前橋赤十字病院(前橋市)と群馬大医学部付属病院(同)が12月から、夜間や休日に救急外来を受診し、軽症と診断された患者から時間外料金を徴収する。軽症患者の「コンビニ受診」を抑制し、救急の当直体制を立て直す狙いがあるが、一方で地域の住民らからは「病院によって差が出るのは不公平」「軽症の基準が分からない」と導入前から不満の声が漏れている。【伊澤拓也】
徴収するのは平日の診療時間外に救急外来を受診し、緊急性がなく、入院の必要性もないと診断された軽症患者で、他の病院から紹介状を持参した場合は除く。従来は健康保険から徴収してきた料金を「患者負担」とし、金額は前橋赤十字が3990円に、群大付属が4200円に設定した。
増え続ける軽症患者の救急外来受診を抑えるのが目的で、既に導入した病院では「時間外の患者が4割近く減った」との効果も報告されている。軽症患者が減れば、重症患者の治療に傾注でき、病院側も「質の高い医療を維持するためにはやむを得ない」(群大病院)と苦肉の策であることを強調する。
これに対し、住民の反応は負担増に対する否定的な意見が多い。群大病院で受診した前橋市青梨子町の主婦(57)は「重症だと思っても、軽症と診断されれば支払うのは納得がいかない。不安だから病院に行くのに……」と憤る。6月に8400円の時間外料金を導入した山形大医学部付属病院では、患者と料金を巡るトラブルが数件あるという。
両院はいずれも県内に3院しかない3次救急病院に認定されている。残る国立病院機構高崎病院(高崎市)だけは「結果的に軽症だったとしても、受診を希望する患者は全員受けさせる」(管理課)と導入の予定はないとしている。
ただ、3院の対応が分かれたことで、高崎に患者が集中するなど地域間に「格差」が生じる懸念もある。日本救急医学会の山本保博代表理事(東京臨海病院長)は「一般的には、3次病院で受診する軽症患者が減れば、地域医療は健全化する。しかし、近隣病院で料金に差が出た場合、地域によっては不公平感が残る可能性がある」と指摘する。
県医師会の松井清和事務局長は「時間外料金でどの程度患者数に変化があるのかは未知数。地域の医療バランスが崩れないよう注意する必要がある」と話す。
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■ことば
日本の救急医療制度では、入院不要な救急患者を外来診療する医療機関を「初期」(1次)、入院が必要な患者に対応する病院を「2次」、さらに重症で命にかかわる患者を治療する病院を「3次」(救命救急センター)と呼ぶ。厚生労働省は全国で203病院を救命救急センターに認定している。
毎日新聞 2008年11月27日 地方版