古賀
経理システムのメインフレームからの全面再構築においてオープンシステムのERPを導入するという今回のシステム刷新は思い切ったご決断でしたね。業界トップの御社が導入に踏み切ったということは,大きなインパクトがあったと思います。
森脇
メインフレームの経理システムは,開発から30年近く経過していてメンテナンス性に問題がありました。金融商品取引法により,2008年から四半期決算を45日以内に開示しなければならなくなったことがシステム刷新の発端でした。
刷新にあたっては,45日開示に対応するだけでなく,今後のグローバルな事業展開を考えてどんなインフラが必要かを検討しました。そして,世界のトッププレイヤーが使っているシステムという意味で“グローバルスタンダード”がキーワードでした。
たまたま同じ時期に社内のフロント業務やミドル業務の事務処理システムを抜本的に見直すというプロジェクトも進んでいて,経理システムまで刷新するというのはリスクが大きすぎるという意見もありました。そこで,1次開発は最低限必要な財務会計まわりに対象を絞り込み,それがうまくいきそうなことを見極めたうえで税務対応や既存システムのクロージングを含んだ1.5次開発に着手するという計画でコンセンサスを得ることができました。
古賀
45日開示への対応や国際会計基準対応といった制度改定やグローバル化への動きは今後も進んでいくはずです。そこではさらなる拡張が求められますから,将来的に柔軟に対応できる基盤が必要だという認識はまったく同じですね。
森脇
まずメインフレームで開発するのか,ダウンサイジングするのか,銀行業界や証券業界を中心に他社事例をヒアリングした上で,自社の状況を鑑み最終的にメインフレームからの決別を決めました。その上でグローバルスタンダードにはこだわりましたね。
企業の経理システムの世界ではSAPとOracleが2大巨頭ですが,金融業界ではOracle EBSが圧倒的なシェアを持っています。私たちもパイロットスタディをして比較検討した結果,Oracle EBSを選定しました。
古賀
2007年10月から正式にOracle EBSのプロジェクトとしてスタートしましたが,当社をパートナーに指名いただいた理由はどのあたりにあったのでしょうか。
森脇
IBMをパートナーに選んだのは「メインフレームがわかっていて,オープンシステムにも強かったから」です。現行システムを移行するには,メインフレームの仕組みを理解していることが必須です。また,SAPとOracleのどちらにも対応してもらえることはわかっていましたし,ERP導入に関して豊富な経験・実績を持っています。
ERPパッケージを入れる場合には,自社開発の場合と比べて,最適なソリューションを探すこと,つまりBPRも含めてパッケージの機能にあわせていくか,自社要件を優先してアドオン開発を行うかを決定していくことが最も重要です。手を入れ過ぎてしまえば将来的な拡張に対応できなくなってしまい,グローバルスタンダードのメリットがなくなります。最適なソリューションを決めて行く過程においてIBMの経験やノウハウに期待する部分が多分にありました。
古賀
損保業界の特殊な会計処理を鑑みてもERPパッケージが100%フィットすることはありえませんからね。最適なソリューションを決めるうえで参考になるのはやはり成功事例です。その意味でも製品そのもののシェアが高いことは重要です。ベストプライクティスからプロジェクトに適用できそうな事例をソリューションとして提供できますから。IBMは成功事例を数多く持っていますが,それがプロジェクト成功要因でもあるのです。
森脇
また,開発を短期集中型でやりたいと考えていて,信頼できる開発部隊が必要だったという理由も大きかったですね。他社の事例などから半年というのが自分の中で1つのメルクマールになっていました。年明けから設計をスタートして8月には本番環境で動かすという必達目標を立てたためにミスは絶対に許されない状況だったのです。
特に1次開発は半期決算を新システムで並行的に行うために8月までに稼動させることが必須であり,かなり神経を使いました。Global Delivery(GD)もご提案をいただいていたのですが,1.5次開発から活用することにしました。グローバルの開発部隊を活用するというのは私たちにとって大きなチャレンジでもありましたからね。
1次開発でIBMのプロジェクトメンバーの実力もわかってきたので,7月くらいから1.5次開発に着手してGDを活用するという提案をお受けしました。
森脇
GDについてコストメリットがあることは以前からわかっていましたが,レスポンスやドキュメントなど,やはり不安な点はありました。ただ結果としては,日本の開発部隊と比べてまったく遜色はありませんでしたね。
古賀
私たちとしては,All IBMとしてOne Teamでプロジェクトを進めることを最も重要視しました。物理的な距離はありますから,中国に足を運んでこのプロジェクトの重要性や進め方についてしっかりと共有しました。
One Teamとしてのオペレーションの土台の次に考えたのは,情報格差をなくすことです。定期的なコミュニケーションはもちろん,こまめに電話やメールで連絡を取り合い,国内のメンバーと変わらないレベルで情報を共有しました。自分たちの担当領域だけでなくプロジェクト全体の中での位置づけを,GD側にも意識してもらうということを常に考えていましたね。
情報共有のためのツールは十分にありますが,大事なのは全員の意識です。依頼して任せきりにすることや,業者的に仕事を押しつけることを行うと失敗するということが肌感覚でわかっていましたから,One Teamオペレーションにはこだわりました。プロジェクトの全体感を共有できたことが良かったですね。トラブルがあった時も真摯に対応してもらえました。
森脇
そうしたやり取りは私たちにはまったく見えない部分でしたが,IBMのマネジメントは信頼していました。進捗報告の際に,GDのところで遅れがあるとやはり気を遣いましたが,トータルで見てGDだから違ったというところはありませんでしたね。
品質が変わらずに低コストなわけですから,バリューは十分にあったと思います。現段階では,まず国内のインフラを今後のグローバル展開に向けて整備したところです。これからはグローバルでの連結を視野に入れた取り組みを行う必要があり,海外を含めた経営管理インフラの整備が急務になってきます。そこでのキーワードもグローバルスタンダードです。パートナーはまだ決めていませんが,目下IBMさんへの信頼は絶大です。最後の底力を高く評価しています。
古賀
GDを含めて全世界で最適なデリバリー体制を実現できるというのがIBMの強みです。今後のグローバル展開において,その強みを十分に発揮できると考えています。
今後ともパートナーとしてご一緒できるように頑張ります。本日はありがとうございました。
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東京海上日動火災保険株式会社
2004年10月1日にミレアホールディングス傘下の東京海上火災保険と日動火災海上保険が合併して発足した日本最大手の損害保険会社。総資産10兆8,895億円,従業員数1万5,263人(2008年9月現在)。2006年4月から「お客様本位」をあらゆる事業活動の原点においた3年間の中期計画“ステージ拡大2008”を実施している。
本店所在地 東京都千代田区丸の内一丁目2番1号
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