桜井淳所長の最近の講演内容-現代の理論的諸問題、特に、不確実性の大きな原発災害評価の難しさ-
テーマ:ブログ【講演要旨】原子力発電所の安全審査では、冷却材喪失事故(Loss of Coolant Accident ; LOCA)時に緊急炉心冷却装置(Emergency Core Cooling System ; ECCS)の的確な作動等により、炉心溶融は、防止できるとの考え方、すなわち、炉心は、溶融しないことを前提にしていますが(スリーマイル島原子力発電所2号機の炉心溶融事故は想定外事故と位置付けています、佐藤一男『原子力安全の論理』参照)、ただし、環境被ばく評価のためには、機械的に、ある量の放射性物質の放出を想定しているとしており(伊方原発行政訴訟における内田秀雄原子力安全委員会委員長の証言、「伊方行政訴訟ニュース」参照)、もし、炉心溶融を想定したならば、軽水炉技術は、成立せず、立地が困難になるために、この条件は、軽水炉による原子力発電を推進する原子力界にとっては、生命線となりますが、反面、矛盾する事項、すなわち、
(1)炉心溶融しなければ、放射能放出がないために、建設コスト増につながる原子炉格納容器の設置の必要性はなくなりますが、そうしていない、
(2)炉心溶融しなければ、原発災害は、考えなくても良いのですが、実際には、原発災害の発生への備えとして、電力会社の負担を軽減するための措置として原子力損害賠償法制度を設けています、
を抱えており、何が実で何が虚か、分からない世界ですが、本音は、発生確率は、低いかもしれませんが、炉心溶融は、起こりえるため、原子炉格納容器を設置し、原子力損害賠償法も設け、万一のための"保険"としており、実際に、巨大な原子力発電所の炉心溶融のシーケンスの摘出と発生確率の算出は、簡単なことではなく、米原子力委員会が実施した「原子炉安全性研究」(WASH-1400(1975)、WASHとは、原子力委員会本部の設置されていたwashingtonの略)において、米原子力委員会は、世界で初めて、NASAで開発された"事象の樹"(event tree)と"失敗の樹"(fault tree)という分析手法の組み合わせにより、炉心溶融に結び付く代表的なシーケンスを洗い出し、その発生確率を算出し、その後も、原子力規制委員会が引き継ぎ、米国の代表的なPWRとBWRの炉心溶融確率と影響を評価しましたが(NUREG-1150(1990)、NUREGは、原子力規制委員会の英語名のNuclear Reguratory Commissionの略)、災害評価の結果は、いずれも検討途中にあって改善の余地のある適用された手法・モデル・採用された定量評価数値により、非常に甘い条件と非常にきびしい条件の間には、数桁の差も存在しており、まだ、最適条件とか最適推定結果・影響は、分かっていませんが、巨大な原子力発電所の安全性を科学的な手法と数値で示せるようにしたのは、その信頼性にかかわらず、手法の進展という意味では、「原子炉安全性研究」は、歴史的出来事であり、それを批判的に再検討した米国物理学会報告(Report to the APS by the study group on light water reactor safety, Rev. Mod. Phys., Vol.47, Suppl. No.1, Summer(1975))も参考になり、そこに記された公式を利用すれば、たとえ、専門的な知識がなくても、原子力発電所・核燃料再処理工場・原子力空母の想定事故によって放出される放射性物質による災害結果を計算することは、簡単にできますが、放出量・天候・風速・人口密度等の計算条件によっては、数桁も結果が異なり、形式的に数字は、算出できるものの、結果の評価は、誰にも的確にできないというのが現状であって、WASH-1400(1975)・NUREG-1150(1990)・瀬尾評価(その後継者の結果も含む)が、過大評価とも過小評価とも断定できず、いまのところ、手法の開発中であって、改良すべき点を摘出し、特に、瀬尾評価では、不確定因子をパラメータにした感度解析や発生確率を組み合わせた最適評価の可能性を模索するしかなく(先端の確率論的安全評価によれば、炉心溶融発生確率は、年間平均マイナス6乗以下であり、原子炉格納容器が破損するのは、それより一桁低いと推定されており、よって、放射性物質大量放出の発生確率は、年間平均マイナス7乗以下となり、工学では、そのオーダーの現象は、実際には起こらないとして、工学的安全対策を施さない方針ですが、そのことは、絶対に起こらないということではなく、過去の例からして、たとえ、それ以下の発生確率の事象でも発生していますので、単純な議論は、できませんので、注意してください)、瀬尾コードがWASH-1400(1975)に先駆けて作成されたことを考慮すれば、歴史的位置と学術的評価は、たとえ、両者に部分的修正を必要とする箇所があったとしても、評価し過ぎてし過ぎることは、ないように思えます(原子力産業界の一部の人達は、瀬尾評価が桁外れの過大評価になっていると批判していますが、それ以上に、炉心溶融しないとして今日まで軽水炉の災害評価を怠ってきた関係省庁・原子力研究機関・原子力界の人たちこそ、批判されるべきです)。
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