ITpro Special ITpro
ガラパゴス日本からの脱却
単なるオフショア開発を超えた経営ツールとしての価値を提供する 世界中で均質のスキルを提供するために展開しているIBMのGlobal Delivery Center(GDC)。そこで提供されるサービスは,いわゆるオフショア開発とどう違うのか。ユーザー企業は何を期待しているのか。中国を拠点とし,日本と韓国の企業を対象にサービスを提供するIBMの「China Global Delivery Center」の例を通して,Global Deliveryの現状や優位点を考察する。 全員がIBM社員であることと,“IBMのブランド”が強みに
佐々木順子氏

GDCの要員は世界に約4万人います。そのうち中国にいるスタッフは4000人強で,世界で2番目の多さです。その過半数が日本企業向けの仕事をしています」と,IBMチャイナ・グローバル・デリバリー 執行役員 ジャパン・デリバリー・リーダーの佐々木順子氏はChina Global Delivery Center(CGDC)の位置づけについて説明する。

CGDCは中国IBMの100%子会社だが,機能としては「世界のGDCネットワークの中の中国部門」であり,主に日本と韓国向けのビジネスを担当している。佐々木氏は,日本向けビジネスの責任者として日本IBMからCGDCに出向している。

CGDCは1999年に深■(しんせん)に開設され,その後,上海,大連,成都に拠点を展開。年内にもう1拠点増える予定となっている。4000人の多くは上海と大連の拠点に在籍しており,「日本向けビジネスの担当者は日本語の読み書きができ,会議なども日本語で進められています」(佐々木氏)と,スタッフの日本語教育も行き届いているという。

そのCGDCの強みについて佐々木氏は次の2つの点を挙げる。「全員がIBMの社員であること,そしてブランドイメージがいいので優秀な学生が採用できること」だ。

全員がIBMの社員であるため,共通の方法論やツールが適用され,考え方やセキュリティ基準も世界中で同じレベルに保たれている。「過去のしがらみがない分,日本よりIBMスタンダードに馴染んでいると思います。インドの技術者たちともシステムという同じ言語を介してコミュニケーションしています」(佐々木氏)と,IBMスタンダードの強みを実感しているという。

また,中国でIBMブランドのイメージがよいことがCGDCの大きなメリットにつながっている。「中国でビジネスをするためには,政府や大学とのリレーションが重要になりますが,IBMは90年代から中国市場に投資を続け,良好な関係を築いてきました」と佐々木氏。地方自治体や大学と共同でETP(IBM Experienced Training Program)というトレーニングセンターを展開し,高い人気を得ているようだ。

「ETPは中国全土8カ所で9カ月間開催され,毎年数百名の理系の学生がトレーニングを受けます。前面に出ているのは政府と大学で,IBMは講師派遣などの内容面を支援していますが,これによって認知度を高めることで優秀な学生の採用につながっています」とETPのメリットを語る。中国では優秀な人材が理系に進んでいるが,その中でもトップクラスの学生が採用できるという。優秀な人材は質の高いビジネスに直結する。

(※■はつちへんに川)

CGDC大連とCGDC上海
4つのポイントから見るユーザー企業のCGDCへの期待

通常のオフショア開発では「コストダウン」が目的とされ,中国企業が日本企業のやり方に合わせることが多い。しかし,CGDCの場合は様相が異なる。日本からの仕事は日本IBMを通じて受ける形となるが,ユーザー企業の認識も通常のオフショア開発とは異なるという。「単なるコストダウンではなく,IBMの持つグローバルスタンダードやグローバルな事業展開に期待するお客様が多い」と佐々木氏は指摘する。

「日本のユーザーがCGDCに期待する点を整理すると,それは4つあるのではないでしょうか」と佐々木氏。1つめはスキルの量と柔軟性だ。突発的で大規模なニーズにもスピーディーに対応できる。数百名単位の人材であっても迅速に確保できるのが日本国内との違いだ。2つめはグローバルスタンダードなノウハウ。日本ではなかなか導入しづらいプロセスやメソドロジーが使われている実態に触れることで,CMMI(Capability Maturity Model Integration。ソフトウェア開発の組織能力を評価するための基準)などへのきっかけを作ろうという意識が見られる。

「3つめは属人化の排除です。ITの見える化といってもよいかもしれません」と佐々木氏は説明する。CGDCを活用することで自社のITの棚卸しを行い,これまで不透明だったITの費用対効果を検証したり,外部委託への線引きを検討し,次の戦略につなげようという取り組みだ。4つめはグローバル対応。グローバルに事業を展開している企業が海外進出にあたって世界中どこでも均一のプロセスやサービスの質をIBMに求めるケースだ。

「これらのケースに共通しているのは,GDを目的ではなく,ビジネス上の目標を実現するための手段と考えていることです」と佐々木氏。柔軟性のある開発力の確保,グローバルスタンダードの採用,ITの見える化,グローバルな対応力。これらは課題解決のための手段である。

市場,競合,人材がグローバルビジネスを生き抜くキーワード

CGDCへの期待」に見られるように,海外にIT業務を委託するユーザー企業のニーズは大きく変化してきていると佐々木氏は実感している。「以前は下流工程のコストを抑えたいというイメージが強かったのですが,最近では要件定義や設計業務,アプリケーションの運用デスク業務などもやらせていただくようになってきています」と佐々木氏。また,リスクヘッジとして複数拠点にITを分散することを目的にGDを検討するケースも出てきているという。

佐々木氏は,こうしたユーザー企業の変化の背景にはユーザー企業自体がグローバル化を視野に入れるようになったことや,自社がグローバル化していなくてもグローバル企業を相手に競争しなければならない状況があるのではないかと指摘する。日本企業が否応なくグローバルな競争環境に置かれている現実がGDへの期待度を高めているのである。

「グローバル化は人材面でも進んでいます。グローバルレベルでの優秀な人材の獲得競争という要素もお客様の変化の背景にあると思いますね」と佐々木氏は推察する。人材不足が表面化している日本のIT業界の課題を解決するにはグローバルレベルでの対応策が必要であり,そのためにGDが注目されているという側面は強い。

また,世界中から人材を受け入れるという意味ではビジネス環境をグローバルスタンダードに対応させておく必要がある。それもGDに期待されているメリットのひとつだ。「市場,競合,人材のグローバル化がグローバルビジネスを生き抜くキーワードです。GDというサービスを通してこれらのキーワードに対応した支援を展開していきたいと考えています」と佐々木氏。日本企業にとって弱点を補強するために,GDをどう活用していくかを真剣に考えていくべきだろう。

お問い合わせ



▲pagetop
ITproについて会員登録・メールマガジン購読ITproプレミアム(有料サービス)MyITproについてITpro Researchについて
ITproへのお問い合わせ・ご意見日経BP書店日経BPケータイメニュー広告について
著作権リンクについて|個人情報保護方針/ネットにおける情報収集/個人情報の共同利用についてサイトマップ
プライバシーマーク

日経BP社Copyright (C) 1995-2008 Nikkei Business Publications, Inc. All rights reserved.
このページに掲載されている記事・写真・図表などの無断転載を禁じます。著作権は日経BP社,またはその情報提供者に帰属します。
掲載している情報は,記事執筆時点のものです。