麻生太郎首相は、追加経済対策の裏付けとなる二〇〇八年度第二次補正予算案を今国会に提出せず、年明けの通常国会に先送りする方針を明らかにした。
未曾有の金融危機への対応から「景気対策優先」を繰り返し強調し、衆院解散・総選挙を先送りしてきたはずなのに、どうしたことだろう。今国会への提出見送りは筋が通らず、「言行不一致」と批判されても仕方あるまい。
首相は先送りについて、二次補正には定額給付金などの生活対策、〇八年度の税収不足への対応などが含まれ「今すぐは、なかなかまとまらない」と述べたが、納得いかない。最大の理由は、給付金などをめぐる迷走劇の追及で「ねじれ国会」の泥沼に引きずり込まれるのを警戒しているからだろう。
二次補正提出の先送りを受け、民主党はインド洋での給油活動を延長する新テロ対策特別措置法改正案と、金融機関に対する予防的な公的資金投入を可能にする金融機能強化法改正案について、参院での採決には応じない構えだ。
与党は三十日に会期が切れる今国会の会期を延長せざるを得なくなった。延長幅については、二つの重要法案の衆院再議決が可能になる来年一月五日ごろまでとする方向で検討されている。ただ、会期が延長されても国会が機能しない状況に陥れば、衆院再議決まで政治空白が長引くだけとなろう。
金融危機の影響は日本の実体経済へも波及している。景気の先行きは極めて厳しい。金融法改正案の採決が難航すれば、中小企業の資金繰り懸念が高まる恐れもあろう。
それにしても、このところの麻生首相の迷走ぶりは目を覆うばかりだ。定額給付金問題での対応のまずさに始まり、道路特定財源の地方への配分や日本郵政グループの株式売却問題をめぐる発言を二転三転させるなど、ぶれが目立っている。失言も絡んで与党内でも麻生離れに拍車がかかっており、求心力の低下は否めない状況だ。
会期延長が見込まれる今国会で与野党が全面対決する構図になれば、その混乱は通常国会へも波及し、〇九年度予算案や関連法案への影響も避けられまい。政治の閉塞(へいそく)感は深まるばかりで、ますます政治不信を助長させることにならないか。
二十八日には麻生首相と民主党の小沢一郎代表との初の党首討論がようやく実現することになった。両党首は与野党の垣根を越え、危機に対処するためにいま何が必要なのか、堂々と議論を展開させるべきだ。
残留農薬やカビ毒に汚染されたコメの不正転売事件で、原因や行政の責任を調べてきた内閣府の有識者会議が報告書をまとめ、野田聖子消費者行政担当相に提出した。事件の背景について、国民の「食の安全」につながっているという自覚や責任感が欠落していたとし、農林水産省の職務のあり方を厳しく指弾している。
有識者会議は、弁護士や大学教授、消費者団体代表ら八人で九月十九日に発足した。報告書が特に強く批判したのがコメの販売や流通の管理を担当する農水省・総合食料局だ。「汚染米の有害性を認識していながら、安全確保より早期売却を優先した」と断じ、同局幹部の責任が最も重いと結論付けた。さらに、汚染米の食用流用防止のため、有効な手段を何一つ講じなかったとして、当時の幹部の責任の重大さも強調した。
また、歴代の農相と農水事務次官に「強い反省」を求めた。汚染米の売却先の米粉加工販売会社「三笠フーズ」に対し、漫然と検査を繰り返し、不正を見抜けなかった福岡農政事務所の幹部の責任にも言及した。
農水省が、農水産物などの「食」にかかわる官庁であるにもかかわらず、安全性がおざなりだったことには驚くほかない。一方、三笠フーズは今回の件で信用低下を招き、取引先から違約金や賠償金を請求されて資金繰りが悪化、破産を申し立てた。不正な取引による代償は大きいといえよう。
関係業者への甘い姿勢、省益への固執など、霞が関特有の官僚体質も見逃せない。関係した職員を厳正に処分するのは当然として、「食」を預かる重責を職員一人一人があらためて自覚し、省を挙げた意識改革が求められる。まずは失った信頼の回復に努めることが必要だ。
(2008年11月27日掲載)