力を高めることはできないだろうか。最先端分野の事業所が立地する堺は「ソニーの企業城下町になった」と宣言すればよい。新しい堺の誕生である。

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