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社説

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ムンバイ・テロ―新興大国を襲った恐怖

 発展を続けるインド経済の中心地ムンバイで、大規模な同時多発テロが起きた。

 高級ホテルなどを自動小銃や手投げ弾を持った武装勢力が襲った。死者は日本人を含めて100人以上に達し、さらに宿泊客を人質に取った。許し難い蛮行というほかはない。

 ムンバイでは06年7月にも帰宅時間帯の列車を狙った連続テロ事件があり、約200人が死亡した。

 このときインド側は、パキスタンの情報機関やその影響下にあるイスラム過激派が関与したと非難し、パキスタン側は否定した。両国はカシミール地方の領有をめぐって長年争っており、関連するとみられるテロもこれまで多発してきた。

 昨年あたりからは、インド人のイスラム過激派組織が関与するとみられるテロも主要都市で続いている。今回はインド南部の高原「デカン」のムジャヒディン(聖戦士)を名乗る組織が犯行声明を出した。

 米英人を人質に取ろうとした手口からは、今回の武装勢力が「欧米支配への聖戦」を掲げる国際テロ組織アルカイダの影響を受けている可能性も指摘されている。

 テロに見舞われるインドの事情は、ますます複雑になってきたが、はっきりしていることがある。

 根底にあるのが国内の宗教対立だということだ。11億人を超えるインドの人口の8割はヒンドゥー教徒が占め、イスラム教徒は13%強だ。

 宗教対立による紛争では多くの場合、イスラム教徒が犠牲となってきた。新興経済国として急発展したもののイスラム社会は取り残され、ヒンドゥー社会との格差が目立っている。

 まずは過激派の温床となっているこうした問題にきちんと向き合い、社会の融和をはかることが必要である。

 インドとパキスタンとの間で関係改善の動きが強まってきたなかで、この事件が起きたことも無視できない。

 インドのシン首相とパキスタンのザルダリ大統領は9月に初めて会談し、カシミール紛争の和平交渉再開や、インドがパキスタンの関与を疑うテロについて、協議機関をつくることなどで合意した。今月にはザルダリ氏が、同じ核保有国として核の先制不使用を表明し、インドとの経済同盟の結成を呼びかけたばかりだった。

 今回の事件とパキスタン情勢との関係は不明だが、こうした雪解けの動きに水を差しかねない事態だ。両国の安定は、アフガニスタンでのテロとの戦いを進めるためにも不可欠である。

 インドは47年の建国いらい常に選挙で政権交代をしてきた「世界最大の民主主義」国家であることを誇っている。事態を早く収拾し、背景にある問題の解決に全力を挙げて欲しい。

財政赤字―新目標で政治の決意を

 ゴールをめざし四苦八苦しながら進んできた。米国から津波が襲ってきたからといって、投げ出していいのか。

 政府の財政再建への取り組みには、そんな不安をもたざるを得ない。

 「基礎的財政収支」を11年度に黒字化する、という目標を小泉政権が06年に打ち出した。国債の利払いや返済を除けば、借金に頼らず支出をまかなえる状態にすることだ。以来、公共事業費や社会保障費を削り歳出を抑制して財政赤字を縮小してきた。

 しかし、ここで様相が一変した。

 米国発の金融危機をきっかけに景気が失速し、法人税収が落ち込んできたのだ。今年度の税収全体は当初予算を6兆円程度も下回りそうだ。当初予算で5.2兆円の赤字だった基礎的財政収支は大幅に悪化する。不足する財源の確保のため、来月に編成する補正予算では、赤字国債の発行増に踏み出さざるを得なくなっている。

 景気の後退はまだ入り口なので、来年度の税収はもっと落ちるだろう。一方の歳出は、景気対策のため当面は拡大するのが避け難い。

 「11年度に黒字化」の目標達成はもはや不可能に近い。健全化目標は有名無実化した、といわざるを得ない。

 しかし政府は、こうした現実に対して正面から取り組まず、目をそらそうとしているように見える。

 たとえば、今週まとまった財政制度等審議会の意見書は、健全化目標の「堅持」を求めるというこれまでの表現から、「目標達成に向けた取り組みを怠ってはならない」と軟化させるだけで、やり過ごした。

 日本は、国と地方を合わせた長期債務の残高が国内総生産(GDP)の1.5倍近くある。主要先進国で最悪の財政だ。歳出の削減が続き予算要求の圧力が高まっているなかで、守れもしないルールを形だけ掲げていると、堤防が破れたときのように、赤字が一気に拡大する危険がある。

 当面の景気や国民生活を支えながら、赤字を中期的に縮小し財政を再建していく。この二つを両立させるには、厳しくかつ柔軟な新目標が不可欠になっている。同時に、政策に優先順位をつけ、定額給付金のような愚策を排除する決意が政治に必要だ。

 欧州連合は毎年の財政赤字をGDPの3%以下に抑えるよう加盟各国に課している。だが、経済成長がマイナス2%を超える不況になったら、このルールを外す例外条項がある。

 ルール作りは政府与党だけの問題ではない。政権交代をめざす民主党にはいいお手本がある。英国労働党は97年に政権奪回する際、公約で財政支出に厳しいタガをはめ、赤字拡大に不安をもつ産業界や金融界を納得させた。

 自民、民主両党は、いまこそ新ルールの提案で競い合う時である。

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