いまや、医療費はGNPの多くを占めています。
日本では急激な上昇を見せて、現在のところ7%を越えています。米国ではすでに13.6%となっており、西暦2000年には20%になるとも予想されています。
1930年代までの医療のあり方と、現代社会での「病院」を中心にした医療の普及とは、大きな隔たりが見られます。また、「病院」が医療の中心に位置するようになってからもその運営方法には大きな変移が見られます。たとえば、入院日数は今後ますます短くなっていくでしょう。医療のイノベーションの発達と消費者のニーズが必然性を決定づけるからです。そうしてみますと、小規模の医院は経済的に成立たせていくことは難しいでしょう。
西暦2000年の病院運営のマスタープランは、以下の5形式に集約されると考えます。
1. 病床中心の伝統的な形式の医療施設
2. 回復期患者施設(骨折患者など) ←建設費用は従来の施設の4分の1です
3. 手術施設
4. 検査施設
5. 在宅ケアを含むリハビリテーション・センター
医療施設のコストを大幅に占めているものは人件費だとよく言われますが、一方でそれは間違った見方をしているとも言えます。高額機器に付随するものとしての人件費の増大という場合が、ままあるからです。その場合、全体の組織から機器の機能をチェックし、マネジメントすることが必要です。
私自身は50年来、医療施設のマネジメントに携わってきており、その経験から具体例を挙げましょう。米国のある医療施設でのことですが、超音波検査装置が各セクションで合計6ヵ所設置されていました。1台あたり3,000万円程度の機器ではありますが、それらに付随する人員が合計20人必要でした。また、これら6台の機器の利用率の平均は25%に過ぎませんでした。そこで、それらの業務を1台に集約させることによって、20人の専任者を5人にまで削減することができました。
医療コストが上がっていく原因は、人口の高齢化もさることながら、高額機器に関わるコストの高すぎることが問題なのです。
「日産」や「トヨタ」を例に挙げるまでもなく、普通、組織は設備投資を行うことで経済性を追及できるものです。しかし、世界中のあらゆる組織のなかで、ただ「軍隊」と「病院」だけが、設備投資を高めれば高めるほど、それに関わる人員も必要となる組織なのです。この認識が、医療人には不足がちなようです。
今後の動向として、ヘルスケア施設はますます重要性を高めていくことは確実です。人口の高齢化により、病気を持つ人々はますます増えるからです。
同時に、病院間の競争が高まっていきます。特に、都市部においては厳しい競争になるでしょう。
しかし、医療において「価格競争」に走ることは、非常に危険です。それは、「質」による競争へと向かうべきです。それぞれの病院の名声・評価が繁栄につながる競争こそが、健全なあり方です。
チューリヒの、とある大学病院の例を挙げましょう。この病院では自主的な標準化に「白内障の手術には9分以上かけない」「産褥後の発熱症状を出さない」「患者の待ち時間をチェックして、呼び出し後に1分以上待たせない」「呼び出しシステムを合理化する」などの項目を設け、7年間かかりましたが院内の変革をおこないました。その結果、以前には病床利用率が40%程度だったものが、80%という常時満室状態までもっていくことが出来たのです。
私も医者の家系に生まれた者なのですが、率直に言って、医療の組織というものはどの国でも「医者の気分を良くするシステム」のところが多いようです。このあり方を、「患者の気分を良くするもの」にシフト転換させていく気付きがもっとも大事なことだと思われます。
私は、特定の病院のマネジメント変革に関わるときには、はじめにその病院に3日間、入院することにしています。その経験から得られるヒントは計り知れないものだということを知っています。会場の皆様も、ぜひご自分の関わる病院以外で入院を経験されてみることをお勧めします。
ヘルスケアは社会全体のなかでとらえれば「20世紀の成功譚」であると言えます。しかし、ヘルスケアほどコスト面において間違ったやり方をしてきた組織もないのです。
とうとうヘルスケアは抜本的な改革のなされるべき時代へと突入しました。コストにのっとられて選択の出来なくなる前に、いまのうちに「ヘルスケア」と「コスト」のバランスをとることが必要なのです。 |